- トップページ
- 事業について
- 事業ごとの取り組み
- 民間連携事業
- 企業共創プラットフォーム
- 進出国における競合他社を分析する際のポイントとは?
途上国ビジネスの世界にようこそ。魅力的な市場が広がり、活力のある人材が溢れる途上国。第15回目となる本コラムでは、「進出国における競合他社を分析する際のポイントとは?」について解説します。
競合分析を行うことによって、自社の差別化ポイントを把握して、強みを活かした戦略を立てていくことが可能になります。第4回コラム『真の価値、「バリュープロポジション」とは』でも、他社と競合しない価値を検討することの重要性を説明しました。競合分析を行わないまま新たな市場へ進出した場合、競合他社に対して優位なポジションを確立できず、ビジネス展開が上手くいかないことも考えられるため、新たな市場へ進出しようとする時には欠かすことのできない作業であると言えるでしょう。
本コラムでは、競合分析の実施方法を簡単にご説明した後に、特に途上国ビジネスにおける競合分析で留意いただきたいポイントをご紹介します。ぜひご覧ください!
競合分析の手法
競合分析で収集すべき情報や活用できる分析フレームワークについて既にご存知の方も多いかもしれませんが、まずは、競合のどんなことを調べておくべきなのか?その結果をどのように自社戦略へ活かせば良いのか?について簡単に解説していきます。
競合分析の大まかな流れは以下のとおりです。進出する国・市場における競合他社を特定したら、競合の基本的な企業情報に加え、自社にとって直接的もしくは間接的に競合となる対象製品・サービスの価格・性能・技術・顧客ターゲット・流通・販売チャネルなどを調査します。競合に関する情報を基に、競合他社の評価を行い、自社の強み・弱みも併せて評価します。それらの結果を踏まえて、ビジネス展開の具体的な戦略を立案します。
(図表1)競合分析の実施ステップ
フレームワーク | 概要 |
4P分析
(Product, Price, Place, Promotion) |
以下の4つの視点から製品・サービスを分析します。 ・製品(Product):製品・サービスの特性、品質、機能 ・価格(Price):販売価格、価格形態 ・販促活動(Promotion):宣伝、広告、デモンストレーションの方法 ・流通(Place):流通経路や販売場所 |
ポーターの5フォース分析
(Porter's Five Forces) |
自社の脅威となる以下の5つの要素をもとに、事業を取り巻く環境を分析します。 ・産業内競争(Competitive Rivalry):競合他社の状況、業界内での競争の激しさ ・新規参入の脅威(Threat of New Entrants):新規参入者の影響 ・代替品の脅威(Threat of Substitutes):代替製品やサービスの存在による圧力 ・買い手の交渉力(Bargaining Power of Buyers):顧客が持つ交渉力の強さ ・供給者の交渉力(Bargaining Power of Suppliers):サプライヤーが持つ交渉力 |
SWOT分析
(Strengths, Weaknesses, Opportunities, Threats) |
自社の内部環境と外部環境を以下の4つの要素で分析します。 ・強み(Strengths):自社の強みや競争優位性 ・弱み(Weaknesses):自社の弱点や改善が必要な点 ・機会(Opportunities):外部環境における成長機会 ・脅威(Threats):外部環境におけるリスクや脅威 |
4C分析
(Customer, Cost, Convenience, Communication) |
以下の4要素を用いて、顧客視点で製品・サービスを評価します。 ・顧客(Customer):顧客が何を求めているのか、どのような問題を解決したいのか ・コスト(Cost):顧客が他社製品・サービスと比較してどのように感じるか ・利便性(Convenience):製品やサービスが提供されるチャネル(オンライン、店舗、モバイルアプリなど) ・コミュニケーション(Communication):顧客との双方向のコミュニケーション方法 |
バリューチェーン分析 | 企業の活動を主活動と支援活動に分け、それぞれの活動がどのように価値を生み出しているかを分析します。すなわち、自社と競合他社の価値提供プロセスを分解し、どこで差別化を図っているのかを分析します。 |
競合ベンチマーキング | 直接的な競合他社を特定し、各社の戦略、製品、価格、マーケティング手法、サービスなどを徹底的に比較分析します。 |
(図表2)競合分析に活用できるフレームワークの例 |
