【12月12日ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)国際デー No.2】「安全なお産」と「こどもの健やかな成長」に向けて!

12月12日はユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)国際デーです。UHCとは、すべての人が経済的な困難を伴うことなく、十分な質の保健医療サービスを受けることのできる状態を指します。JICA東京では、研修という国を超えた学びの場を通し、どこにいても、誰であっても、安全に出産でき、生まれたこどもが健やかに育つことのできる世界とその先にあるUHCの実現を目指しています。

2021年12月13日

UHC実現のためのJICA東京による母子保健分野の取り組み 

 持続可能な開発目標(SDGs)ゴール3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」の中で、母子保健分野について、「妊産婦の死亡率の減少」と「新生児死亡率、乳幼児死亡率の減少」が掲げられています。2017年のデータでは毎日約810人の女性が、妊娠と出産に伴う予防可能な原因で死亡しており、妊産婦死亡の94%は、低・中所得国で起こっています。開発途上国の多くでは、母子保健の取り組みに課題があります。
 JICA東京の研修員受入事業では、母子保健分野の研修を通し、各国がUHCを実現するための協力をしています。母子保健分野については、「アフリカ仏語圏地域 女性と子どもの健康改善-妊産婦と新生児のケアを中心に-(行政官対象)」研修、「母子継続ケアとUHC」研修、「妊産婦の健康改善」研修を実施しています。母子保健を通じたサービス提供体制の強化を図ることにより、UHCの実現を目指しています。本記事では、「アフリカ仏語圏地域 女性と子どもの健康改善-妊産婦と新生児のケアを中心に-(行政官対象)」研修と「母子継続ケアとUHC」研修について、ご紹介いたします。

UHC達成のための各国の課題は異なるが、研修での学びあいにより解決への道を模索  

課題を発表するDr.Joseph MUKWEGE MWAMBE(下段左)と研修員(下段中央、右)との意見交換

 国立研究開発法人国立国際医療研究センターのご協力の下、アフリカ仏語圏を対象に「女性と子どもの健康改善-妊産婦と新生児ケアを中心に-(行政官対象)」研修を実施しています。研修では、正常時或いは異常時の妊娠・分娩への取り組み/緊急対応方法、女性と子どものための医療制度構築・改善方法、また医療サービスを提供する保健医療人材の育成や配置などについて学び合います。日本の制度から学ぶだけではなく、女性と子どもを取り巻く状況/各国の行政官が抱える課題を発表し合うことで解決方法を見つけていこうとしています。2021年にコンゴ民主共和国から参加したJoseph MUKWEGE MWAMBE医師による、健康の社会的決定要因や健康格差についての発表に多くの研修員が共感していましたので、ここでご紹介します。
 
 「コンゴ民主共和国(DRC)は、広大な国土を有し、鉱物資源に恵まれています。皆さんが日頃使っているスマートフォンの部品も、私の国で産出された鉱物で出来ているかもしれません。また、食糧資源にも恵まれており、栄養豊富なバナナがあらゆる場所で育つ国でもあります。本来であれば、栄養不良などとは無縁の国であるのですが、政府軍と武装勢力との交戦により、栄養不良をはじめとする健康上の問題が生じています。
 国内では、長期に亘り武装集団やテロリストたちが東部を中心に権力を握っています。政府や軍はこれに対抗しようとし、両者の間では紛争や衝突が日常的に起こり、結果として一般市民が武力衝突に巻き込まれています。日常生活に不安を抱えた市民たちが国内外に避難したことなどにより、経済面に影を落とし、国民の間で健康格差を引き起こしています。
 私たち医療従事者は、こうした困難の中でも、母子保健分野に限らず農業や識字教育におけるプロジェクトを総合的に推進することで健康格差の改善を図ろうとしています。より効果的な改善策を実施するために、日本や他国での女性と子どもの健康改善に向けた取り組み事例や格差改善のための助言を参考にしたいと考えて、この研修に参加しました」。

