北岡理事長が紛争・脆弱地域における開発の役割についてワシントンDCで講演

2016年4月15日

基調講演を行う北岡理事長

北岡伸一JICA理事長は、4月7日、ブルッキングス研究所(ワシントンDC)が主催した紛争の影響を受けている、脆弱性の高い地域における開発の役割について議論する公開イベントに出席し、基調講演を行うとともに、パネル討論に参加しました。

「Securing Development in Insecure Places」(不安定な地域において、いかに開発を実現するか)と題したこのイベントには、米国務省のシャロン・モリス次官補代理(近東、西半球及び欧州担当)、ジョージタウン大学エドマンド・A・ウォルシュ外交学院のジョエル・ヘルマン学院長、ブルッキングス研究所のブルース・ジョーンズ副所長兼外交政策プログラムダイレクター(以上パネリスト)、同研究所のホミ・カラス上席研究員兼グローバル経済・開発プログラム副ダイレクター(司会、モデレーター)が参加し、紛争・脆弱地域における開発支援のあり方について、専門的見地から活発な議論が行われました。なお、イベントには、米政府、開発機関、大学・研究機関、外交団、民間企業、NGO、マスコミ等およそ120名が参加しました。

北岡理事長は、基調講演において、戦後賠償と並行してアジアから始まった日本の国際協力の歴史を振り返り、失敗や不十分な点もあったものの、発展志向のアジア諸国を支援した経験は概ね成功だったと言え、国の安定化、経済発展を通じた雇用創出と貧困削減に大きく貢献したと述べました。続いて、日本政府が国際協力の基本概念として1990年代後半から打ち出している「人間の安全保障」は、国連憲章や世界人権宣言、日本国憲法の前文でも述べられている概念であり、昨年9月に国連で採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)は人間の安全保障の考え方をより発展させたものとも言えると述べました。また、日本の母子保健制度を紹介しつつ、SDGsのエントリーポイントとしての保健システム強化の重要性を強調するとともに、JICAは今後も、国家の安定と保護能力強化とあわせ、人々のエンパワーメント(能力強化)を支援していきたいと述べました。

さらに、北岡理事長は、こうした支援の具体例として、南スーダンとフィリピン・ミンダナオに対するJICAの支援に触れました。南スーダンに対しては、2005年の包括和平合意以降、様々な分野の支援により人々の生活の向上を図ってきていること、特徴的な支援としては、同政府が設立した初の看護学校への支援を行っていること、また今年、独立後初の全国スポーツ大会開催を支援したことなどを挙げました。ミンダナオについては、現在、政治プロセスの一時停滞はあるものの、JICAは引き続き和平の実現により沿う支援を続けていること、例えば農村と市場をつなぐ道路整備や、女性生産者を巻き込んだ農家生産振興支援により、農家の収入向上の成果が得られていること等を紹介し、こうしたエンパワーメントにより人々の心に明るい未来を生み出す「平和の配当の事前の実現」こそが、紛争国・地域の安定化を達成するために不可欠であることを強調しました。

パネル討論の様子

その後のパネル討論では、各パネリストから以下のような発言があり、活発な意見交換がなされました。

・シャロン米国務次官補:紛争地域への開発支援は単体では効果がでず、外交、平和構築支援と組み合わせて実施する必要があり、特に不安定な状況から利益を得ているグループの行動を外交を通じて抑えることが重要である

・ブルース・ブルッキングス研究所副所長:紛争解決のために真に必要なのは包摂的な政治体制(Inclusive Political Institution)であるが、現在の開発支援、外交努力はともにそのための長期的な視野・ツールを欠いており、改善が必要

・ヘルマン・ジョージタウン大学学院長:(1)今後の開発支援の対象に占める紛争地域の割合が増えていくことを踏まえれば、支援の失敗や治安などに対するドナーのリスク許容度を上げる必要がある。(2)紛争地域に対する開発資金は、絶対量を増やすだけでなく偏った配分(3か国に7割が集中)を見直す必要がある

・北岡理事長:(1)紛争解決には対立する集団の間での妥協を生み出すための外交努力が重要であり、国内政治体制としては大統領制よりも妥協が容易な議会制民主主義の方が安定を実現しやすい。(2)JICAはアフガニスタンでは厳しい環境下でも比較的安定した地域に対して農業や警察能力強化などの支援を実施している。(3)民間セクターの資金・技術の巻き込みや、新興ドナーやNGOを含めた関係国間でのパートナーシップの強化も重要である

また、会場からの一般参加者からも、紛争地域支援における「飴と鞭」の使い分けをどうすべきか、キャパシティ・ビルディングの重要性、不安定な状況から利益を得ているグループとはどのような集団か、など、多くの質問・意見が寄せられました。