2024年下半期JP-MIRAIシンポジウム(2024年12月12日)
2024.12.13
本日は、年末ご多忙の折、本シンポジウムにご参加いただき、主催者として改めてお礼申しあげます。
2020年11月の設立以来、関係の皆様のご協力を得ながら、JP-MIRAIは会員数が約780に達しました。引き続き、本日、ご参加の会員企業や関係者の皆様のご理解、ご協力をいただきつつ、JICAとしてもJP-MIRAIと密に連携し、責任ある外国人材の受入の推進に努めてまいりたいと思います。
本日は、本年6月に成立した、技能実習制度に代わる新たな「育成就労」制度に関連して、お話をさせていただきます。
私は、長く国際政治、国際関係を専門に、大学教員として研究、教育に携わって参りました。現在、JICAの理事長を務めていますが、最近は、外国人材の受入や多文化共生についても関わらせていただく機会が増えています。
2016年に出入国管理政策懇談会に座長として参加したことを契機に、2021年には、「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」の下に設置されました「外国人との共生社会の実現のための有識者会議」において座長を務めました。この中で、目指すべき外国人との共生社会のビジョンを示しつつ、政府に対して、共生社会を実現するための取組の方向性を提案しました。
そして、今般、技能実習制度の見直しに当たり、同じく関係閣僚会議の下に設置された「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の座長を務めさせていただき、昨年の11月に最終報告書を法務大臣に提出いたしました。この有識者会議では、各委員の皆様方から、現行の技能実習制度及び特定技能制度に関する数多くの課題に対し、真摯かつ率直な検討と議論を行ってきました。本年6月に成立した一連の制度見直しに係る法案は、有識者会議最終報告書を踏まえつつ、短期間で準備を進められたと承知しています。本日ご出席の出入国在留管理庁の丸山長官を始め、厚生労働省、その他政府関係皆様のご努力に改めて敬意を表したいと思います。
有識者会議の最終報告書においては、見直しに当たっての基本的な考え方として3つの視点を掲げております。すなわち、第1に外国人の人権が保護され労働者としての権利性を高めること、第2に外国人がキャリアアップしつつ活躍できる分かりやすい仕組みをつくること、そして第3に全ての人が安全、安心に暮らすことができる外国人との共生社会の実現に資すること、です。
本日は、この3つの視点に沿って、有識者会議での制度改正に向けた検討経緯をご紹介するとともに、新たな育成就労制度の開始に向けて、どのような取組が期待されるか、考える機会になればと思います。
まず、第1の外国人労働者の権利保護の視点からお話したいと思います。受入企業が労働関係法令を遵守し、人権意識の醸成や徹底に向けて取り組んでいくことは当然の前提でありますが、有識者会議における主要な論点の1つとして、外国人労働者の転籍が挙げられます。今回の会議でも相応の時間を掛けて何回も議論を行いました。
転籍は、人権侵害等によるやむを得ない事情による転籍と本人の意向による転籍に大別されます。今回の有識者会議においては、人権侵害行為等、やむを得ない事情がある場合の要件を明確化し、手続を柔軟化することを提言しました。この提言については、早速政府において必要な措置が講じられ、現行技能実習制度下における運用改善として、先月1日から施行されていると承知しています。
他方、本人意向による転籍について、これまでの制度では同じ職場で技術・技能を身につけていただく前提から、原則転籍は想定されていませんでした。今回の有識者会議では、労働法制上、有期雇用契約でも1年を超えれば転籍が可能であるということを踏まえ、同一の受入条件での就労期間が1年を超えていることを要件に転籍を可能とすることを提言しました。一方、転籍の制限緩和による人材育成への支障や人材を流出する懸念する声がありますので、激変緩和の措置として、当分の間、受入対象分野によっては1年を超える期間を設定することも可能とする等の必要な経過措置を設けることを有識者会議からの提言といたしました。
この点について、政府方針においても、転籍制限の期間については、人材育成の観点を踏まえた上で1年とすることを目指しつつも、激変緩和の観点から、当分の間、分野ごとに1年から2年までの範囲で期間を設定することとなっています。この激変緩和の措置は、特に地方部から都市部への人材流出の懸念へ配慮したものと言えます。一方、新しい制度において、実際にそのような懸念が現実のものとなるのか、しっかりモニターすることが重要であり、制度運用状況を踏まえて、適正かつ現実的な転籍が可能となるように見直しの検討も必要になるのではないかと思います。
