第3回国連防災世界会議パブリック・フォーラム「防災と人間の安全保障」で田中理事長が基調講演

2015年3月20日

国際協力機構(JICA)の田中明彦理事長は、3月17日、東北大学で開催された「第3回国連防災世界会議パブリック・フォーラム『防災と人間の安全保障』」に登壇しました。同フォーラムには、ウズベキスタン、セルビアの国連常駐調整官、小島嶼国連合議長などがパネリストとして参加し、150名を超える聴衆が来場しました。高須幸雄国連事務次長による開会の辞に続き、田中理事長は「防災分野における人間の安全保障の付加価値」と題した基調講演を行いました。

このフォーラムは、2012年9月の国連総会決議で人間の安全保障の共通理解に合意したことを受け、国連人間の安全保障ユニット(HSU)が今年から開始する人間の安全保障のアプローチの普及啓発事業の一環として、HSUと外務省が共催したものです。今回の国連防災世界会議開催を機に、人間の安全保障の視点が防災分野においていかに有効かを検証し、今後どのような取り組みがいっそう望まれるのかを議論することを目的としています。

冒頭、あいさつに立った高須国連事務次長は、4年前の東日本大震災発生時に自身が立ち上げたNGOでの経験として、女性や子ども、介護が必要な高齢者といった、脆(ぜい)弱な人々の尊厳への配慮がほとんどない状況に衝撃を受けたことを紹介しました。そして、仙台会議で合意される防災行動枠組を実行するにあたって、人々を中心に据え、コミュニティごとの状況に配慮し、包括的で予防を重視する人間の安全保障のアプローチが有効であると強調しました。続いて上映されたビデオでは、日本政府の資金拠出によって設置された「人間の安全保障基金」を活用し、セルビア、ウズベキスタン、ケニアで複数の国連専門機関が連携して進められた災害リスク削減への取り組みが紹介されました。

基調講演を行う田中理事長

国連人間の安全保障諮問委員でもある田中理事長は、その基調講演で、「災害(disaster)」という言葉自体、すでに人間(human)という要素を含んでおり、自然現象が起こる場に人がいることで災害が生まれるため、防災への取り組みでは必然的に人間的要素や社会的要素に配慮することが求められると指摘しました。

さらに、防災への取り組みを効果的なものにする人間の安全保障の付加価値として、田中理事長は、次の5点を挙げました。即ち、第一に、人間の安全保障は、自然システムと社会システムの相互作用に対する注意を促し、科学的工学的対策にとどまらない、より包摂的な取り組みを求めていること、第二に、自然現象が災害に発展するのはその社会が置かれた状況との相互作用によるところが大きいため、複雑な社会状況を理解し、社会制度に働きかける事前の取り組みが必要となること、第三に、人間の安全保障では、防災施設を築けば安全だというような思い込みを排除し、想定外のことでも起こりうるという姿勢が求められること、第四に、人間の安全保障は被災地の最も脆弱な人々のニーズに注目し、人道援助が被災地の脆弱な人々の役に立たなかったり、人々の尊厳に対して負の影響を及ぼしたりしないかどうかを重視すること、そして第五に、人間の安全保障では災害の生存者が被災後に社会不安や暴力、差別を受け得る事態にも考慮し、平時からの教育や復興過程で被災者の心的外傷対策にも取り組むことが求められていることです。

また、田中理事長は、「人間の安全保障基金」が支援するプロジェクトには人間の安全保障が持つこうした付加価値が反映されていると評価し、JICAでも、フィリピンの巨大台風「ヨランダ」の被災地への支援において、包摂的で人々を中心に据えた取り組みを進め、被災地が再び自然災害にさらされないよう配慮してきたと強調しました。

パネルディスカッションの様子

この後、6人が登壇したパネル討論では、『人間の安全保障と防災−世界、そして神戸・東北の震災現場からの教訓』をテーマに議論が行われました。小島嶼(しょ)国が直面する巨大台風や津波、飲料水確保といった島民の生存を脅かす脅威や、レジリエンス強化に貢献する、伝統や文化といったコミュニティ内で共有される価値の重要性が論じられ、その後、3ヵ国に常駐する国連スタッフが「人間の安全保障基金」を活用して各国で行ったコミュニティのレジリエンス強化の取り組みとその成果について報告しました。そして最後に長有紀枝・立教大学教授が、東日本大震災と福島原発事故後の現地の状況と被災地での活動経験から、先進国での災害にも人間の安全保障の視点を適用し、危機管理や予防を重視することが必要であると強調しました。

HSUでは、今回の仙台でのフォーラムを皮切りに、今後も世界各地において、人間の安全保障の普及啓発のためのイベントを開催していく予定です。JICAもまた、世界各国の防災への取り組みを支援することによって、人間の安全保障の実現に取り組んでいきます。