田中理事長がタンザニアとケニアを訪問-多様な支援と地域的視点の必要性を確認-

2012年6月8日

田中明彦JICA理事長は5月27日から6月3日まで、タンザニアとケニアを訪問し、両国の閣僚らと会談したほか、タンザニアで行われたアフリカ開発銀行(AfDB)の年次総会に出席した。また、両国で実施されているJICAの事業や青年海外協力隊の活動現場を視察した。

域内貿易の効率化と経済変革

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域内貿易の効率化や経済変革などについて議論が交わされたAfDB総会

AfDBの年次総会は、5月28日から5日間、タンザニア北東部のアルーシャで開催され、田中理事長は5月30日のサイドイベント「貿易および地域統合のための援助」と、31日の本会合に出席した。

田中理事長は、サイドイベントにパネリストとして登壇し、「域内貿易統合の障害の除去」と題して講演。G8各国の成長率をしのぐ近年のアフリカの急速な発展について、アフリカ各国政府と人々の多大な努力に敬意を表明した。その上で、経済成長を加速させるためには、アジアや中南米に比べて3〜5倍のコストがかかっている域内貿易をより効率化する必要があると指摘した。

そのためのJICAの協力として、ワンストップボーダーポスト(One Stop Border Post:OSBP)(注)の整備を紹介。東アフリカを含むアフリカの各地域で、地域経済共同体などと協力しながら、施設そのものの整備だけでなく、法整備や税関スタッフらの能力強化といったソフト面も含めて支援していると説明。また、域内貿易の大きな障害となっている、国ごとに異なる車両の重量規制についても、その解消に向けて支援していることを報告した。

本会合にはアフリカ内外から77の加盟国が参加し、田中理事長はオブザーバーの一人として参席した。また、アフリカ開発銀行のドナルド・カベルカ総裁は、「経済成長から経済変革へ」と題したスピーチの中で、経済の多様化や若年層の雇用創出、貧困層の教育の充実などを通じ、経済成長の恩恵が低所得者層にもたらされるような経済社会の構築の必要性を訴え、それに向けAfDBが継続的に関与していくことを強調した。

タンザニアの包括的な農業支援と地方開発

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アフリカの域内協力におけるタンザニアのリーダーシップに対する期待を述べる田中理事長(左)

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田中理事長は、流ちょうなスワヒリ語で数学を教える青年海外協力隊の杉山比呂三隊員の授業を視察した(タンザニア・キリマンジャロ州のオシャラ中等学校で)

31日の本会合後、田中理事長は、タンザニアのジャカヤ・ムリショ・キクウェテ大統領と会談。2013年6月に横浜で開催予定の第5回アフリカ開発会議(TICAD V)に関して、キクウェテ大統領は「TICADはタンザニア、そしてアフリカにとって大変重要なイニシアチブだ」と期待を示した。

また、キクウェテ大統領は、食生活の変化によって需要が急増しているコメの増産に向け、潅漑(かんがい)整備などの水資源の確保をはじめとする農業分野の包括的な支援を求めた。これに関し、田中理事長は、日本の無償資金協力によって1980年代に整備されたキリマンジャロ農業開発センターとローアモシ潅漑地区を、会談に先立って視察してきたことを報告。限られた水資源の有効利用という点で課題がないわけではないが、小規模農家の能力強化のための基礎は確立されていると評価した上で、農業分野への継続的な支援を表明した

さらに、キクウェテ大統領は、理数科教師ボランティアをはじめとする青年海外協力隊について、継続的な派遣を要請。田中理事長は「協力隊の派遣は、貴国にとって役立つばかりでなく、派遣される日本の青年にとってもよい経験となるものであり、継続していきたい」と応じた。

田中理事長は、ベルナルド・メンベ外務大臣とも会談。メンベ外務大臣は、農業、運輸交通、水、教育、保健などの各分野におけるJICAの協力は、地方部でも特に恵まれない地域や貧困層を対象としており、人口の80パーセント以上に当たる約3,000万人もの人々が居住する地方部の開発に貢献しているとし、感謝の意を表した。

ケニアの農民の意識変化と所得向上

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整備が進むオルカリア地熱発電所

6月1日から訪問したケニアで、田中理事長は、円借款によって建設が進められているオルカリア地熱発電所と、技術協力事業「小規模園芸農民組織強化振興ユニットプロジェクト(SHEP UP)」の現場を視察。地熱発電の開発は、経済成長に伴って電力需要が逼迫(ひっぱく)している同国にとって有効であり、再生可能エネルギーは、今後、日本の協力のポテンシャルが高い分野であることを確認した。SHEP UPについては、農民の品質向上などに対する意識変化が芽生えるとともに、所得も向上していることから、農業省の関係者や農業普及員も含め、プロジェクトの成果に対し自信を深めていることを確かめた。

また、6月2日には、「モンバサ港周辺道路開発事業」に対する円借款貸付契約と、無償資金協力「ウゴング道路拡幅計画」の贈与契約について、ロビンソン・ンジェル・ギタエ財務大臣と署名を交わした。ギタエ財務大臣は「インフラ開発の需要は極めて大きい。流通の促進や都市交通の渋滞緩和といった点で経済的波及効果も高い」と期待を込めて述べた。

地域的な視点の重要性

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会談後、キバキ大統領(左)と握手を交わす田中理事長。会談では、ソマリアの和平に向けたケニア政府の取り組みに期待を示した

続いて、ムワイ・キバキ大統領と会談。キバキ大統領は、同日署名を交わした道路開発事業について「物流ルートの確保という意味で、ケニアだけでなく東アフリカ全体に貢献するもので、地域的な視点からも重要だ」と述べた。また、ケニアは東アフリカ共同体(East African Community: EAC)サミットの議長国であり、加盟国間の政策や規制の調整に鋭意取り組んでいること、加盟国は現在5ヵ国(ウガンダ、ケニア、タンザニア、ブルンジ、ルワンダ)で、現在、スーダンと南スーダンが加盟申請中であることなどを報告した。

田中理事長は、「国際政治の観点から、ソマリア問題にも大きな関心を持っている」と述べ、ソマリアの将来についてキバキ大統領の考えを求めた。キバキ大統領は、関係者間である程度の合意がなされ、問題解決に向けて進展中だと理解していると応じた。これに対して、田中理事長は「ソマリアに平和が戻ればさまざまな支援が検討できる」と、ケニア政府の努力に期待を表した。また、ライラ・アモロ・オディンガ首相との会談でもソマリアの和平に話が及び、オディンガ首相は、ケニアは地域の安定化に向けて取り組みを強化していると述べた。

今回のアフリカ訪問を振り返って、田中理事長は「多様な発展を遂げているアフリカ諸国の現状について理解を深めた。各国が抱える課題はさまざまであり、支援に当たってはそれぞれの課題を踏まえた柔軟な対応が必要とされる。また、国境をまたぐ紛争問題の解決や域内経済の活性化という意味からも、地域的な視点を持って支援に当たることが重要だとあらためて感じた」と総括した。

(注)国境の税関、出入国管理、検疫などの手続きを行う二国間の施設を統合し、経済共同体域内の共通処理システムを導入して越境手続きを迅速化する取り組み。