次に、第2の視点である外国人労働者のキャリアアップについてですが、改めて新たな育成就労制度の目的について触れたいと思います。現行技能実習制度では人材確保の手段でないことを規定していましたが、実態に即して見直し、新たな育成就労制度では、人材育成と人材確保が法律上の目的として掲げられています。基本的に3年間の育成期間で、特定技能1号の水準の人材を育成することを目指し、受入対象分野についても、現行の特定技能制度における特定産業分野に限定して設定することとしています。段階的な技能向上とその結果を客観的に確認できる仕組みを設けることで、外国人労働者個人が透明性・予見可能性が確保される形でキャリア形成を可能とすることを目指しています。
キャリアパスに関連して、生活者としての将来の予見可能性という点で重要な論点として、家族帯同のあり方についても有識者会議で議論が行われました。結論としては、現行制度と同様、育成就労制度及び特定技能1号により、入国、在留する外国人の家族帯同は認めないことを提言し、政府方針においても家族帯同は認めないということとされています。
この点について、特定技能2号に移行するまでの間、家族帯同が認められないとすれば、外国人にとって日本で働く魅力に欠けるという意見等もありました。他方、外国人本人の扶養能力や、医療や子女教育といった受入環境の観点から、家族帯同を認めることには慎重であるべきだといった意見もありました。したがって、家族帯同は原則として認めないものとするのが相当とするのが有識者会議の結論でありましたが、人権への配慮の観点から柔軟な対応が必要であるという意見も多く、我が国が魅力ある働き先として選ばれるため引き続き検討が必要になると考えています。
最後に、第3の安全安心に暮らせる共生社会の実現ですが、日本語能力を段階的に向上させる仕組みの構築や国・自治体による受入環境整備の取組について有識者会議では議論が行われました。
日本語能力の向上方策について、有識者会議においては、継続的な学習による段階的な日本語能力向上の取組や、日本語教育支援に取り組んでいることを優良受入機関の認定要件にすること等を提言しましたが、この点については政府方針においても踏襲されています。
また、特定技能1号移行時の日本語能力要件については、有識者会議の中では、段階ごとに日本語能力が実際に向上する仕組みを取り入れるため、特定技能1号に移行する際に、技能検定試験等の合格とともに日本語能力N4以上の試験合格を必須とすべきであるという意見があった反面、試験の受験機会及び教育環境が不十分であることを懸念する意見等もありました。
国や自治体による受入環境の整備については、育成就労制度においても法務省及び厚生労働省が制度所管省庁として中心的な役割を担いつつ、業所管省庁との調整や送出国との取決を行うことが想定されています。また、自治体の役割と関連して、現行の技能実習制度に引き続き、都道府県別の協議会が新制度でも組織される予定です。有識者会議においても、自治体が地域産業政策等、地域の特性や課題を踏まえた形で環境整備に取り組むべきではないか、との意見もあり、国の交付金等の支援を活用しつつ、外国人から生活相談を受ける相談窓口の整備や生活環境を整備するための取組を推進することを提言しています。
以上、今回の技能実習制度見直しに関する有識者会議における一連の議論から、新制度に関連した要点をご説明しました。
新たな育成就労制度は、2027年度に導入される見通しと言われています。それまでの間は、新制度の導入準備や特定技能制度の上限人数・分野の拡充が進められ、日本社会にとって、外国人材の適正かつ効果的な受入に向けた集中的な取組期間と捉えることができます。
ここで改めてですが、中長期的な視点で日本を取り巻く状況から考えてみたいと思います。
これから2040年まで先を見通すとすると、日本のマーケットは相対的に世界の中で低下することが見込まれます。今年、名目GDPがドイツを下回り、世界4位になったというニュースが話題になりました。このような経済環境の中で、どうやって日本という国が影響力を維持していくかということを考えることは非常に重要だと思います。
JICAの緒方貞子平和開発研究所において、2030年、2040年における日本の人口動態や産業・経済構造を考慮した上で、国内の労働需要や海外の送出国の人口動態や経済情勢を考慮した労働供給に関するマクロな予測研究を行い、将来の外国人労働者数のシミュレーションを行っています。その最新版は、今年7月のJP-MIRAI会員フォーラムで披露させていただいたのですが、年平均経済成長率1.24%を目標とした場合、2040年には必要推計される688万人の外国人労働者に対し、供給は591万人が見込まれ、97万人が不足するという結果になりました。