例えばStep2で競合に関する情報を収集する際は、4P分析を用いると、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)の観点からマーケティング戦略を分析できるため、競合の戦略を俯瞰的に整理することができます(4P分析の詳細に関しては、第5回コラム『現地に根差したマーケティング戦略がなぜ必要なのか』を参照ください)。また、Step3の競合と自社の評価を行う際は、ポーターの5フォース分析を活用すると、脅威となる5フォースとして、競合他社、新規参入の障壁、代替品の脅威、買い手の交渉力、売り手の交渉力の分析を行うため、競合他社の評価をまとめつつ、市場における自社の位置づけを評価することができます。
JICA Bizを利用して調査を行っている企業では、SWOT分析やバリューチェーン分析などを用いて、競合を含むビジネスを取り巻く環境を分析しています。その分析結果は、自社の戦略策定に活かしているだけでなく、想定顧客やカウンターパートとの会話の中で活用することで、販売促進活動におけるアピールにも繋げています。
ここで、JICA Bizでの活用事例を紹介します。進出国にラン科植物の苗を供給し、当該国においてラン科植物を栽培し自国での販売のみならず近隣諸国や日本に輸出するビジネスモデルを企図している企業は、それまでラン科植物を輸出したことがない国でバリューチェーンを構築することがビジネス展開上の課題と認識していました。そこで、当該ビジネスモデルに関与するステークホルダーを洗い出し、協業を打診する際に当該ビジネスモデルにおける彼らの役割や期待をディスカッションしました。ディスカッションの際には、各ステークホルダーに対してSWOT分析を用いて提案企業のビジネスに参画することのメリット・デメリットを抽出し、ディスカッションを進めると同時に、SWOTクロス分析(SWOT分析の4項目をそれぞれ掛け合わせる分析)によって各ステークホルダーとの協働戦略を策定しました。このように個別のステークホルダーとの協働体制を構築したのちは、彼らをバリューチェーン上にプロットし、ビジネス遂行上どこに価値を見出すことができるのか、逆に価値を高めるための弱点はどこにあるのかをバリューチェーン分析図を用いて検討を行いました。この企業はニーズ確認調査でこのような調査を行い、現在はこのビジネスモデルが実際に機能するか検証するためのパイロット事業をデザインしています。この事例では、協業先に対してSWOT分析をしていますが、同様に競合に対して分析を行うことで、競合の価値を評価することが可能です。
(図表3)フレームワークの活用事例
途上国ビジネスにおける競合分析の実地方法
競合に関する情報を収集するには、日本国内で必要な情報にアクセスできます。昨今は様々な市場情報が発信されており、日本企業・海外企業問わず、多くの企業が自社ホームページを有し、中にはSNSで企業活動を発信していることもあります。途上国の現地企業の情報については、現地語でしか公開されていないことがあり難易度が高いように思うかもしれませんが、機械翻訳の活用によって費用をかけずに現地語で書かれている情報を理解することが可能です。このようなデスクトップ調査に加えて、日本の公的機関や金融機関へ情報提供を依頼することや、自社が進出を検討している国でのビジネス経験がある日本企業から話を聞くことで、情報の解像度をあげることができるでしょう。
しかしながら、競合他社の詳細を理解するためには、現地調査が必要となるケースも考えられます。国内調査である程度の情報は収集できても、実態まで詳しく理解することが難しい場合や、収集した情報の信頼度や鮮度が低い場合などは、現地調査を併せて行うことが有効です。ただし、海外での情報収集となると多くの費用、時間が必要になるため、日本での調査のように頻繁に行うことはできません。まずは日本国内で得た情報を整理して、自社のビジネス展開の戦略立案をするための競合分析において、現地で何を調べなければならないのか、事前に整理しておくことで効果的な情報収集とその後の競合分析が可能になります。
JICA Bizを利用して売上を実現されたある企業では、JICA Biz前のデスクトップ調査で競合調査を行い、現地の競合企業の分析に際し、何が足りないのかを事前に整理したうえで、現地調査を行った結果、より精緻な競合企業の詳細を把握することができました。まずは国内調査に取り組みつつ、現地調査の必要性を感じた場合は、早い段階で現地調査の実施を検討してみてください。
いかがでしたでしょうか?自社の戦略を立てるうえで有効な競合分析を行うことで、進出市場での優位なポジションを確立することに繋げましょう。
次回のテーマは、「注意すべき進出国の社会環境とは?」です!お楽しみに!
scroll