「自然災害に対して強い社会を構築する」欧州連合および国連難民高等弁務官事務所と共に公開セミナーを開催

−防災とレジリエントな社会の構築をあらゆる開発に据える重要性を共有−

2013年11月13日

基調スピーチを行う田中理事長

11月11日、今月末に予定されている日EU首脳会議を前に、JICAは、防災分野での取り組みに積極的で、東日本大震災の復興活動に強いコミットメントを示している欧州連合(EU)のクリスタリナ・ゲオルギエヴァ委員(国際協力・人道支援・危機対応担当大臣)来日の機会を捉え、都内の国連大学において、欧州連合(EU)と国連難民高等弁務官(UNHCR)と共に「安心・安全を保障する開発支援の在り方−自然災害に対してレジリエント(強靱)な社会の構築に向けて」と題した公開セミナーを開催しました。当日は、各国在京大使館や国内の開発援助機関、大学関係者、NGOなど約200人が参加、JICAからは田中明彦理事長が参加し、ゲオルギエヴァ委員とともに基調スピーチを行いました。

田中理事長は冒頭、このたびの台風30号で被災してお亡くなりになったフィリピンの人々に向けて追悼の意を表明した上で、「人々の暮らしを一瞬で奪う自然災害のリスクに対処できる能力を向上させ、レジリエントな社会を構築することは人間の安全保障の実現に不可欠。さらに、防災の取り組みを通じた持続的成長をポスト2015開発目標(注1)に明確に位置づけ、国際社会が一丸となって取り組むことが重要」と訴えました。また、ゲオルギエヴァ委員は、「自然災害は脆弱な国と人々に被害をもたらし、格差の原因にもなっている。レジリエントな社会の構築には、国際社会による長期的なコミットメントと防災への投資を促し、包括的なアプローチを採ることが重要」と指摘し、「人道支援機関と開発援助機関による共通のアプローチの構築が重要」と強調しました。

基調スピーチを行うゲオルギエヴァ委員

引き続き行われたパネル・ディスカッションではJICAの加藤宏理事がモデレーターを務め、外務省の香川剛廣地球規模課題審議官、在京フランス大使館のクリスチャン・マセ大使、タイ内務省防災局のスポーン・ラッタナーキン防災シニア・スペシャリスト、在京チリ大使館のパトリシオ・トーレス大使、UNHCRのマイケル・リンデンバウアー駐日代表、在京ブルキナファソ大使館のフランソワ・ウビダ大使が参加し、各国が抱える自然災害のリスクと対策、開発や貧困削減に関する取り組みへの影響などについて、アフリカ、アジア、ラテンアメリカにおける経験や教訓に言及しつつ説明。続いて一般の参加者も含めた議論、質疑応答が行われました。

最後にモデレーターを務めたJICA加藤理事が、(1)開発計画における防災への取り組みとレジリエントな社会構築の明示、(2)気候変動、ポスト2015開発目標、ポスト兵庫行動枠組などにかかる国際議論を通じた防災に関する国際社会の認識の向上、(3)さまざまなレベルにおけるギャップ(人道支援と開発支援、都市と地方、政府と人々など)の解消を主要点として要約し、参加者の間で共有されました。本内容は、後日、あらためて文書にまとめられ、JICA、EU、UNHCRのホームページに掲載されるとともに、ポスト2015開発目標やポスト兵庫行動枠組み(注3)にかかる議論へのインプットとして活用されることが期待されます。

パネルディスカッションの様子(注3)

なお、今回のセミナー開催に際し行われた、田中理事長とゲオルギエヴァ委員との面談では、ポスト2015開発目標における防災主流化に向けた協力、また現在ケニアで進むコミュニティーベースでの防災(干ばつ対策)に関するJICAとEUの連携推進を確認しました。さらに、ソマリアやマリの情勢に関し意見交換を行い、自然災害、および紛争や政情不安がもたらすそれぞれの脆弱性に統合的に対応すべきとの認識を共有しました。

JICAは、開発援助の実施や、その潮流にかかわる国際的な議論において大きな役割を担うEUとの連携を発展させるため、2012年度から職員をEU本部があるブリュッセルに常駐させ、EUに対する発信力と情報収集力の強化を図っています。昨年からは、役員レベルの協議を東京およびブリュッセルで開催し、6月に横浜で開催された第5回アフリカ開発会議(TICAD V)では、田中理事長とアンドリス・ピーバルグ委員(開発担当)の間で、アフリカ支援における連携強化を確認しました。また、その直後にTICAD Vの成果をブリュッセルにおいてEU関係者に広く共有することにより、日本、EUによるアフリカ支援が相互に補完的なものとなるよう促しています。


(注1)ポスト2015開発目標:2015年が達成期限となっているミレニアム開発目標(MDGs)に続く国際的な開発目標。
(注2)ポスト兵庫行動枠組み:第2回国連防災世界会議(2005年1月、兵庫県神戸市)で策定された兵庫行動枠組み(2005-2015)に続く国際的な防災の取り組み指針。ポスト兵庫行動枠組みは、第3回国連防災世界会議(2015年3月、宮城県仙台市)で策定される予定。
(注3)写真左より、外務省の香川地球規模課題審議官、タイ内務省防災局のラッタナーキン防災シニア・スペシャリスト、在京チリ大使館のトーレス大使、UNHCRのリンデンバウアー駐日代表、在京ブルキナファソ大使館のウビダ大使、EUのゲオルギエヴァ委員、在京フランス大使館のマセ大使、JICAの加藤理事。