【12月12日ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)国際デー】すべての人に健康を!

12月12日はユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)国際デーです。UHCとは、すべての人が生涯を通じて必要な時に、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを負担可能な費用で受けられること」を保障するものです。 JICA東京では、研修という国を超えた学びの場を通し、UHCの実現を目指しています。

2022年12月8日

UHCとは

2012年12月12日、国連総会において、UHCが国際社会の共通目標とし採択され、2017年の国連総会で12月12日を「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)国際デー」とすることが定められました。また、2015年に採択された持続可能な開発目標(SDGs)では、ゴール3の「すべての人に健康と福祉を」に向けたターゲットの一つとしてUHCが盛り込まれています。
 世界では人口の半分(35億人)が健康を守るための質の高い基礎的サービスにアクセスできていないとされています。物理的に医療従事者がいない・医薬品がない、経済的に保健医療サービスを利用できない、社会慣習的に保健医療サービスへのアクセスが遅れてしまう人びとが多くいます。
 JICAは長年にわたり、保健分野の協力を続けてきました。近年では、UHC実現に向け、医療保障制度の整備にも力を入れています。今年のUHC国際デーはJICA東京で実施している母子保健に関わる課題別研修3コースをご紹介いたします。

課題別研修「母子継続ケアとUHC」

2018年度来日研修の様子。サブコースリーダーの林 未由さんとタジキスタンの研修員

SDGsのターゲットのもと、2030年までにUHCを達成することは、国際社会で合意された重要な目標です。その中で母子継続ケアの推進は、UHCとSDGsを達成するための中核的な分野の一つとなります。
課題別研修「母子継続ケアとUHC」は、日本の国・地方自治体の保健政策、保健業務等(母子継続ケアや母子手帳の活用を含む)がUHCの達成に貢献した経験と、各国の保健行政官の現場の知を融合し、国際的アジェンダに取り組んでいる研修です。
今回は2017年度から本研修を運営・実施している公益財団法人ジョイセフからのメッセージを紹介します!

公益財団法人ジョイセフは長年JICA課題別研修を実施してきていますが、中でもUHCという包括的で壮大な概念を研修コースのテーマとして直接取り組んだ経験は本コースが初めてです。開始した2017年は、母子継続ケアとUHCの概念を整理するため、JICA国際協力専門員の皆さんと議論を重ねた事を思い出します。現在は4つの柱((a) 医療保健サービス提供、b) 保健人材、c)財政保障、d)リーダーシップとガバナンス)に焦点を当て研修を構成しています。
この大きな4つのテーマに取り組むのは、正直なところ「課題が山積みで絡み合い、道のりが長すぎる」と思わされる部分もありますが、そこから「自分ごと」のレベルまで小さく紐解いていくのが、この研修の醍醐味でもあります。研修を進めるごとに、研修員のひとりひとりが「自身の本来業務がUHC達成に繋がっているのだ」と実感し、道すじを整理する姿を見て、この研修の有意義さを研修員から教えられます。
また、母子継続ケアに貢献するツールとして、母子手帳などの家庭用保健記録の役割や活用も議論しています。母子手帳に取り組んでいる国、これからの国など、参加国が相互に学び合っている姿は美しい光景です。

2021年度遠隔研修「活動計画へのコミットメント」を掲げる研修員

UHCのキーワードは「誰一人取り残さない」!妊産婦や赤ちゃんに影響力をもつのは誰か、取り残されるのは誰かを考える機会も作っています。これを通して、誰一人取り残されず、母子が継続的にケアを受けることができる環境とはどのような環境なのかを整理し、意見を交わします。このエクササイズの中で、「コミュニティや家庭がもたらす影響が大きい」と、多くの研修員が語ります。改めて、プライマリーヘルスケアなくして、UHCはないことを肌で感じます。環境づくりとは、医療機関だけでない、社会全体のことなのだと…また、「人への投資(invest in human capital)」なくして、何も始まらないことも研修員を通して実感しています。
研修の後半には本研修の4つの柱から自分の職務を見つめ直し、現行の施策やプログラムを一歩エンパワーする実現可能な活動計画を組み立てています。例えば、母子手帳を使い効果的でフレンドリーな対応でケアの質を高める計画のシエラレオネチームや、思春期の妊婦が周囲の目を気にして健診を断念してしまうのを防ぐ教育セッションを計画したナイジェリアチームなど、現在手が行き届いておらず、取り残されている対象に目を向けた計画が多く作られました。一か月後のビデオレポートで活動計画の進捗が共有されたときは、小さいながらも確実にUHCに貢献する一歩を踏み出しているのを拝見し、とても感激したのを思い出します。今年度の研修でも新しい研修員と新しい活動計画に出合うのを楽しみにしています。

課題別研修「アフリカ仏語圏女性と子どもの健康改善」

2021年度研修で発表するHABONIMANA医師

アフリカ仏語圏を対象とした課題別研修「女性と子どもの健康改善-妊産婦と新生児ケアを中心に-(行政官対象)」は、母子保健の公衆衛生や臨床サービス双方の量質の改善、そして妊産婦と新生児のみならず、SDGs達成に向けたより良いライフコースのスタートを実現することでUHC達成を目指しています。
「女性と子どもの健康改善」にかかる遠隔(オンライン)研修は2022年9月26日から10月4日までの期間、国立研究開発法人国立国際医療研究センターのご協力のもと実施されました。仏語圏アフリカ各国から参加した研修員は、正常だけでなく、異常妊娠・分娩への取り組みや緊急対応方法、女性と子どものための医療制度構築・改善方法、また医療サービスを提供する保健医療人材の育成や配置などについて、日本の制度から学ぶだけではなく、女性と子どもを取り巻く各国の状況、施策と課題の発表と意見交換を重ねることで、自国に適した最善の解決方法を見出そうと日々取り組んでいました。
研修の最後には各自が研修を通じて得た知見を基にそれぞれの業務における行動計画(アクションプラン)を発表しました。
そして研修終了後、アクションプランをどのように実行したか、また実行する過程で見えてきた課題と対策について再度研修員が一堂に会して発表しあう「フォローアップ研修」が2022年12月16日に実施されます。
このフォローアップ研修に昨年度の研修員を代表してブルンジから「先輩」として参加するのがDieudonné HABONIMANA医師です。HABONIMANAさんには当時自身が立てたアクションプランのその後の実践状況を発表いただくと共に、今年度の研修員のアクションプラン実践のための「相談役」を務めていただく予定です。
 
