日本-ブラジル政府開発援助60周年記念式典におけるスピーチ【於:ブラジル連邦共和国 サンパウロ市 ジャパン・ハウス】

実施日:2019年11月4日
場所:ブラジル連邦共和国 サンパウロ市 ジャパン・ハウス

ご列席の皆様、本日は、日本-ブラジル政府開発援助60周年記念式典にご来場頂き、誠にありがとうございます。このように多くの関係者の皆様にお集まりいただきまして、誠に光栄に存じます。私どもJICAは遡ること60年前の専門家派遣に端を発し、本日に至るまで様々な分野に対し協力を展開し、ブラジル社会と共に発展の道を歩んで参りました。

2017年7月にJICAは「信頼で世界をつなぐ」という新たなビジョンを決定しましたが、ブラジルと共に歩んだ60年の協力の歴史はまさに信頼の上に刻まれたものです。本日、私のスピーチでは60年間の我々のブラジルでの代表的な活動を振り返ってみたいと思います。

まず、対ブラジル協力の中で最も大きな功績を上げた分野に農業協力が挙げられます。農業分野への協力は1959年の専門家派遣に端を発し、その後世界の食糧安全保障の構図を大きく書き換えたセラード開発へと続きます。1974年にスタートしたセラード開発事業は、2000年まで続き、農耕に適さなかった酸性土壌の土地を一大耕作地帯に変え、結果、欧米を凌ぐ穀物供給大国へとブラジルを成長させ、今日ブラジルは世界の食糧安全保障上の最重要国となりました。

1962年から操業を開始したウジミナス製鉄所への出資参画も日伯協力のシンボル的事業です。アマゾンアルミナ・アルミニウム製造合弁事業などのナショナルプロジェクトも含め、ブラジルの鉱物資源は日伯の貿易関係を大きく支えました。また、全国職業訓練校(Serviço Nacional de Aprendizagem Industrial、略称SENAI)を通じ、私どもはブラジル製造業の人材育成を進めました。このような協力の成果は、その後、第三国協力としてアフリカ大陸にまで展開されます。日伯の企業間でも事業をきっかけとした「信頼」が醸成され、ブラジル製造業の飛躍的な進展へと繋がりました。

インフラ整備に関しても全国各地で協力して参りました。例えば、サンパウロ市では毎年のように氾濫していたチエテ川の浚渫と河岸改良を実施しました。サンパウロ州基礎衛生公社(Companhia de Saneamento Básico do Estado de São Paulo、略称Sabesp)とは、長年に亘って上下水の整備を実施し、それが現在では中南米地域のモデルとして注目されるに至っています。

保健・教育の分野でも、カンピーナス大学の消化器病センターやエイズ診療センターの設立など、保健医療の向上にも貢献して参りました。また、教育分野では、長年に亘りボランティア派遣を通じて小学校教育や日本語教育、スポーツなどについて活動してきました。

最近では「地域警察活動普及プロジェクト」を、サンパウロ州を拠点にほぼ全州で展開し、地域住民と警察の信頼関係を築き、治安状況の改善に貢献してきました。この成果はブラジル側でも高く評価され、2019年4月には国家指針の策定に至ったと伺っています。治安改善は投資環境整備にも貢献するものであり、成果がしっかりとブラジル国内で引き継がれている現状を誇りに思います。

以上のような特筆すべき協力がございますが、日伯協力の歴史で最も重要な要素、それは人材育成にあるという点を改めて申し上げます。ブラジルには法曹界で活躍される二宮正人氏や、日系人初のブラジル政府外交官として活躍され、2016年に残念ながらお亡くなりになられた藤田エジムンド氏など、長年にわたり日本とブラジル両国関係者から絶大な信頼をよせられ、日伯の架け橋となる方々がおられます。私は両国の関係において第二、第三の二宮氏や藤田氏のような人材が育っていくことが重要だと感じています。その人材育成の場として日本の開発経験を学ぶ講座をサンパウロ大学に今年開設しました。このような取り組みを背景に、人材育成により一層力を入れて参ります。

本日は代表的な案件のご紹介と、代表的な協力機関の皆様から協力成果についてご発表頂くことにしています。今後も両国が固く信頼の絆で結ばれ、更には二国間の信頼の絆が、周辺国そして他地域も巻き込んで世界を繋ぐことになるよう一層努力して参ります。ご静聴ありがとうございました。

以上