ケニアの未来を担う子どもたちの非行の連鎖を断ち切りたい!

非行少年を社会の中で更生させるには?NPO「ケニアの未来」が直面している課題とは

2022年10月31日

NPO法人「ケニアの未来」とは?  

千葉県柏市に事務所を置く認定NPO法人「ケニアの未来」は2016年9月に設立され、小規模の団体ながら、現地での人脈の広さや活動経験を活かし、2018年7月からJICAの草の根技術協力事業を実施しています。
2021年9月から第2フェーズを実施中であり現在ケニアで活動にあたっている橋場美奈さんに、千葉デスク・木村がオンラインでインタビューさせていただきました。

なぜケニアで団体を立ち上げたのか 

コミュニティの方々に話をする橋場さん

千葉デスク・木村(以下、木村)
「まず、どのような経緯でアフリカやケニアに関わり、団体を立ち上げることになったのですか」
橋場さん
「学生の頃から漠然と、開発途上国で何かしたいと思っていました。大学で開発経済学を学んで、ケニアのNPOでインターンをしたり、海外協力隊で(ケニアの隣の)タンザニアに派遣されたり、アフリカと関わる機会が途切れなかった…いや、途中でやめなかったから、今でもここにいるんでしょうね。
15年位前、私はケニアの農村で、小学校の支援やHIV/AIDS予防のトレーニングなどをしていたのですが、その後JICAとケニア法務省で実施していた『少年保護関連職員能力向上プロジェクト』に長期専門家として関わることになりました。最初は少年司法のことは全く知りませんでしたが、少年院や更生施設、児童養護施設、警察や刑務所、裁判所の人たちと関わるようになって、酷い環境にいる子どもや、捨てられた赤ちゃんの悲しい末路など、ケニアの別の姿を見たのです。少年司法制度で関わる子どもたちが、すごい環境におかれていることを初めて知りました。プロジェクトでは少年司法関連の公務員に研修をしていましたが、この研修を受けられるのは県レベルのオフィサーだけ。もっと草の根でやらないと、子どもや家庭まで届かない。政府だけではできない部分をやりたい。そう思って、プロジェクト終了後に団体を立ち上げました。」

草の根技術協力事業での取り組み

カウンターパートのチーフと

「団体ではどのような取り組みをして、どうして草の根事業に応募されたのですか?」
橋場さん
「上記プロジェクトを実施していく中で、非行に走った少年たちは、学校に通い普通の生活をしながら、社会(コミュニティ)の中で更生した方が良いという原則があるのに、ケニアの現実では、社会の中で少年が更生できるような状況になっておらず、地域社会で非行少年たちは見放されているように感じていました。ケニア政府はずっと保護司の制度を確立しようとしていたのですが、あまりうまく制度運営ができていない様子でした。私も、保護司が必要だと思いました。ですので団体立ち上げ後、まず自己資金で保護司の選出と研修を始めました。2地区のみで、22人を選びましたが、自己資金では限界がありました。そこで草の根事業に応募したのです。
草の根技術協力事業を活用したことで、さらに拡大し2県で活動ができました。候補者100人の中から約60人を選出し、住民集会で保護司の選出や啓発活動を行いました。おかげで沢山の人にリーチできました。できることの規模が変わりました。ケニアの行政機関の方々はJICAを知っているし、理解してもらいやすかったというのも大きかったです。」

木村
「最初の草の根事業では保護司についての活動ですが、今(第2フェーズ)では早期妊娠予防活動を行っていますよね。なぜですか?」
橋場さん
「元々子どもについての活動をしていたときに、行政の方と子どもの問題の話をすると常に出てくる問題でした。女子が早くに妊娠し、本当はダメなのに早期に結婚させられる。
第1フェーズで、保護司が非行少年と1対1の関係を作り、家族や本人にとっての相談役になる、ということを心掛けてきました。保護司になるのは、長老のような方が多いです。
そこでの相談を聞くと、非行少年の家庭の多くが、母親が若い時に結婚外で子どもを産んで、母親も教育を受けておらず、育児をしていない。そして子どもに児童労働をさせているパターンであることを知りました。早くに第1子を妊娠・出産し、数年後に結婚すると、第1子として生まれた子どもは祖父母の元に放っておかれるパターンが多い。その子が非行に走る。せめて、望まない妊娠で生まれる子どもは少なくしたい。…ですので、それを第2フェーズとして行うことにしました。」

現地で感じる葛藤とは

早期妊娠予防活動の様子

木村
「ケニアでの活動の中で、葛藤や大変なことはどんなことですか?」
橋場さん
「う~ん、どんなことが大変そうだと思いますか?私にとっては、色々ありすぎて…。」
木村
「私の想像ですが、ケニアに限らず、非行少年たちって社会にとっては受け入れられにくくて、彼らへの支援は理解されづらいのでは、と思ったのですが、いかがでしょうか。」
橋場さん
「確かに『加害者支援』は理解されづらいです。日本でも支援されづらい。悪いことをしたのになんで支援されるんだ、社会から排除すべきだ、と。日本の場合は非行行為一回で少年院に行くことはほとんどないけれど、ケニアだとそこまで非行性がなくても少年院のような施設に送られます(前述のJICAプロジェクトのおかげで少し改善の方向にはありますが)。そうすると、施設内で悪い人に染まって、非行性が高まるなど悪影響もあります。実はケニアだと、コミュニティ内の人たちは非行少年の非行の原因が親のせいだと知っているので理解されやすいのですが、日本の方が理解されづらいです。」
木村
「そうなのですね…。日本では自己責任という考え方が強いのも関係ありそうですね!そして、ケニアは刑罰が厳しいんですね。」
橋場さん
「そうです。ケニアは性犯罪の法律は日本よりも厳しいです。性交渉の同意年齢は18歳ですし、11歳以下の子どもへの性虐待は終身刑です。ただ、それが難しい所でもあるのです。たとえば、ケニアでは妊娠によって病院を訪れる10代の女の子が1年で40万人います。特に、今実施中の事業地では、加害者で一番多いのは被害者の叔父やいとこなどの親族で、家庭内性暴力です。しかし加害者のほとんどは裁かれません。なぜなら一度捕まったらなかなか出られないため、親族で隠してしまう。本当は、性犯罪が起こったのを知っていて隠すことも違法なのですが、自分たちだけで解決してしまう。このような難しさもあります。」
木村
「性犯罪の法律が厳しいことは良いことかと思いましたが、そのような難しさもあるのですね。現地で活動を行う葛藤を共有させていただくと共に、『ケニアの未来』さんの活動の意義深さもわかりました。今日はお話を聞かせていただきありがとうございました!」

今回のインタビューでは、草の根技術協力プロジェクトの詳細ではなく、橋場さんの想いや現場の状況・課題を聞かせていただきました。プロジェクトの詳細は、下記リンクをご覧ください。これからも引き続き、「ケニアの未来」さんの取り組みをご紹介させていただきます!ご期待ください。