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- 西ベンガル州における人間と象の軋轢緩和と共生促進
概要
実施内容
西ベンガル州における人間と象の軋轢(HEC)を緩和するため、JICAは西ベンガル州森林局(WBFD)との協力の下、テクノロジーを検証しWBFDのデータ戦略を強化する実証実験の立ち上げを進めてきました。この取組では、インドやその他地域で野生動物保全技術において実績を持ち、ソリューションの提供・実行を担うデジタルパートナーを選定しました。
デジタルパートナー
実施期間
2023年8月中旬から2024年1月
案件ステータス
目次
背景
2021-2022年にかけて西ベンガル州における人間と象の軋轢(HEC)により、77人の命が失われ190人が負傷し合計4,000万ヘクタール以上の農作物が被害を受けました。そのためHECの被害を緩和するための早急かつ革新的な対策が急務となっています。JICAは西ベンガル州森林局(WBFD)と協力し、テクノロジーを検証しWBFDのデータ戦略を強化する為の実証実験(PoC)の立ち上げを進めてきました。
JICAの西ベンガル州森林・生物多様性セクターへの円借款プロジェクトは、2012年に「西ベンガル州森林・生物多様性保全事業(WBFBCP)」として始まりました。WBFBCPは2022年に終了し、新たなプロジェクト「西ベンガル州における気候変動対策のための森林・生物多様性保全事業(WB-FBCCCR)」が2023年3月から開始され、プロジェクト実施期間は8年間となりました。第1次プロジェクトでは、HEC対策として電気柵の設置、象の生態調査、監視塔の建設等を行いました。加えて第2次プロジェクトでは、首輪による象のルート追跡、EWS(早期警報システム)の設置、UAVのパイロットプロジェクトなどをWBFDが導入する予定です。
従って、本PoCでは、PoC自体の技術検証だけではなく、WB-FBCCCRの活動で展開するための効果的なソリューションを見出すことも期待されています。
本PoCではソリューションを公募し、テクノロジー企業に入札プロセスへの参加を呼びかけました。結果として、デジタルパートナーにRESOLVEを選定し、同社のソリューションを導入します。RESOLVEとの協力は、HECを緩和する取組を効率化するだけでなく、将来のデータ戦略にも反映され、持続可能な野生生物保護を可能にします。
PoCの実施要件
応募資格(抜粋)
- インド又はその他類似地域において、人間と野生動物の軋轢を緩和するソリューションを提供した経験を持つ
- 提案するソリューションが軋轢予防及び対応に焦点を当てている
- 提案するソリューションが他の場所で検証されている
予算上限
全ての税金・経費を含め70,000米ドル(交渉可能)
主な業務範囲
- PoCの設計:ニーズ評価、WBFDのデータ活用計画の策定、ソリューションのテスト/検証、展開戦略の策定、モニタリング/評価計画のローカライズ
- PoCの実施:ソリューションの展開、現地への適応
- モニタリングと評価:モニタリングと評価、継続的なサポートとメンテナンス、レポーティング
RFP
RFPには、プロジェクトの背景、野生動物の生息地、応募資格など、その他の情報も含まれています。詳細はRFPをご覧ください。
RFP
技術的要件
- 早期警報・対応システム軋轢に繋がる直接的なプレッシャーを予防・軽減するため(任意、必須ではない)
- モニタリング・ レポーティングツール現地コミュニティが野生動物の行動/緩和策をモニタリングし、国/州レベルのデータベースに統合される報告書を作成するため(任意、必須ではない)
RESULT
実施概要
今回のPoC(2023年8月~2024年2 月)では、RESOLVE社による超小型のAIカメラアラートシステム(TrailGuard AI)をインド西ベンガル州ジャーグラム地域に30台設置し、HECに対するデジタルソリューションの効果検証を行いました。
このシステムは、象をリアルタイムかつ自動で検知し、森林官や地域住民に即座にアラートが発出できるものです。同システム導入により、象の出現場所・時間の正確な把握が可能となり、象の出現から現場対応 (林道の封鎖等)にかかる時間は、従来の数時間から平均18分強と大きく削減されることが検証されました。また、PoC期間中、TrailGuard AIを通じ計175の象の検知が行われましたが、リアルタイムでアラートが発出され、現場で然るべき対応が迅速に行われたこともあり、TrailGuard AIが導入された地域において、HEC関連の死亡・負傷はみられない結果となりました。
TrailGuard AI設置にあたっては、西ベンガル州森林局とRESOLVE社との複数の協議を経て、2023年10月から12月にかけて、段階的に設置するアプローチを採用しました。また設置前には、現地コミュニティや森林官とのワークショップも執り行い、RESOLVE社によるカメラシステムの使用方法共有に加え、現場対応プロトコル制定や現場対応チームの設計等の議論も行われ、地域や現場と連携する形でPoCを進めることができました。
今後は、他地域や象以外の他種への同様の取組の導入や、またAIモデルの高度化を通じた個体識別など、今回のPoCの成果・学びを踏まえ、当該地域における生物多様性の保全・共生促進に向けた検討を継続的に実施していく予定です。
結果レポート
下記より結果レポートをご覧ください。
案件参加者
デジタルパートナー
RESOLVEはTrailguard AI (AIを搭載したカメラアラートシステム)を西ベンガル州に導入し、HECの緩和、野生動物の保全に貢献します。
RESOLVEは1977年に設立されたワシントンDC拠点のNPOであり、環境、社会、健康に関わる重要な課題に対し革新的なパートナーシップを構築することで、持続可能な解決策を提案しています。RESOLVEは仲介、プロセスデザイン、ソリューションに焦点を当てた戦略・プログラム、持続可能な社会的事業の設立・立ち上げ、という独自の専門性を組み合わせて活動しています。
RESOLVE Official website
Dr. Eric Dinerstein
Senior Advisor, Biodiversity & Climate RESOLVE
CEO, Nightjar LLC
豊かな生物多様性を有するインドは、世界全体の保全活動において極めて重要な役割を担っています。WBFDと協力しTrailguard AIを展開するこのPoCは、重要な生物多様性の拠点を保全し、人間と象の軋轢を解決し、長期的な共生を促進する為の我々の献身の証となるでしょう。
案件実施後のコメント
Sankarshan Rastogi, Piyush Yadav, and Eric Dinerstein
Ph.D.
