田中理事長がリビアのカイヤール外務・国際協力大臣と会談

2012年6月12日

田中明彦JICA理事長は、6月13日、日本記者クラブで会見し、日本のODAの歴史的変遷や特徴と新たな開発課題へのJICAの対応について説明したほか、JICAが果たすべき役割として自らが掲げる「元気の出る援助」について述べた。

開発援助はコミュニケーション

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今後は、リビアと日本はもちろん、リビアと国際社会とのよりよい関係づくりが重要と述べる田中理事長

冒頭、田中理事長は、1954年に戦後補償の一環として始まり、日本を取り巻く状況が大きく変わる中で数々の変遷を経てきた日本のODAを総括。「国際社会への復帰を果たした日本は、70年代から80年代にODA供与額を急増させ、貿易黒字の還流を通じた世界経済への貢献を強めた」と述べた。「その後、1991年から10年間にわたり、世界のトップドナーとなり、国内外で透明性の向上、説明責任を求める声が増大する中、ODAの基本理念などを定めたODA大綱を発表。2000年代に入ってからは、グローバリゼーションの進展に伴い、平和構築や復興支援、気候変動対策などの新たな課題への取り組みを強化すると同時に、新興ドナーとの協力も進めてきている」とした。

また、日本のODAの特徴については、「日本の開発経験に基づく『自助努力への支援』にある」と述べ、そのアプローチとして、「オーナーシップ」(援助受け入れ国の強いリーダーシップと責任の尊重)、「成長志向」(経済インフラ整備と民間セクター開発)、「能力開発」(援助受け入れ国の新しい知見の吸収)の三つを挙げた。

新たな課題に挑むJICA

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カイヤール大臣は「日本人の勤勉さを尊敬しており、日本との協力関係に期待している」と述べた

カイヤール大臣は、革命によって多くの若者が負傷したとし、義手・義足に関する協力の必要性も強調した。すでに、2011年11月の支援要請を受けて、JICAは、2012年3月に調査団を派遣。新政権に対する支援の第一弾として、厚生労働省、国立障害者リハビリテーションセンターと協力し、リビアの保健省や社会省、病院、リハビリテーションセンターなどの幹部を対象とした「義手・義足マネジメント研修」を2012年9月に実施する予定だ。さらに、理学療法士や義肢装具士を対象とした人材育成の協力も検討している。

田中理事長は「JICAは毎年、約1万人の研修員を世界中から招いている。15ヵ所の国内機関で、各地域が有するリソースを活用し日本の知見を伝えている」とし、義手・義足の支援に続き、日本とリビアが協力できる最適な分野を模索していくことが必要だと認識していると述べた。

これについて、カイヤール大臣は「研修への参加について検討を進めたい。革命直後ということもあり、リビア政府は治安、失業者対策など、数多くの問題に直面している」と、あらためてリビアの発展に向けた協力を求めた。これに対して田中理事長は、「JICAは、都市開発やインフラ開発などのマスタープラン策定にも協力実績がある。密接にコミュニケーションを図りながら、今後の支援について検討していきたい」と応じた。

リビアでは、制憲議会選挙から1年以内に、大統領選挙と総選挙が実施される予定。JICAは、民主化に向けて動きだした同国のオーナーシップ(主体性)を尊重しながら、さまざまな分野で支援を検討していく。

(注)リビアの選挙管理委員会は、6月10日、制憲議会選挙を7月7日に延期すると発表した。