【COP26開催】気候変動がもたらす危機:途上国と共に立ち向かう

2021年11月5日

気候変動対策について話し合う「第26回国連気候変動枠組条約締結国会議(COP26)」が、10月31日~11月12日かけて、英国グラスゴーで開催されています。

気候変動は、干ばつや豪雨など自然災害の頻発化や激甚化、食糧供給へのリスク増など、世界中のすべての人々の暮らしをおびやかす喫緊の課題です。なかでも、途上国では、脆弱なインフラや気候変動対策の遅れなどから、まさしく人々の命が危険にさらされています。洪水や水不足は、その流域での紛争の火種となりかねません。

10年後、20年後の未来を見据えて、この危機に立ち向かうため、JICAは今、途上国の現場での取り組みを加速させています。

「待ったなしの危機的な状況」—その事実を理解する

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2015年に採択されたパリ協定では、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」を目標としています。

一方で、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が今年8月に発表した第6次評価報告書(第1作業部会)によると、温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、2030年から2052年の間に世界の平均気温は、産業革命前と比べて、1.5℃を超え、対策が講じられない場合は21世紀中に4.4℃の上昇となるとの予測もあります。

気温が上昇すると、一体どのようなことが起きるのでしょうか? 

世界銀行は2021年9月、温室効果ガスの排出量を抑えるため、早急で具体的な措置を講じなければ、2050年までに世界中で2億1600万人が国内移住を余儀なくされると発表(注1)。また、国連世界食糧計画は同年10月、世界の平均気温が産業革命前の水準から2℃上昇した場合、1億8900万人もの人々が新たに飢餓に陥ると試算しました(注2)。

これらの数字からみても、気候変動が差し迫った危機であることがわかります。IPCC第6次報告書では、工業化といった人間の営みが影響して温暖化が起きていることは「疑う余地がない」と指摘。つまり、温暖化を抑制するには、私たち自身の行動を変えていくことが不可欠なのです。

途上国の発展に寄り添い、気候変動への対応も進める

国づくりの過程にある途上国では、温室効果ガスの排出を抑えつつ、持続的な開発で社会経済を発展させる、つまり、その両立を目指す「コベネフィット」型の気候変動対策がとても重要です。

JICAはエネルギー、運輸・交通、都市開発、農業、水、防災、森林保全など、あらゆる分野で、温室効果ガスの排出抑制や吸収増進といった対策(緩和策)をとると同時に、すでに引き起こされつつある気候変動による負の影響に対応するための対策(適応策)を進めています。

具体的には、1990年代から、世界の気候変動の状況に合わせ、途上国のニーズに沿った対策に取り組んできました。これまで、50ヵ国以上の現場で気候変動への対策を進めてきたほか、日本で実施する気候変動対策への研修には、途上国100ヵ国以上から参加しています。

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現場のニーズに合わせた4つのアプローチで取り組む

JICAは、パリ協定の実施促進とコベネフィット型の気候対策を推進する上で、4つの具体的なアプローチを途上国で展開しています。

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都市化が進むインドは、自家用車が急速に普及し、交通渋滞や排気ガスによる環境問題が深刻です。首都デリーでは、公共交通の整備で温室効果ガスの排出量を抑制し、地球に優しい街づくりに協力しています。気候変動に伴い洪水が多発するフィリピン・ダバオ市では、洪水の被害を軽減させるための治水対策を策定支援。また、大洋州のサモアでは、大洋州諸国の気候変動分野関係省庁・機関を対象に気候変動への対応策をつかさどる人材を育成しています。さらに、森林の荒廃が問題となっているケニアで、森林管理に向けた政策の策定や、モニタリング体制の構築などによって、森林を守り、持続的に開発する仕組み作りをサポートしています。

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左:インドの首都デリーを走る都市鉄道
右:大洋州の島国サモアでは気候変動対策をつかさどる大洋州諸国の人材を育成

途上国とともに気候変動対策に取り組むために

日本は昨年、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボニュートラル」を目指す方針を打ち出しました。多くの途上国も同様の目標に向かうなか、その移行期間を通じて、社会経済活動の充実を図りながらも温室効果ガスの排出を削減するというシフトチェンジを支える取り組みが今、必要とされています。

JICA気候変動対策室の宮崎明博室長は、今後を見据えて、次のように語ります。

「気候変動による影響が深刻化し、『気候危機』とも呼ばれています。今後は、緩和策・適応策の両面で気候変動対策を幅広く、継続的に推進するため、気候変動対策をさまざまな開発課題の中で主流化していくことが不可欠です。途上国の脱炭素に向けた取り組みを支援するとともに、エネルギー、運輸交通、農業、森林、防災、水資源、保健医療といった幅広い課題に気候変動対策を組み込むことで、パリ協定の目標達成や、気候変動に強靭な社会の構築に貢献していくことが、これまで以上に求められています」