田中理事長がタイ、セネガルを訪問

2012年12月11日

田中明彦JICA理事長は、11月29日から12月6日にかけて、タイ、セネガル、英国、ベルギーに出張した。最初の訪問先となったタイでは、インラック・ シナワット首相をはじめ、同国閣僚らと会談を行ったほか、アセアン工学系高等教育ネットワーク(AUN/SEED-Net)プロジェクトの協力枠組み文書に署名。また、昨年の洪水被害を受けた工業団地などの視察を行い、次の訪問先となったセネガルでは、マッキー・サル大統領らと会談した。

高等教育分野への継続的な協力

【画像】

チュラロンコン大学(バンコク都)で、AUN/SEED-Netプロジェクトで博士・修士号取得を目指す学生から、研究進捗や卒業後のキャリアについて話を聞く田中理事長(右)

日本政府は、ASEAN諸国の持続的・安定的な経済開発とそれを支える工学系人材育成への協力を提唱。JICAでは、ASEAN10ヵ国の工学系トップ大学19校の教育・研究能力の向上を目的とした、AUN/SEED-Netプロジェクトを2003年に開始。現在、フェーズ2を実施している。

11月29日、バンコクに到着した田中理事長は、日本やJICAとつながりの深い、モンクット王工科大学ラカバン校のタゥイン・プンマー学長らと会談した。同校はタイの工科系大学のトップレベルにある大学であり、AUN/SEED-Netの中核大学となっている。タゥイン学長は、50年以上にわたる同校への協力と、AUN/SEED-Netの協力がフェーズ3につながることに対し謝意を述べた。これに対し田中理事長は、フェーズ3では産業界と大学の連携も推進していくと応じた。

会談に続いて、田中理事長は、AUN/SEED-Netプロジェクトフェーズ3(2013年3月〜)の協力枠組み文書(基本合意文書)の署名式に臨んだ。署名に先立ち、あいさつに立った田中理事長は、域内の産業高度化への貢献、共同研究を通じた地域共通の地球規模課題への対応、そしてアジアにおける科学技術振興のプラットフォーム形成の必要性はますます高まっており、フェーズ3はこれに応えるものになるだろうと述べた。

【画像】

プロジェクト対象国の関係省庁、大学関係者など42人が、一斉に署名を行った(前列右から3人目が田中理事長)

成熟社会へ向かうタイへの支援

【画像】

会談冒頭にインラック首相(右)よりJICAの洪水支援に対する謝辞が述べられた

【画像】

ナワナコン工業団地の輪中堤を視察する田中理事長(左から4人目)

11月30日には、インラック首相と会談。訪日時に視察した、九州新幹線の技術力の高さに感銘を受けたという首相から、タイの高速鉄道整備とその周辺地域開発に関して日本の技術に関心がある旨言及があり、田中理事長も鉄道整備や地域開発の重要性に同意した。

さらに、田中理事長は、経済成長を成し遂げ、成熟した社会を築きつつあるタイには、その発展に応じた協力が重要だとし、より高度な人材育成を通じて産業の高度化に貢献するAUN/SEED-Netや、12月から実施予定の高齢者介護プロジェクトについて説明した。また、タイと日本が共同で第三国を支援する意義にも言及した。これに対して、インラック首相は、高齢化などの問題の重要性に同意した。

最後に首相から、タイに進出している日系企業の成長を推進する観点から、産業人材の能力・技能の向上に向けて、技術や研究への支援に対する期待が述べられ、田中理事長は、AUN/SEED-Netフェーズ3はまさにそのテーマに取り組むものであり、産業界のニーズに応じた産学間連携を進めたいと応じた。

その後、田中理事長は、昨年の大洪水で甚大な被害を受けた、パトゥムタニ県内のナワナコン工業団地を訪れ、工業団地を取り囲む輪中堤(わじゅうてい)などの洪水対策施設の視察や、日系企業の訪問を行った。JICAは洪水後にアユタヤの水門設置や洪水予測システム開発などを支援している。

西アフリカで主導的役割を果たすセネガルへ

【画像】

活気あふれるダカール中央魚市場を視察する田中理事長(右から2人目)

続いて、翌12月1日から3日まで田中理事長は西アフリカのセネガルを訪問。セネガルは、1960年代に独立したサブサハラ(サハラ砂漠より南の地域)の国の中でも、政治的に安定しているといわれている。JICAの西アフリカにおける活動の拠点でもあり、不安定な西アフリカ情勢の中、主導的な役割を果たす民主国家としての期待も大きい。

同国は大西洋に面して約720キロメートルにわたる海岸線を有しており、漁業が盛んだ。田中理事長は、まず12月2日に、日本の無償資金協力で1989年に建設されたダカール中央魚市場を視察。その後、首都ダカール近郊にあるティエス州のタイバ・ンジャイ村を訪問し、日本の支援で建設された給水施設や現地コミュニティーによる生産・加工活動などを視察した。同日午後には、ティエス州立病院を訪れ、青年海外協力隊員の支援を得ながら病院が推進する5S活動(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)の状況に接し、5S活動がセネガルの保健医療サービス向上の土台となり、全国に普及することへの期待を述べた。

日本の防災分野の知見にも期待

【画像】

サル大統領(右)から洪水対策への支援が要請された(写真提供:Assane SOW/le soleil)

【画像】

ンバイ首相(右)は、高い技術を持つ日本企業のセネガル進出に期待 (写真提供:Assane SOW/le soleil)

3日には、マッキー・サル大統領と会談。大統領は、今夏の豪雨で大規模な被害を受けたダカール市の洪水対策に関し、防災分野の知見がある日本へ強い期待を表明。また、食料安全保障の観点から、ネリカ米などコメ栽培支援の重要性や、広域案件を含むインフラ整備のため円借款の活用にも言及した。田中理事長は、サル政権が11月に策定した「国家経済社会開発戦略」に沿った協力が重要であるとし、「食料安全保障は重要な支援の一つの柱と考えている。また、民間セクター開発、インフラ整備における円借款の有効活用などにも、より一層の注力が必要だ」と述べた。大統領は会談の最後に、2013年6月に横浜で開催されるTICAD V本会合への出席も表明した。

また、田中理事長は、アブドゥル・ンバイ首相とも会談を行った。ンバイ首相は、西アフリカの入り口となるセネガルへの日本企業の進出を期待しているとし、ビジネス環境改善に向けた取り組みについて説明。また、セネガル・日本職業訓練センターや、国立保健医療・社会開発学校などを通じて実施されている技術研修が、西アフリカ地域の人材育成に貢献していることを高く評価していると述べた。

セネガルでの日程を終えた田中理事長は、次の訪問先である欧州へと向かった。