「国際協力ミライ会議」シンポジウムにおける田中理事長のメッセージ

2024.05.20

(2024年5月15日)
JICA理事長の田中明彦でございます。本日はお忙しい中、「国際協力ミライ会議」にご参加いただきありがとうございます。日頃よりODAにご理解とご協力をいただき、重ねて感謝申し上げます。

はじめに、本年元日の能登半島地震で犠牲になられた方へ哀悼の意を表するとともに、被災された皆様にお見舞いを申し上げます。JICAは石川県金沢市に拠点を持ち、地域の皆様から多くのご協力をいただいてきました。2月上旬より、石川県庁や能登町にJICAのスタッフを派遣しています。在留外国人支援や生活再建の支援を進め、引き続き地域の復興に貢献して参りたいと思います。

さて、今年、日本の国際協力は70周年を迎えました。私は10年前の60周年に際し、日本の国際協力の歴史を3つに区分する整理できると考えました。具体的には、戦後賠償から援助に至り、国際社会への復帰を遂げた1950年代半ばから 70年代半ばが第1期だと思います。 日本が経済大国となり国際協力を拡充し、相手国との信頼関係構築を進めた 70年代半ばから90年代半ばが第2期だと思います。そして冷戦の終結とグローバリゼーションの中、より包括的で、 日本の経験をふまえた日本独自の手法や経験を「ジャパン・ブランド」として、母子手帳、5Sなどを展開した90年代以降が第3期だと考えました。そして、こうした中で形成された日本の国際協力の3つの特徴として、①自助努力の尊重、②人と人とのつながりの重視、③経済成長を通じた貧困削減、を挙げました。

それから10年、日本の国際協力は質的に大きな成長を遂げました。「国づくりは人づくり」の考え方にもとづき、人と人とのつながりを重視する日本の国際協力の特徴は継続され、世界の国々と日本をつなぐ信頼を築いてきました。そしてこの国際協力による「信頼」が、2022年に改定された国家安全保障戦略にある「我が国と国民は、世界で尊敬され、好意的に受け入れられる国家・国民であり続ける」という日本の国益へと繋がっていると考えています。「信頼で世界をつなぐ」ことは、日本の国益でもあるということです。

昨年6月には、日本政府の開発協力の基本方針である「開発協力大綱」が改定されました。この大綱では、気候変動や紛争などの複合的な危機によって「人間の安全保障」が脅かされ、国際協力に求められる役割がこれまで以上に大きくなっているという認識が示され、「人間の安全保障」という考えが日本のあらゆる開発協力に通底する指導理念に位置付けられました。皆様ご案内のとおり、「人間の安全保障」は日本がその整理と普及に大きく貢献した概念で、個々人が恐怖や欠乏から免れ、尊厳を持って生きられる状態をめざすものです。

さらに、複合的な諸課題に対応するためには、途上国政府や民間企業、研究機関や自治体など、様々なアクターと手を携え、互いの強みを持ち寄りながら新しい解決策を共に創る、「共創」という、新しい国際協力のあり方が必要になっています。この「共創」は、途上国の人たちの声をよく聞き、新たな人のつながりを作るという点で、先ほど私が申し上げた「自助努力尊重」、「人と人とのつながりの重視」という日本の国際協力の良い伝統の延長線上にあるものだと考えています。

「開発協力大綱」はさらに、「共創と連帯に基づき生み出した新たな解決策や社会的価値を日本にも環流させることを目指す」、とうたっており、2つの新たな視点が必要とされています。一つ目は、 次世代を担う人材を育て、日本自身が直面する経済・社会課題解決や経済成長にもつなげる視点です。二つ目は 、日本と世界に共通する課題を解決する取組みを循環させ、新しい価値を作るという視点です。

本日は、国際協力における、言わば同志のような存在の皆様にご出席いただいております。我々は、 これまでの70年の協力を通じた途上国と日本の信頼関係を財産としながら、様々なアクターとの「共創」により開発課題への新たな解決策を提案し、それを日本自身の経済・社会課題解決にも繋げていくことを目指します。そして、そうした営みが、各国と日本との更なる信頼の強化につながると考えています。この目標に向けて、我々はどのような道を歩むべきか、国際協力ミライ会議において是非忌憚のない活発なご議論をいただければ幸いです。ありがとうございました。

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