 今回参加した研修員の中には、DRCと同じく、国内における紛争や政情不安などから生じる同じ苦しみと課題を克服しようとしている研修員もおり、「栄養改善に向けて様々な角度から取り組む姿勢に共感する」、「社会平和を取り戻せるよう取り組みを続けて欲しい」などの声が上がりました。 また、研修では活発に議論がなされ、「母子保健の問題を取り巻く要因は多岐に亘り、いくら時間があっても学ぶには短く感じられる」、「いつか来日し、日本の現場を見学したり、対面で他国の研修員と議論したりする機会を期待したい」等、研修員の真摯な学び合いの姿が見られました。
 DRC他、各国に健康格差を生み出している社会的要因を克服するのは容易ではないものの、各国の研修員にとって、他国における困難や課題を共有し、解決への道を相談し学び合う国を超えた場が形成されたことがうかがえ、本研修を実施した意義を感じたひとときでした。本研修には西アフリカの仏語圏という、地理的にも社会・文化的にも比較的近い国々の研修員が集まりました。そうした本研修を通じて形成された研修員間のネットワークが一過性に終わることなく、今後も当該分野で相互に相談し合い学び合える関係が継続されることを願っています。

母子保健分野におけるUHC実現に向けて:「母子継続ケアとUHC」研修からの学び 

2019年2月、シエラレオネ保健省関係者がガーナを訪問し、母子手帳を活用した母子継続ケアに関する技術交換を実施しました。ガーナ、シエラレオネ両国の帰国研修員が参加しています。


2021年4月アシャンティ州クマシにて帰国研修員とともにワークショップを開催しました。母子継続ケア推進のための問題分析を行い、地域啓発活動の計画を策定しました。課題別研修で行った問題分析を更に掘り下げています。オンラインで行っていた問題分析を久しぶりに対面で実施することができ、感動で胸が一杯になりました。

 JICAには、特定分野に関する高度な専門性や実務経験等を基に、JICAの協力事業にエキスパートとして携わる「国際協力専門員」(以下、専門員)がいます。
萩原明子専門員は保健医療分野、とりわけ、母子保健分野において、UHC実現に向けた取り組みを続けています。萩原専門員は、長年にわたり、ヨルダン、パレスチナ、ガーナ等で母子手帳の普及に努め、母子保健の改善に取り組んでいます。現在は、ガーナにおいて「母子手帳を通じた母子継続ケア改善プロジェクト」に携わるとともに、2020年度から実施している遠隔研修においても、研修員の学びを深めるよう尽力しています。本記事では、公益財団法人ジョイセフのご協力の下に実施している「母子継続ケアとUHC」研修について、萩原専門員の研修を通した学びとガーナの現地の事情も交えたメッセージをご紹介します!

 母子保健は、「安全なお産」や「新生児の救命」など、出産時のケアを提供するともに、すべての人々が質の高い保健サービスを経済的に負担できる範囲で享受することを目指すUHCの「入口」ともなる分野です。
課題別研修「母子継続ケアとUHC」では、アジアおよびアフリカの研修員が、各国での取り組みや日本の経験を学んでいます。「すべての母子に」「質の高い母子継続ケアを」提供するために、母子保健のサービス提供、保健システム強化や財政支援、政策などについても学び、自国で適応できる提言をまとめています。助産師の増員育成、僻地手当による地域保健人材の適正配置と地域保健の質とアクセスの格差是正、緊急時の医療機関までの交通費を賄う住民向けの基金の設立、母子手帳を導入して母子継続ケアの推進と保健システム強化を行うことなど、広い視点から提言がなされています。
 コロナ対策に追われるなか、すべての女性が安心して妊娠、出産、子育てを行うことができるように、さらには、貧困層や僻地住民、十代の妊産婦など、そしてコロナの影響を受ける以前から医療機関を受診することに抵抗があった様々な弱者にも光を当て、自国でできる対策を検討する研修員の姿には、感動すら覚えました。私が赴任しているガーナでも、すべての母子とその家族の健康・栄養改善を目指し母子手帳の活用を推進していて、母親の不安や困難に寄り添えるケアを提供するため様々な取り組みを行っています。医療現場だけではなく政策レベルでも地域保健における母子保健・栄養対策を更に強化し、ガーナでのUHC達成を目指す取り組みが進んでいます。最後の一組の母子にも保健医療を届ける取り組みは、制度、政策、財政面でも裏付けばなければ達成することができないからです。
 JICAは各国のUHCと母子継続ケア推進するため、今後も人材育成や途上国での協力事業に尽力します。