西ベンガル州森林局(WBFD)とJICAが共同で実施するPoCの一環として、人間と象の軋轢(HEC)を緩和するために、TrailGurd AI(AIを搭載したカメラアラートシステム)技術を活用した早期警報システムの導入を行いました。ジャーグラム地区における多目的のカメラ警告システムの現場配備は、弊社にとって初めての経験でしたが、エンドユーザーに貢献できるようシステム全体を改善・強化する上で、多くの貴重な教訓を得ることができました。このプロジェクトでは、日中および日没後の時間帯に、単独の雄や大小さまざまな群れの象およそ200頭が検知され、その情報が伝達されたことで、TrailGurd AI警報システムの有効性を実証することができました。現場の森林スタッフにリアルタイムの警報が伝達されるまでの時間はわずか40秒程度であり、地域コミュニティと情報を共有することで、緊急対応チーム(RRT)の対応時間は1~5時間から平均18分にまで短縮されました。最も重要なことは、カメラ警報システムの設置場所に近い地域では死傷者が出なかったことです。過去2年間、同じ場所で3人が死亡し、5人が重傷を負っています。我々は、パートナーとの協力関係を継続し、西ベンガル州の森林地域全体にTrailGuard AIを配備することで、人間と象の軋轢を効果的に緩和および防止できるよう森林スタッフを支援し、共存を促進したいと考えています。西ベンガル州だけでなく、農村地域の保護はインド全体の大きな課題となっています。2023年には106人がトラに殺され、2022年には605人が象と遭遇して死亡しています。こうした悲劇を防ぐためにも、一刻も早くこのシステムを地域全体に普及させる必要があると考えます。
案件オーナー
Amitabh Vibhakar Mishra
Chief Director for the Project for Forest and Biodiversity Conservation for Climate Change Response in West Bengal (as of 06/2023)
「人間と象の軋轢緩和」に関するJICAとの実証実験は、HECの発生地域における「管理戦略」を検証し、最も効果的な対策を見出す機会となります。そのような対策は西ベンガル州全体の象の生息地域で導入される可能性もあります。
案件実施後のコメント
Sumana Bhattacharyys
Chief Conservator of Forests and Project Director, WBFBCCCR
ジャーグラム地区におけるHEC緩和のPoCでは、30か所に設置されたTrailGuard AIによって、RRTの対応時間を大幅に短縮することができました。そのため、JFMCメンバー(森林地域周辺の住民)にタイムリーに警報を発することができ、PoC期間中にその地域では被害が発生することはありませんでした。我々は既存のTrailGuard AIを維持しながら、今後も拡大させていきたいと考えています。アジアゾウに関するこのような研究は非常にユニークであり、期間中に収集されたデータは、世界の科学者コミュニティで利用する可能性も秘めています。
スポンサー
佐々木ひらり
国際協力機構(JICA)南アジア部南アジア第一課
西ベンガル州の森林・生物多様性セクターに対するJICAの支援は、2012年に同州森林局の事業に対する円借款から始まりました。
それ以来、JICAは事業の有効性と効率性を高めるための技術利用を推進し、デジタル技術とデータを活用した社会的インパクトの創出を追及しています。
人間と象の軋轢は西ベンガル州における深刻な課題の1つであり、最先端技術と革新的な解決策を活用した早急な対策が必要です。この課題に取り組むため、デジタルパートナーとの協力に期待しています。
案件実施後のコメント
佐々木ひらり
本PoCではRESOLVE社のAIを搭載したカメラアラートシステムであるTrailGuard AIを西ベンガル州のジャーグラム地域に設置しました。同システムの導入により、象が居住地周辺に現れた際、迅速に森林官や現地住民へアラートが通知され、従来よりも正確な検知や対処にかかる時間の短縮が検証されました。
また、RESOLVE社や同州森林局から、現場森林官や地域住民へPoCの目的、TrailGuard AIの説明や使用方法等が丁寧にレクチャーされたことで、彼らと連携した形で、TrailGuard AIの設置やモニタリングや伝達等が行われました。
本PoCを足掛かりに、他地域や他野生生物への適用や、TrailGuardAIのデータを活用した新たな軋轢緩和策の提案など、更なる人間と野生生物の共生促進がなされることを期待します。
パートナー間の連携
Info Session
【終了しました】2023年6月26日週に入札説明会を開催予定
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