田中理事長がバヌアツを訪問

2014年5月8日

田中明彦JICA理事長は、5月4日から5月6日にかけて大洋州にあるバヌアツを訪問しました。滞在中、同国で初めての日本の有償資金協力事業である「ポートビラ・ラぺタシ国際多目的埠頭整備事業」開始式典にカルカセス首相と出席するとともに、同国におけるJICA事業の視察などを行いました。5月5日午前、田中理事長は、カルカセス首相、ローマン外務大臣代行(教育大臣)をそれぞれ表敬し、諸課題の解決に向けたバヌアツ政府の取り組みと今後の展望について意見交換を行いました。

ポートビラ・ラぺタシ国際多目的埠頭整備事業開始式典に出席する田中理事長(中央)

1)田中理事長は、バヌアツにとって初めての日本の有償資金協力事業(注1)となる「ポートビラ・ラぺタシ国際多目的埠頭(ふとう)整備事業」の開始式典に参加。伝統的な衣装をまとったバヌアツ人が先導する中、徒歩で会場に入りました。事業はポートビラ港メイン埠頭(2011年に日本政府が無償資金協力で整備)に隣接し、国内貨物用として使用されているラぺタシ埠頭を、新たな国際貨物専用ターミナルとして整備するものです。田中理事長は式典におけるあいさつの中で、「島嶼(しょ)国であるバヌアツの経済は海上交通に支えられており、ポートビラ港は国際取引のハブである。本事業はバヌアツの経済成長の促進に寄与しうるものである」と、その重要性を強調しました。

カルカセス首相も同様に国際埠頭の建設が物流の円滑化、バヌアツの第一の産業である観光業にいかに寄与するものであるかを述べ、事業の実施に対して日本政府、JICAに深い感謝の意を示しました。バヌアツの経済発展に直接つながる事業への関心は高く、カルカセス首相、サエモン・インフラストラクチャー・公共事業大臣をはじめとする多くの閣僚、政府、ドナー関係者約200人が式典に出席しました。また、事業の建設場所に近いイフィラ島より首長、村人が式典に加わり、カバセレモニーなどメラネシアの伝統的な儀式を披露し、初めてのJICAの理事長のバヌアツ訪問を歓待しました。

2)また、式典の中で田中理事長は、カルカセス首相らと共に合同プレス・カンファレンスを開催しました。そこで田中理事長は「大洋州全体に対する日本の協力は、貴重な地球公共財としての太平洋を共有している大洋州諸国との間で、国際社会において共に働く重要なパートナーとして関係強化を図っていきたいとの考えのもと実施してきている。日本が比較優位を持つ四つの分野「環境保全」「防災・気候変動対策」「経済活動基盤の強化/ライフラインの維持」「社会サービスの向上」において、それぞれ日本が有する「環境立国」「防災立国」「技術立国」「ボランティア派遣も含めた人材育成」の知見、技術を活用しながら支援していく」と述べました。この後、田中理事長、カルカセス首相をはじめとするバヌアツ側と集まったプレス関係者の間で、大洋州・バヌアツに関する協力に関して活発な質疑応答が行われ、翌日の新聞・TV・ラジオなどで取り上げられたことで、バヌアツで日本の存在を印象づけることになりました。

3)同日、田中理事長は、無償資金協力事業の一つである「ビラ中央病院改善計画」の建設現場を視察しました。ビラ中央病院(Vila Central Hospital, VCH)はバヌアツに五つある国立病院の一つで、全国から重病患者を受け入れるトップ・レファラル(注2)の医療施設ですが、1974年に開設以来ほとんど改装が行われていないことから老朽化が進み、また施設が分散していることから効率的なサービスができない状況にありました。プロジェクトは入院施設、診療部門は既存の施設に残しつつ、外来・救急部門と手術・検査・放射線部門を新施設に移し、機能を集中させることで医療サービスの向上を図るものです。

田中理事長は完成間近の新施設の前で、施工関係者から説明を受け、救急部門、一般外来部門、放射線部門、検査分門、手術部門の施設と設置された機材を順に視察しました。さらに、同席した保健省、VCH関係者と視察中に、VCHの現状、人口が年率2.6パーセントで増加しているバヌアツでトップ・レファラル病院としてのVCHの役割の重要性について意見交換をしました。

ブッファ廃棄物処分場を視察する田中理事長(中央)

4)5月6日、田中理事長はバヌアツにある地方自治体の一つであるポート・ビラ市役所(Port Vila Municipal Counsel : PVMC)のウルリッチ市長を表敬訪問し、JICAが2000年以来、大洋州地域で展開してきたごみの減量化、処分場の改善といった廃棄物管理に関する取り組みについて、PVMC関係者と情報交換を行いました。PVMC関係者によるプレゼンテーションでは、人口増加、都市化、観光産業の伸びによる都市部のごみの問題は悪化しており、これまでのJICAの協力に感謝しつつも、今後のポートビラ市の廃棄物管理問題について、引き続いて支援を期待する要望がなされました。

これに対し、田中理事長も近代化・都市化に伴い、外部からさまざまな物質が入り込んでいる中で、適切な廃棄物処理はバヌアツのような島国では大きな課題であり、大洋州における重点課題の一つとして積極的に取り組んでいきたい考えを伝えました。

その後田中理事長は、現在大洋州で広域プロジェクトとして実施されている「大洋州地域廃棄物管理改善支援プロジェクト」の専門家とPVMC関係者と共に、2006年から2008年にかけてJICAの支援で整備した、「福岡方式」と呼ばれる準好気性埋立構造(Semi-aerobic Sanitary Landfill System)(注3)を持つブッファ廃棄物処分場を視察しました。


(注1)バヌアツは、大洋州地域で円借款を実施する4番目の国となる。
(注2)高度な医療整備と技術を有する高次医療施設として、地方の診療所などの低次医療施設では診療できない重症患者を受け入れ、診察・治療を行う病院。
(注3)「準好気性埋立(福岡方式)」は、福岡市と福岡大学が開発・実用化した技術。現在では日本の埋立処分場の標準方式となっているとともに、JICAの協力により多くの開発途上国でも用いられている。