~スポーツで平和を促進!~ 南スーダン国スポーツ関係者14名が学校体育やスポーツクラブの地域振興について学びました!

2022年11月4日

10月7日~19日にわたり、南スーダンで実施中(2019~2024)のJICA技術協力プロジェクト「スポーツを通じた平和促進プロジェクト」にて、「スポーツ行政/スポーツ振興」をテーマに本邦研修を実施しました。南スーダン国青年・スポーツ省、一般教育・指導省、スポーツ競技連盟より計14名を日本に招へいし、同国におけるスポーツを通じた平和促進活動の更なる定着・推進を図ることを目的としたもの。また、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会でホストタウンを務めた前橋市は、青年・スポーツ省と交流協定を締結するなど、市民団体やスポーツ競技団体の開発協力参画を促進し、南スーダンと前橋市間のスポーツ交流を基軸とした連携深化を後押しする機会にもなりました。

なぜ、南スーダンはスポーツで平和促進をするの?JICAはどうして協力しているの?

NUDでの一場面(綱引き)

南スーダン(正式には南スーダン共和国)という国を知っていますか。2011年7月9日に50年以上続いた紛争を経てスーダンから独立した世界で一番新しい国です。アフリカ東部、ナイル川上流域に位置し、日本との時差は7時間あります。国土は日本の1.6~7倍あり、約1200万人、60を超える民族が暮らしています。

そんな新しい国、南スーダンは、独立後も国内で政権や体制をめぐり民族が対立し、紛争が絶えませんでした。銃が国内に普及し、それを手にした若者が多く武力衝突に参加し、2013年には国の治安は最悪の状態に陥りました。
この状況に危機を感じていた同国 文化・青年・スポーツ省(以下、スポーツ省)エドワード局長(Mr. Edward Settimo Yugu、本研修に参加)からJICA南スーダン事務所(以下、JICA)に「今の南スーダンに必要なのは地域や民族に関係なく、国民として結束すること。民族と地域を超えて若者が交流する全国スポーツ大会の開催」について相談がありました。それが2014年12月のことでした。ここからJICAは「スポーツを通じた平和促進」活動の一つとして、「国民結束の日(National Unity Day)(以下、NUD)」の開催について協力を開始しました。そして2016年1月に独立後初のNUDが開催され、第一回大会は全12地域中9地域から約350人の若者が、サッカーと陸上競技に参加しました。NUDは2019年まで毎年行われ、競技種目はバレーボール、バスケットボールも加わり、参加地域も全12地域となり、参加選手も増えています。大会期間中、参加する若者たちは地域も民族も入り混じって宿舎に滞在します。ただ競技で競うだけではなく、寝食を共にし、試合の外での交流もあり、地域や民族を超えた南スーダン国民としての結束が確実に生まれてきています。

また、NUDで活躍した若者は、オリンピック・パラリンピック代表選手にも選ばれて活躍しています。例えば、東京2020オリンピック陸上に南スーダン代表選手としてグエム・アブラハム選手が出場したことは記憶に新しいです。アブラハム選手は、より若い世代のキャリア形成モデルとしても注目が集まりますね。
このように南スーダンとJICAはNUDの取り組みを通じ、若者が夢と希望を持ち、人々が平和を望み促進していくきっかけになることを確信し、スポーツで平和を促進する取組を進めています。

今回の訪日研修ではどんなところで何を学んだの?

ザスパクサツ群馬 練習見学

日本スポーツ協会による国体についての講義

日本体育大学での学生による模擬授業参加

2016年から始まったNUDは日本の国民体育大会(国体)に類似した大会で、コロナ禍でも中断せずに実施され、スポーツ省はノウハウを蓄積してきました。
南スーダンとJICAはこの取り組みに加え、子供たちの体づくりと協力し合う思考を育てる学校体育、国民が日常的にスポーツに親しめる機会の創出に2019年から「スポーツを通じた平和促進プロジェクト」(以下、技プロ)として取り組んでいます。

この新たな取り組みの一環として、今回の訪日研修は行われました。14名の研修員は10月7日~19日の13日間、スポーツ庁をはじめとする日本のスポーツ行政機関に加え、小中高の学校及び体育教育を専門とする大学や地域におけるスポーツ振興にかかわる多様な機関において、人々の融和、人材育成・教育、地域振興等におけるスポーツの力の再認識、スポーツの振興の課題や対策について議論し、大きな学びを得たようでした。

スポーツ庁及び日本スポーツ協会ではスポーツ行政・国体運営の在り方について説明を受けました。国体が日本の戦後復興の象徴としてのスポーツ大会であるという位置付けはNUDとの親和性が高く、南スーダンでも継続、規模の拡大を目指していきたいといった力強い感想も聞かれました。

ザスパクサツ群馬(群馬県をホームタウンとするJリーグ所属プロサッカーチーム)及びバニーズ群馬FC(女子サッカー)では、経営理念やチーム立ち上げ時の苦労、様々なステークホルダーとの連携・工夫、選手による仕事と練習の両立の難しさ等について説明を受けました。研修員からは、特にチーム運営にかかる財源・スポンサーの確保、市民社会のスポーツ活動に係る理解・関心を引き付ける工夫等について質問が寄せられました。

日本体育大学では、世界の体育教育の概要、日本の保健体育や保健体育教員の特徴、保健体育の授業づくりや指導法に関する知見を得ました。
前橋女子高校、練馬区立開進第二中学校及び川崎市立柿生小学校では、教員から保健体育の目的や意義について説明を受け、生徒の心身の健康増進を目的としたカリキュラムや指導要領に基づいた授業実施を学びました。柿生小学校では運動会練習の様子を見学し、教員の職務姿勢・スキル、生徒の積極的な授業態度に研修員は感銘を受けていました。

今後の南スーダンにおけるスポーツを通じた平和促進と日本との交流の予定は?

前橋市長表敬

SHARKS・アブラハム選手との交流

今回の研修では多くの機関を訪問し、スポーツ行政や地域振興にかかるスポーツクラブ運営について多くの学びを得る機会となりましたが、その他にも二つ、ハイライトがありました。

一つは東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会にてホストタウンを務めた前橋市とスポーツ交流に関する協定を締結し、五輪レガシーの継続と発展を共に尽くすことを正式に表明したことです。2022年10月11日、スポーツ省次官と前橋市市長はスポーツ交流に関する協定書を締結しました。2025 年3月まで毎年度2名以内の範囲で、南スーダンのNUDで活躍したスポーツ選手を前橋市に技術向上を目的に受け入れることを合意しました。

そしてもう一つは、日本唯一の陸上競技中距離プロアスリートチームである株式会社SHARKSによる講義において、所属する南スーダン出身のアブラハム選手がスポーツを通じた平和促進の意義・価値について自身の経験を踏まえ語った場面でした。研修員として訪問した南スーダンスポーツ関係者そしてJICAにとって、スポーツと開発の可能性を再確認する機会となりました。なお、SHARKS社は、アブラハム選手を支援するクラウドファンディングや、国内陸上競技イベントを通じ、市民社会を巻き込んだ南スーダン支援活動を実施しています。
帰国後は、日本で学んだことを活かし、スポーツを通じて健全な心身を育てる教育や平和の促進に向けた事業がより一層進展することを期待しています。