【G7特集・1】国際社会が直面する重要課題「ウクライナ支援」:日本、そしてJICAが果たす役割

2023.05.15

主要7か国首脳会議(G7サミット)が5月19〜21日に広島市で開催されます。今年のG7では日本が議長国を務め、国際社会のさまざまな課題に関する議論をリードする予定です。これを機に現在の国際社会が直面する重要課題の現状と今後の課題、そして日本の貢献やJICAの協力について考えます。第1回は、ロシアの侵略開始から1年以上が経過したウクライナに対する支援を取り上げます。

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国際秩序を破壊する暴挙は、世界規模の問題

昨年2月に始まったロシアによるウクライナ侵略。世界大戦の反省から世界が平和に向けて築き上げてきた国際法(国連憲章など)を無視し、力で一方的に他国の主権と領土を踏みにじる暴挙に、世界は大きな衝撃を受けました。各国の独立と平等を原理とする国際社会の、法の支配によって形成されている国際秩序が破壊される恐れがあり、自由や民主主義、人権といった普遍的な価値が厳しい挑戦にさらされています。これは、ウクライナとロシアという2国間の戦争に留まらない、世界中が直面している重大な問題です。

日本をはじめG7各国は、いち早くウクライナに対する支援とロシアへの制裁を表明し、実行に移しています。戦闘が1年以上継続している中で、岸田首相は今年2月に行われた記者会見で、「力による一方的な現状変更の試みを断じて許すことがないよう、ウクライナに対する支援とロシアに対する制裁を着実に実施し、国連憲章を含む、国際法といった法の支配に基づく世界の平和秩序を回復しなければならない」と述べ、G7広島サミットで、議長国である日本がウクライナ問題に対する結束を主導する決意を示しました。

日本は平和国家として、その経験と強みを生かし、人々に寄り添った支援を続けています。越冬支援のための発電機や電力関連機材、復旧・復興に向けた建機や地雷除去機など、現地のニーズに合わせて日本の技術力を生かした資機材を供与。また、第二次世界大戦や東日本大震災からの復興経験をもとにした知見・経験の共有なども、戦後のウクライナのより強靭な国づくりのために必要とされています。

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日本のウクライナ関連支援(2023年2、3月の首相官邸発表より)

JICA初、戦時下の国への支援:積み上げた信頼をベースに

日本政府が打ち出すこれらの支援の実行において、JICAは大きな役割を担っています。2022年9月には、必要な支援を迅速に実現するために「ウクライナ支援室」を設置。次の3つの柱を据え、網羅的な取り組みを進めています。

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なかでも、3つ目の復旧・復興への支援においては、今、求められている短期的な支援から、戦後を見据えた中長期的な支援まで、息の長い取り組みが必要です。本格的な復旧に向けた基盤の整備から、社会インフラなどの生活再建、基幹産業である農業などの産業復興、ガバナンス強化などの4分野に重点を置いた協力を進めます。

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「いかにウクライナのニーズを拾って日本ならではの解決策を提案するか、JICAはそのつなぎの役割を強く求められています」とJICAウクライナ支援室の小早川徹室長は話します。

実は、戦時下の国に対する支援はJICAにとっても初めてのこと。そんな状況の中でも、JICAがこれまでウクライナへの協力で積み上げてきた信頼関係があったからこそ、現地で何が必要とされているのか、いち早く情報を得て丁寧に吸い上げることができていると言います。

戦時下で設備が破壊される中で報道活動を続けるウクライナ公共放送局に、協力関係を生かして、迅速・正確な現地レポートを実現するためのモバイル中継装置や撮影機材の供与をスピーディーに決定。また、侵略以前からウクライナの都市廃棄物の処理能力向上の協力を続けてきたことが、現在の戦時下の復旧・復興の基盤となるがれき処理支援につながっています。

そして、ウクライナの地雷や不発弾除去のための支援・研修では、JICAが長年協力してきたカンボジアの地雷対策センターと連携し、日本製の地雷除去機を使用してウクライナで地雷除去に従事する人材の育成も含めた協力を継続。いずれも以前からJICAが積み上げてきた協力がベースになり、スピーディーに対応できた事例です。

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(写真上から時計回りに)JICAウクライナ支援室の小早川徹室長/空襲警報が鳴る非常時にも地下の仮設スタジオで情報の発信を続けているウクライナ公共放送局/今年1月にJICAがカンボジアで実施したウクライナ非常事態庁の職員への地雷除去研修の様子

国際社会は相互依存する網の目

ロシアによる侵略は現在も続き、終結の見通しは立っていません。戦争で財政赤字が膨らむウクライナは、戦時下という状況で経済を立て直すという難しい課題に直面しています。国の再建に向け、海外からの財政支援に依存する状況を脱却するためには、産業を復興させ、雇用を創出して税収を増やしていくことが不可欠です。

JICAは、ウクライナの起業家への支援などを通じ、経済の下支えも進めるほか、主要産業である農業の立て直しを後押しすることにも着手しています。ウクライナは今回の侵略前から地方分権を進める政策を実施しており、今後、地方自治体が中心となって復興に取り組むことが想定され、より細かいニーズに寄り添う必要があります。「支援を希望する日本国内の企業や自治体とウクライナの地方自治体を、ハブとしてつないでいくこともJICAの大きな使命」と小早川室長は話します。

今年3月から4月にかけて、JICAはウクライナ政府との間で、計約750億円を限度とする無償資金協力贈与契約(開発途上地域の経済社会開発のため資金を贈与)を締結しました。現在協力を進めている地雷・不発弾対策や、がれき・災害廃棄物処理支援の拡充に加え、電力・エネルギーや保健医療などの計10分野で復旧・復興を後押しします。戦時下の子供たちへの影響が心配される中、教育分野の支援も含まれています。現在、数千の学校が破壊、または損傷を受け、500万人以上の子どもたちの教育が妨げられています。子どもたちが安全な場所で遠隔教育を行うためのIT機材の提供にも取り組んでいきます。

国際社会の平和と秩序、安全を守るためにも、G7は結束してロシアのウクライナ侵略を非難し、ウクライナの民主主義の回復と安定化のために支援を続けることを表明しています。国際社会は、相互に依存するものであり、緊密に編まれた網の目に例えることができます。国際社会という網目を構成するウクライナを支援することは、国際社会に生きる私たち一人ひとりにとって、決して他人事ではないのです。だからこそJICAは、ウクライナが本当に必要とする支援を考えながら、これまでの経験や知見を生かし、腰を据えた支援を続けていきます。

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