ネパール復興支援に向け日本の災害復興・防災の経験を活かした「より良い復興(Build Back Better)」の具体策を紹介

〜田中理事長がネパールを訪問〜

2015年6月29日

支援国会合テクニカルセッションで「Build Back better」及び「シームレス」な支援の重要性を強調

支援国会合で田中理事長はJICAによる今後の住宅分野の支援について言及

ネパール大地震から2か月後の6月25日に同国の首都カトマンズで「ネパール復興のための支援国会合(International Conference for Nepal’s Reconstruction: ICNR)」が開催されました。このうち、「強靭なネパールに向けて」と題されるテクニカルセッションでは、JICAの田中明彦理事長が「Build Back Better(より良い復興)に基づいた復興」(注1) 、竹谷公男国際協力専門員が「都市の復興」をテーマとして、それぞれプレゼンテーションを行いました。

支援国会合は、オープニングセッション(ネパールや各国閣僚等によるスピーチ)、ビジネスセッション(支援ニーズの発表と各国や支援機関による支援プレッジ)、及びテクニカルセッションで構成されており、JICAが登壇したテクニカルセッションは、オープニングセッション、ビジネスセッションで表明された支援額等を効果的に活用するための具体的・技術的アプローチを協議する場となりました。同セッションでは、ネパールにおいて災害に対する脆弱性を克服した復興を実現すべく、「Build Back Better」の考え方を踏まえた効果的な支援のあり方に関する技術的な側面について協議しました。

田中理事長は、JICAによるネパールへの震災復興支援において「Build Back Better」及び「災害直後の緊急援助から復旧・復興までのシームレス(切れ目のない)移行」という2つのコンセプトについて援助の現場における具体的な取組について説明しました。
冒頭で、4月25日の震災直後から、復興支援の大枠を検討する調査団を派遣し、カトマンズ首都圏において将来起こり得る地震リスクに備えるために、シンドパルチョーク郡やゴルカ郡等の被害が甚大な地方部における復興支援だけでなく、都市部についても「Build Back Better」を反映した取組みが必要であることを述べました。

次に、復興事業で最もニーズが大きいとされる住宅再建について、(1)仮設住宅と同じ場所で同じ枠組みを活用して恒久住宅を建設するSTP(Shelter To Permanent)工法(愛称:「頑丈ハウスGanjo House」)の提示、(2)耐震モデル住宅の試行的建設、(3)モデル住宅建設の知見・教訓を活用したより広範囲にわたる住宅復興支援、という3段階の支援方策について提言しました。また、その際には高齢者や女性の世帯主が多いという被災地域の社会・文化的な背景を考慮して、すべての人々が復興の恩恵を受けられるよう留意していくことが必要である点を強調しました。

竹谷国際協力専門員は、ネパールの復興に向けてStrong又はResilientな住宅再建の必要性を説明

その後、竹谷国際協力専門員が、将来起こり得る地震に備えるための首都圏強靭化に関する取組みと今後の具体策について説明しました。
まず、復興期においては、災害の「潜在するリスク」に備えるために国策として「防災への事前投資」に取り組むことが必要であることを述べ、「潜在するリスク」や「防災への事前投資」の国の経済全体への影響についてJICAが実施した経済モデル(DR2AD)(注2) を紹介しました。JICAが2002年に支援したカトマンズ首都圏の地震リスク評価結果をあらためて提示し、JICAはその後の人口増加、都市化の進展といった状況の変化を踏まえた再評価を実施中であることを報告しました。
また、住宅分野における復興事業を例に挙げて、地震で倒れてしまうような脆弱性の高い(vulnerable)住宅を再建するのではなく、地震で壊れない(Strong)、又は、最低限、人の命を守り比較的容易に再建ができる(Resilient)住宅事業を中央政府が強いリーダーシップをもって推進するべきであり、国際社会はそのような事業を支援するべき、との考え方を強調しました。

JICAは、ネパール地震の1か月後にあたる5月25日にネパール政府と共催したセミナー ”Build Back Better Reconstruction Seminar for Nepal” 等を通じて、「Build Back Better」の考え方をネパール政府、国際社会に訴えてきました。
今回の支援国会合では、33か国の支援国に加えて多くの国際機関も参加し、約44億ドルの支援(ネパール政府発表資料による)がネパール政府に対して提示されました。本会合において、ネパール政府のみならず、各国政府・国際機関が「Build Back Better」の重要性を繰り返し言及したことは、防災の国際的な指針である「仙台防災枠組」の考え方が浸透しつつあることを表しており、今後の復興事業に具体的に反映されることが望まれます。

喫緊の住宅支援ニーズに向けて

トリブバン大学内のモデル住宅施工展示を視察。(左から、向井国立研究開発法人建築研究所主任研究員、田中JICA理事長、カドカ都市開発大臣、城内外務副大臣、金子国土交通省国土技術政策総合研究所都市研究部長)

ネパールでは6月下旬から雨期に入りつつあるため、地震によって住宅を失った被災者にとって、雨風をしのぐ住宅分野の支援は喫緊の課題となっています。6月25日に開催された支援国会合でも、ネパール政府が発表した復興に必要な金額のうちおよそ半分が住宅再建に必要となっています。

JICAは、支援国会合でネパール政府高官、各国政府・国際機関が集まる機会を捉えて、支援国会合の会場等において、6月24日と25日の2日間に渡り、震災以前よりも耐震性を高める「Build Back Better」の考え方に基づき、仮設住宅に住みつつシームレスに恒久住宅へ移行することが可能なSTP工法等、耐震モデル住宅の施工方法について展示会を開催しました。

STP工法による農村地域向けの住宅は、仮設住宅として建設されたテントシェルターの枠組、及び現地にある石等の材料を活用して住民の手で建設できるものです。また、この工法を用いることによって、住民は仮設住宅から恒久住宅に移る必要がないという利点があります。さらに仮設住宅を建設する際に公共の支援で支給された資材を再活用することによって、より耐震性の高い住宅とすることもできます。JICAは支援国会合で住宅支援を行う際に最低限守るべき基準として、STP工法を具体的に提示しました。

支援国会合が行われたホテルで提示した耐震モデル住宅施工展示の様子

STP工法に加えて、都市部向けの鉄筋コンクリートの枠組を追加したレンガ積みの住宅を展示したトリブバン大学の会場には、カドカ都市開発大臣などネパール政府関係者をはじめ、日本政府代表として支援国会合に出席するためにネパールを訪れた城内外務副大臣などがレンガ壁面のメッシュ加工などのデモ施工の様子を視察しました。2つの会場併せて、地元の学識者、学生、NGO等、約830人が訪問するなど、関心の高さがうかがえました。

本支援会合の成果を踏まえ、JICAは今後も「仙台防災枠組」に代表される国際的な方針が現場の事業に適切に反映され、ひいては協力対象国の災害復興に貢献できるように、復興支援の考え方をネパール政府や国際社会と共有・議論し連携し、主導的な役割を果たしていきます。また、今回のデモンストレーション施工として展示した工法の普及・展開といった具体的な取組みを進めていくよう、ネパール政府を支援していきます。

(注1)
「Build Back Better」は、特に災害が多発する途上国が、復旧後も繰り返し同じような被災に見舞われてきた過去の教訓から生まれた考え方で、今年3月に仙台で開催された国連防災世界会議で採択された「仙台防災枠組」でも「優先行動」に位置づけられています。

(注2)
防災への事前投資の有無により、災害後のGDPへの影響を評価するためのシミュレーションモデル。JICAはこの防止投資の経済評価モデルを活用して、途上国政府高官や国際社会に対して防災への事前投資の効果と重要性を示している。