天皇皇后両陛下が、帰国したシニア海外ボランティア、日系社会シニア・ボランティアとご懇談

2016年4月8日

派遣国での約2年間にわたる活動を終え、帰国したシニア海外ボランティアと日系社会シニア・ボランティアの代表6人が3月23日、皇居で天皇皇后両陛下とご懇談の栄にあずかった。両陛下は、1965年に青年海外協力隊が発足した当初からボランティア事業に関心をお寄せ下さり、1995年までは派遣前の隊員全員と帰国後の隊員の代表が、1996年からは帰国したボランティアの代表が任国での活動をご報告する機会をいただいている。

今回両陛下にお目にかかったのは、アジア、大洋州、アフリカ、中東、中南米の国々に派遣されていたシニア海外ボランティア5人と日系社会シニア・ボランティア1人。ご懇談に先立ち6人は、JICA本部(東京都千代田区)で、北岡伸一理事長と小川登志夫青年海外協力隊事務局長に現地での活動を報告した。

【画像】

前列左から綱川夫人(綱川さんの介助のため参加)、綱川さん、北岡理事長、森さん、大塚さん、後列左から市野さん、小川局長、丹野さん、小野沢さん

ADTECマラッカ校の自動車技術訓練工場で、右端が小野沢さん

【日本とのつながり強化し技術移転に尽力】

小野沢純さん(74歳、東京都出身)は、マレーシアのマラッカ州にある人的資源省傘下の高等技術トレーニングセンターに配属され、企業のニーズに合致した技術の教育訓練の強化を目指し活動した。日本の長岡高等工業専門学校と交流協定を結び、教員・学生の交流が実現したほか、経済連携プログラム (EPP)を通じて自動車技術の教員15人の日本研修を実現した。また日系企業との連携をはかり、学生の就職率向上にも貢献した。

現地スタッフとともに作製した啓発教材、レシピ・カレンダーと森さん(右)

【栄養知識の普及で生活習慣病の予防を啓発】

森光子さん(64歳、滋賀県出身)は、ミクロネシアのポンペイ州にある短期大学付属の共同研究・普及機関(農水産業改良普及所)に配属され、生活習慣病を防ぐための啓発活動を行った。地元食材を活用し料理法を紹介したレシピ・カレンダーの作製、地域住民を対象とした減量プログラムを企画・実施。栄養価の計算方法や肥満対策、教材作成の手法など粘り強く指導し、現地職員の意欲向上、能力強化に貢献した。

機関車のメンテナンス用部品について保管状況の調査を指導する丹野さん

【鉄道の事故防止・減少の意識を浸透】

丹野敏行さん(61歳、神奈川県出身)は、ボツワナの運輸通信省ボツワナ鉄道に配属され、機関車のメンテナンスへの取り組み、事故の減少などの5S(注1)を中心とした改善活動の促進に取り組んだ。日本の「ヒヤリハット運動」(注2)を導入、関係者全員参加による事故防止運動や関係者に向けた研修を実施した。鉄道職員に対しては、各職場へ出向いて少人数での研修を実施し、事故防止の啓発意識が浸透した。

積み木、迷路、10の合成・分解教具。明日の授業が楽しみです

【特別支援教育の教員の資質向上に貢献】

市野清さん(64歳、障害児・者支援)は、モロッコの国民教育・職業訓練省メクネス州アカデミーにて、特別支援教育に携わる教員研修および教員の資質向上のための活動を行った。教材・教具づくりを通じて楽しい授業づくりを目指し、研修を行った。理論編の実施とともに実技編として、28種の教材・教具を作成し、各クラスにて活用。教員の育成のみならずアカデミーの職員の知見の向上に大きく貢献した。

公園で教え子と共に東洋医学(指圧・あん摩)の啓発活動をする綱川さん(左から2番目)

【東洋医学の指導者を育成】

綱川章さん(66歳、鍼灸マッサージ師)は、ニカラグアの「日本ニカラグア東洋医学大学」で視覚障害者の自立支援を目的に東洋医学(指圧、あん摩など)の指導者の育成を行った。修了者への就労支援、大学の視覚障害者学部設立に向け筑波技術大学から教育課程の提供を受ける調整など、地元メディアにもたびたび取り上げられ、東洋医学への理解促進と視覚障害者の社会参画意識の醸成に大きく貢献した。

食事の前に足の筋力を鍛える運動を指導する大塚さん(右)

【高齢化進む障害者の健康改善に尽力】

大塚雄子さん(65歳、栄養士)は、ブラジルの日系関連団体初の知的障害児童入居施設「こどものその」に配属された。園生の平均年齢が約50歳と高齢化と障害の重度化が進んだため、健康改善活動を行った。施設の敷地内に住み、生活習慣病や足の筋力低下の改善、嚥下(えんげ)機能の低下予防の観点から全員に口腔体操を行った。正しい知識を提供し、実践と継続の重要性を伝えて園生の健康改善に貢献した。

両陛下とのご懇談後、JICA本部で報告会が行われ、6人は「幅広くさまざまなご質問を賜り、光栄だった」「さまざまな歴史的経緯についても深い知識をお持ちで感服した」と、感想を述べた。

帰国後は、再び日系社会シニア・ボランティアとして途上国に派遣されることが決定した人が2人いるほか、地方自治で活躍をする予定の人など、今後も途上国での活動に意欲を持つなど途上国での活動経験を生かし、さらに活躍していく様子がうかがえた。

(注1)整理、整頓、清掃、清潔、しつけ。日本の製造現場から発展した職場環境の改善と業務の効率化を図る取り組み。
(注2)重大な災害や事故には至らなかったものの、直結しかねない事例を発見し、事前に防ぐための取り組み。