コロナ禍における草の根技術協力事業の挑戦【vol.2】

新型コロナウイルス感染症は世界中に大きな変化をもたらしました。現地で人々に寄り添い、きめ細かな支援を行うことが特徴の草の根技術協力事業も多大な影響を受けました。いまだに現地への渡航が難しく、計画どおりに活動を実施できない状態が続いていますが、コロナ禍に負けず、支援を止めないよう様々な工夫が行われています。今回はスリランカ、バングラデシュ、カンボジアのプロジェクトでのコロナ禍の取り組みをご紹介します。

2021年12月9日

サリーと女性たちの力でコロナ禍を乗り切る  

2015年から2018年まで実施されていた「内戦復興における女性のエンパワメント -サリー・リサイクル事業-」。スリランカの北部にある漁村地域で、安定的な収入源を持たずに経済的に困窮した生活を送る女性たちの生計向上を目指し、民族衣装サリーをリサイクルした縫製品の製作・販売の支援を実施していました。女性たちが製作したエコバッグなどの製品は観光客向けのお土産としても販売され、女性たちの社会参加にもつながりました。

サリーをリサイクルしたバッグ

プロジェクト終了後も現地団体と村の女性たちによって続けられていたサリー・リサイクル事業ですが、2019年に発生したテロ事件以降観光客が減ってしまい、古着サリー製品の販売数も減少。さらに新型コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受けて、感染予防の観点から古着の寄付数も減り、製品制作自体が難しくなってしまいました。そこで実施したのがコロナ禍の市場調査と女性たちのさらなる技術向上のための縫製技術強化研修です。コロナ禍のマーケットニーズに対応するため、これまで販売経験のある現地の店を対象に市場調査を実施。現地団体や現地縫製講師と協働して古着サリーと綿布を組み合わせることで回収が難しくなってしまったサリーの使用量を減らした新製品も開発しました。また、4つの村で実施した研修には4日間で計30名の女性が参加し、前プロジェクトに参加していなかった新しい女性たちの参加も見られました。サリー・リサイクル製品だけでなく、他の縫製品を作る能力を身に着けたいと意欲の高い女性たちも多く、引き続き女性たちの生計向上につながるよう、日本から現地団体と協力して支援を続けていきます。(実施団体:特定非営利活動法人パルシック)

感染予防と防災を両立させるために

度重なるサイクロンの襲来で甚大な被害が出ているバングラデシュ。南部のバゲルハット県、特にベンガル湾に面している沿岸部において、地域で防災に取り組むため、「サイクロンに強い地域・人つくりプロジェクト -サイクロン常襲地で、地域全体で防災、減災力を高めます-」が実施されていました。日本の学生対象の防災アイデアコンテスト「ぼうさい甲子園」を現地行政防災担当者が視察、バングラデシュ版にアレンジした「DRR(*) Olympic」 を2年連続で開催するなど、順調に進んでいたプロジェクトでしたが、新型コロナウイルスの感染拡大は防災にも大きな影響を及ぼしました。サイクロンから身を守るために避難するシェルターは人が密集しやすく、感染リスクが高まってしまうため、感染を恐れて避難したくない人も出てきたのです。コロナからもサイクロンからも人々を守るため、感染予防対策×防災の新たな取り組みが必要でした。

チラシを配布するスタッフ

そこで、現地の行政や関係者が連携して実施したのは、感染予防対策と予防啓発の呼びかけです。サイクロンシェルター60か所に手洗い場を設置、72か所に石鹸やマスクなどの衛生用品を備蓄するなど、シェルターの衛生環境の改善とコロナ禍の避難に備えました。そしてシェルターや行政関係の建物等96か所には啓発メッセージを描いた壁画を制作、その他ポスター・パンフレットを使って、広く地域住民への感染予防対策の呼びかけが行われました。
これらの活動を通じてコロナ禍でも地域住民が安心して避難行動をとることができるようになり、コロナ禍のサイクロン襲来時にはこの地域の人的被害を抑えることができました。プロジェクトは2021年6月で終了しましたが、これからもバングラデシュにおける防災の模範地域として防災・減災の取り組みを続けていきます。(実施団体:特定非営利活動法人シャプラニール=市民による海外協力の会)

*DRR=Disaster Risk Reductionの略

難しい状況だからこそ力を合わせて 

カンボジアで実施中の「女性のヘルスプロモーションを通じた包括的子宮頸がんサービスの質の改善プロジェクト」では、女性の健康と子宮頸がんに関する健康教育啓発活動と、子宮頸がん検診の技術指導・強化に取り組んでいます。

しかし、このプロジェクトに関わる関係者のほとんどが保健医療従事者。新型コロナウイルス感染症の対応で多忙となり、日本の専門家が渡航できないことから、現地での活動や指導を行うこともできません。さらに、学校が休校となり、小学校教員を対象とした健康教育実施の準備も進めることができませんでした。

オンライン会議の様子

そんな難しい状況を乗り切るため、インターネット環境の整備など遠隔で事業を実施するための取り組みが行われました。日本側と現地の関係者をつないだオンライン会議を定期的に開くことで、よりスムーズに活動ができるようになり、健康教育実施に向けた準備や教材作成、そして現地の医師らを対象としたオンライン講義や研修を実施することができました。また、当初対面で予定していた小学校教員へのニーズ調査も電話を使って実施、プノンペン市中心部と周辺部の各4校に勤務する100名の女性教員にインタビューを行いました。他にも健康教育に関するウェブサイトでの情報発信を進めるなど、工夫を凝らして取り組みを実施しています。予定通り活動を進めることはなかなか難しいですが、引き続き感染状況を見極めながら、できることから活動を進めていきます。(実施団体:公益社団法人 日本産科婦人科学会)