食べることは健康に生きること—人々の命を守る「栄養」を考える: 東京栄養サミット2021開催

2021年12月16日

栄養のある食物をきちんと食べることは、健康に生きることそのものです。しかし世界を見渡すと、飢餓で苦しむ人がいる一方、世界のほとんどの地域では肥満が増加しているなど、栄養に関する問題は他人事ではなく、地球上のすべての人にとっての課題です。

栄養改善に向けた世界の関係者の取り組みを促し、SDGs達成にさらに貢献していくため、「東京栄養サミット2021」が12月7、8日に開催されました。

低栄養と過栄養、矛盾する課題が深刻化

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世界には、栄養が足りない「低栄養」問題だけでなく、偏った栄養を取りすぎて健康被害を引き起こす「過栄養」の問題もあります。国際連合児童基金(ユニセフ)の報告によると、世界の5歳未満の子どものうち、22%に相当する約1億4920万人が、慢性的な低栄養で、身長が年齢相応の標準値に満たない発育阻害とされる一方、4000万人が肥満と言われています。

マルチセクターで、途上国の栄養改善に取り組む

低栄養が起こる原因には、食べるものが足りない、手に入らないという環境だけでなく、食物があったとしても、衛生環境が悪い場合に下痢を繰り返してしまうこともあります。栄養改善に関する課題は、保健、農業・食料、水・衛生、教育などのさまざまな分野に関連しており、解決に向け、分野を横断した取り組み、つまりマルチセクター・アプローチが必要不可欠です。

JICAはアフリカ・モザンビークで、農業、保健、水・衛生分野の各省庁と連携し、栄養価が高い野菜の栽培の普及を目指しながら、母子手帳を活用して栄養バランスのよい食事の必要性を伝え、さらに安定した給水施設の設置を進めるといった包括的な協力を推進しています。

モザンビーク国家栄養調整委員会のセルミラ長官は、栄養サミットに先駆けて12 月1日に実施された公式サイドイベント「栄養分野におけるマルチセクター・アプローチの推進~IFNA(食と栄養のアフリカ・イニシアチブ)の経験とその将来~」に登壇し、「モザンビークの北部ニアッサ州では、JICAの保健、農業、水・衛生の3つのセクターの協力を組み合わせて、子どもの慢性的な低栄養の改善を目指します。よりよい結果を生むために、各セクターの取り組みをどのように調整するかが重要になってきます」と述べました。

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日本の知見を活かし、途上国の栄養改善に取り組む

日本は第2次世界大戦後、深刻な食糧難を経験しましたが、現在は世界でも有数の長寿国であり、また成人肥満も小児肥満も低い割合に抑えることができています。この背景には、栄養人材の養成、母子手帳の普及・活用、学校給食の導入、そして国民健康・栄養調査の実施など、さまざまな取組みがあります。JICAはそのノウハウを活かし、途上国が現在抱える栄養改善への課題解決に向けた協力を進めています。

モンゴルの小学校で給食を配る子どもたち

そんな事例の一つが、モンゴルでの学校給食の導入への協力です。地域で生産される食材を用い、安全でかつ栄養バランスの取れた学校給食を提供できるよう、行政能力の強化や体制の整備を実施しています。モンゴルでは2025年までに全国の初中等学校で、安全で栄養バランスの取れた給食を提供できるようにすることを目標に掲げています。

この協力プロジェクトの計画にかかわったJICA野村真利香国際協力専門員は、「モンゴルでは、給食の摂取基準の策定から始め、入手可能な地域食材調達の仕組みを作り、栄養のあるおいしい献立を立てられる栄養人材を育成します。子どもたちへの給食提供に向けて、プロジェクトを通じて日本の給食の経験や知見を活用していきます」と語ります。

12月2日には、UNICEFとの共催で栄養サミット公式サイドイベント「子どもたちに健やかな未来を-給食と栄養教育の可能性-」が行われ、途上国政府、UNICEF、アカデミア、民間セクターからの登壇者とともに、子どもたちの未来の可能性に繋がる栄養改善の重要性について議論が行われました。

また「世界の栄養課題~いまこそ求められる日本企業の英知~」と題し、タレント・キャスターのホラン千秋氏と2名のJICA国際協力専門員による座談会も実施。栄養分野での持続的ソーシャルビジネス創出における日本企業の持つ技術力や知見の活用可能性について意見を交わしました。

座談会の様子はこちら「日経電子版掲載広告企画」

JICA栄養宣言を発表。栄養をすべての人々へ

12月7日東京栄養サミット2021の初日には、公式サイドイベント「人間の安全保障と栄養-栄養の二重負荷の解決のための連携を通じたコレクティブインパクトの発現に向けて-」が開催され、栄養分野の主要な開発パートナーを招き、各機関の栄養課題へのコミットメントや、最大限の効果を達成するためのパートナー間における効果的な連携について意見交換を行いました。

この中で、JICAは、栄養改善への取り組みをまとめた「JICA栄養宣言 栄養をすべての人々へ ~人間の安全保障のための10か条の約束~」を発表しました。

JICA北岡伸一理事長は、今後を見据えて、次のように語ります。

「栄養は、人間の生命・健康の基礎であり、したがって『人間の安全保障』にとって最も重要な基盤のひとつです。JICAの栄養協力の最大の特徴は、母子健康手帳や学校給食の活用など、日本自身の経験に基づいた協力が多いこと。JICA栄養宣言に基づき、『すべての人々のための栄養』という共通目標に向けて、さまざまなステークホルダーとのパートナーシップを強化していきます」