実は、彼は2014年から実施された妊産婦・新生児ケア人材の能力強化プロジェクトのブルンジ側実施責任者の一人でもあります。
同プロジェクトを実施しているムタホ病院院長の職にあり、ムタホ地区の主任医師として、そしてブルンジ国における産科・新生児ケアの医療現場におけるサービス向上を目指した「5Sカイゼン」の普及・研修指導者としても活躍してきました。
 これまで彼はJICAの技術協力を通してブルンジ母子保健に貢献してきましたが、今年度の「女性と子どもの健康改善」フォローアップ研修では彼が長年にわたるJICA技術協力や昨年度の本研修で得た知見を基に、同国での社会保険・保障サービス普及と人材育成などアクションプラン実践への取り組みが発表される予定です(彼の発表内容の詳細はJICA東京FB等で後日お伝えする予定です)。

 HABONIMANAさんの活動においても辺境地への移動手段や医療スタッフの不足など、課題もあるようです。フォローアップ研修では今年度研修員の各国での取り組みも発表されることになっていることから、近隣国研修員の間での意見交換を通して彼にとっても課題解決に向けて振り返りの機会になることを願っています。

課題別研修「妊産婦の健康改善」

関係者との会議で説明するライサさん

UHC の実現には、基本的な保健医療サービスへのアクセスの確保に加え、保健サービスの利用を妨げる慣習的・文化的な要因を取り除くための住民啓発や地域社会への働きかけ(社会的アクセス)が欠かせません。「妊産婦の健康改善」研修では、思春期、女性、および母子を保健医療サービスにつなぐための、コミュニティレベルでの「支援的環境づくり」を通して社会的アクセスを改善し、UHC達成に貢献することを目指しています。

本研修は2010年より公益財団法人ジョイセフにより実施・運営されています。2020年度からは、新型コロナウィルス感染拡大の影響により、オンラインで実施していますが、来日研修に劣らず活発な議論が行われています。
オンライン研修は、事前の講義動画視聴とオンラインのディスカッションセッションで構成されており、講義では、国際的な潮流と日本の経験を踏まえ、思春期、妊娠、出産、乳幼児期の母子を包括的に扱う継続ケアの重要性、地域と保健サービスをつなぐための経験と方策を学びます。そしてオンラインセッションでは、講義で学んだことを各国の現状に照らし合わせ、妊産婦および乳幼児の健康改善のための具体的方策を議論し、活動計画として発表します。その1か月後には、フォローアップとして計画の進捗を共有するセッションも行われます。
2022年度はブルンジ、コートジボワール、パキスタン、シエラレオネ、タジキスタン及びタンザニアより、各国の現場で妊産婦の健康改善に取り組む行政官8名が参加しました。皆さん忙しい業務の合間を縫っての参加となりましたが、限られた時間を最大限に活用し、一生懸命に取り組みました。
今回は2022年11月29日に行われた進捗共有セッションでの発表内容を紹介いたします。10月28日のオンラインセッション終了後わずか1か月の間に全ての研修員が、既にたくさんのアクションを起こし、その様子をビデオに撮って発表してくれました!

シエラレオネのライサさんは、都市部の西部の妊産婦死亡の40%が十代の女性であったことに着目し、若者へ避妊サービスの利用を周知し、若年妊娠を防ぐことこそが、妊産婦の死亡を減らすことに繋がると情熱をもって活動計画を作成しました。活動計画立案後に今まで活性化していなかったユースフレンドリーセンター(若者にフレンドリーなサービスを提供する施設)に関わる看護師、施設長、コミュニティヘルスワーカーや母親支援グループなどの関係者を一堂に集めて、若者へのサービス提供の重要性を説明しました。また集まったメンバーの継続的連携のため、WhatsAppのグループを作成し、チームとしてコミュニケーションを取り始めています。

行動計画の進捗状況を報告するノシーンさん

パキスタンのノシーンさんとワジハさんは、妊産婦の貧血が重要な課題であると考えています。そこで最も人々に近いレディヘルスワーカー(LHW)と呼ばれる地域の保健官が鍵になると着目しました。LWHから妊婦健診の重要性を伝え、家庭で妊産婦の貧血予防をできるようママパパクラスなどへコミュニティの参画(特に男性)を促します。また、お二人は国の病気や健康状況を調査するデータ分析のプロフェッショナルです。活動を通して貧血のデータを蓄積し、分析することで、より効果的な活動を目指していきます。お二人は活動計画立案後、区の保健課に自分たちの計画の説明を行ったところ、とても歓迎され既に協力者とチームと組んで議論を進めているそうです。

ここでは紹介しきれなかった研修員も、報告ビデオにて上司や関係者のもとに足を運んで、各自の取組みについて情熱をもって丁寧に説明をしている様子を報告してくれました。改善のための変化は「ベイビーステップ」がキーワードです。一歩一歩少しずつ、時間はかかるかもしれませんが、妊産婦の健康改善に向けてポジティブに変わっていくと確信しています。