田中理事長がイラクを訪問-経済多角化、民間セクター活性化の重要性を確認、引き続きの支援へ-

2012年11月8日

田中明彦JICA理事長は、10月30日〜11月2日、イラクを訪問し、ホーシュヤール・ズィーバーリー外務大臣をはじめとする同国の閣僚らと会談したほか、バグダッド市内の米国国際開発庁(USAID)事務所や、イラク北部のエルビルを視察した。

膨大な開発ニーズ

【画像】

会談を行う田中理事長(左)とズィーバーリー大臣

田中理事長は、まず、10月30日にバグダッド市内でズィーバーリー外務大臣と会談。大臣は、JICAの円借款や技術協力について、同国の経済社会基盤(インフラ)整備、キャパシティ・ディベロップメントに寄与していると高く評価した。

また、大臣はイラクの治安情勢について不安定な要素はあるものの、最悪の時期はすでに脱しており、地域によっては相当に安定し、状況は好転しているとの見方を示した。重ねて大臣は、同国の開発ニーズは極めて膨大であるとし、石油・エネルギーセクターなどに対する、さらなる借款への期待を寄せた。田中理事長は、協力に当たっては格差を是正する視点も重視していきたいと応じた。

インフラ整備と民間セクター拡充

【画像】

会談では、5,000人を超えるJICA研修員の受け入れについても謝辞が述べられた

続いて、田中理事長は、ハミード・ハラフ官房長代行、サミー・アル・ファラジー国家投資委員会委員長、サミール・アッバス・ガドバーン首相顧問会議議長らと、会談を行った。

会談では、イラク側から石油・電力各セクターをはじめ、水セクター、港湾修復、工業設備のリハビリなどへの円借款による支援継続のほか、民間セクターの活性化につながる、日本企業の進出支援の要望が述べられた。田中理事長は、日本企業をはじめ、民間投資拡大の重要性に賛同した上で、「インフラ、人材、国際スタンダードの商慣習などの制度運用といった面で協力していきたい」と述べた。

イラク北部のエルビルを視察

【画像】

会談を終えた田中理事長とムスタファ長官(右)

田中理事長は翌31日に、バグダッド市内のUSAID事務所を訪問。意見交換を行った後、イラク北部のエルビルへ移動した。イラク最大のクルド人自治区、クルディスタン地域の首都として知られるエルビルは、1991年の湾岸戦争終了後、早くから都市開発に着手。治安も良いため、現在、イラクの中でも目覚ましい経済発展を遂げている。

エルビルでは、市内を視察したほか、11月1日に、ファラー・ムスタファ・クルディスタン地域自治政府(KRG)外務庁長官と会談した。ムスタファ長官は、JICAのクルディスタン地域における積極的な協力を評価し、「キャパシティ・ディベロップメント、民間セクター開発、市民社会、特に女性など弱者の自立を促す協力事業への参画を希望する」と述べ、田中理事長は「これらはJICAが重視し、目指す方向と一致している」と応じた。

新たなステージに進んだイラクへの協力

【画像】

エルビル中心部を視察する田中理事長(左)

JICAはイラクとの間で、10月14日に、計約670億円の新規円借款貸付契約を調印。イラクへの協力は2003年の日本政府公約(円借款による35億ドルの支援)を達成し、新たなステージに進んだ。イラクでの執務・生活環境は制約が大きく厳しいものだが、JICAは今後も、広範で多岐にわたる開発課題に対し、経済の多角化や民間セクター活性化を優先課題とし、他の開発援助機関とのさらなる連携への努力を継続しながら、また、日本の民間セクターからの意見や知見も参考としつつ、イラクの復興に向け協力を続けていく。