つまり、外国人材の受入は日本にとって不可避であるだけでなく、今までどおりの受入だけでは難しいという課題に直面することになります。また、現時点においても、日本の給与水準は相対的に低下しており、G7等欧米諸国と比べて低位にあります。途上国からの人材を求める国々は多く、日本と同様に人手不足の問題を抱える韓国、台湾、中国、中東等でも人材受入競争が激しくなるかもしれません。給与面での魅力が相対的に低下しているとすれば、それ以外の面で、日本が、優秀な外国人労働者にとって魅力ある働き先となり、より長く我が国で就労することができるような取組が望まれることになります。
そのためには、これまで申しあげてきた制度見直しの3つの視点を実現させる必要があり、国内外の様々な主体が強みを持ち寄り、解決策を共に作り出していく「共創」が重要になると考えます。
まず、外国人の人権保護の視点からは、国際労働市場における情報の非対称性に起因して、立場が弱くなりがちな外国人労働者が一方的に負担を求められることがないように留意する必要があります。職業紹介における手数料等の費用負担を誰が担うのか、様々な意見があるところですが、弱い立場の外国人労働者が送出機関等に支払う手数料が不当に高額とならないこと、そのためにも送出国や日本の関係者が共に連携して情報公開し、情報の透明性を高め、外国人労働者が安心して働ける受入先をより直接的に選択できるような仕組みづくりが進むことが望まれます。
また、コンプライアンス遵守に加え、望ましい行動を取る企業や団体が評価される仕組みとして、国際的な機関との連携による認証のほか、国内でも業界団体や自治体における独自の認証制度を設ける取組も見られます。自社や子会社だけでなく、フランチャイズやサプライチェーン(取引先)における人権保護が求められる中、大企業のみならず中小企業も含めた幅広い関係者が共に外国人労働者の権利保護に取り組んでいくことが求められます。
日本で働き、暮らすことの魅力として、治安の良さを挙げる外国人の方は多いですが、人権保護の観点も含めて、安心・安全な日本を共に創り出し、発信していく必要があります。
キャリアアップの視点も、賃金面以外の日本の魅力を高める上で重要なポイントになると思います。日本に多くの人材を送り出している国々においては、いわゆるジョブ型の雇用形態が多く、若年層の失業率が高くなる傾向にあります。新卒一括採用に代表される日本のメンバーシップ型の雇用形態による人材育成の実績がある日本企業の強みとして、技術・資格・経験を活かしたキャリアパスを確立し、意欲ある若手人材のキャリアアップを支援することで、夢を持って学べる日本を創り出すことを期待しています。
共生社会の視点からは、日本人の育成も重要です。日本国内で外国人が多くなったとき、その共生社会をより活力あるものにしていくためにはどのような人材が必要か考える必要があります。私は、文部科学省の「Global×Innovation人材育成フォーラム」の委員を務めているのですが、その中でも、国際社会での日本の影響力を増すためにも海外で学ぶ留学生を増やしていくことが重要であると申し上げました。これは日本国内における外国人との共生社会をより良くしていく上でも、自ら外国で暮らした方々を増やしていくことが必要です。大学を始めとする教育機関も共生社会共創のためのパートナーであると考えています。
共生社会実現も含め、日本国内の地方都市で抱えている課題は共通するものが多くあり、労働力不足に関連して、少子高齢化、若年層人口の流出による農業等地元産業の担い手不足、地域コミュニティの衰退等、ここ数十年で加速しています。今年は、地方創生の取組が本格的に始まってから10年の節目を迎えたことに加え、現政権において地方創生の実現が改めて強調されているところです。外国人材の活躍や多文化共生社会の実現も、地方創生の取組に大いに貢献するものであると考えています。
昨年6月、日本の国際協力の方向性を示す政策文書である「開発協力大綱」が改定されました。その中でも「共創」により生み出す新たな解決策や社会的価値を日本にも環流させ、日本と開発途上国の人材育成や、日本が直面する経済・社会の課題解決につなげることが明記されています。新しい育成就労制度や特定技能制度等、外国人材に関する施策も、様々な主体が一緒に努力することで送出国・日本双方の人材育成や課題解決を目指すという点で、まさに「共創」により取り組むことが期待される広義の「国際協力」であると捉えています。
JICAは国際協力の実施機関として引き続き送出国や国内の課題解決に取り組むとともに、マルチステークホルダーの連携強化のプラットフォームであるJP-MIRAIとともに、「共創」のハブとして関係者間の力を結集していきたいと考えています。本日ご参加の会員企業や関係者の皆様とともに、適正な受入と共生社会を共に創ることを目指していきたいと改めて申し上げ、私の講演を終わります。
御清聴ありがとうございました。
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