新興国・途上国の行政官が関西のイノベーション促進と産官学金連携の取組みを学ぶ
2024.10.28
世界共通の課題である感染症や気候変動の対応のために、イノベーション促進と国際的な協力が欠かせなくなっています。関西地域では、イノベーション促進のための投資やスタートアップ支援などエコシステム構築の取組みが、産官学に金融機関も巻き込んだ「産官学金連携」により活発に実施されています。この経験を活かして、JICAは、8月27日(火)から9月12日(木)まで京都、大阪、兵庫で開発途上国の行政官を対象とした研修「イノベーション促進による新産業の創造・振興」を実施しました。
本研修には、14か国14人とASEAN共同体から4人の計18人の行政官(産業振興、科学技術、特区などの担当者)が参加しました。
株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング(KRC)の協力のもと、京都、大阪、兵庫の民間企業や経済団体、自治体、大学、金融機関の関係者からイノベーション促進に必要な支援のあり方などの講義を受けると共に、視察を行いました。
神戸大学経済経営研究所の濱口伸明教授から、日本のイノベーション政策の強みだけでなく課題についての説明を受け、参加者の皆さんは、様々な国々が協力してイノベーションを生む必要性について理解しました。
さらに、経済協力開発機構(OECD)の科学技術イノベーション局のJens Lundsgaard 氏より、“Promoting New Industry and Innovation -OECD’s Evidence Base and Insights”(新産業とイノベーションの促進~OECDによるエビデンス(データ等)に基づく洞察)と題するオンライン講義を実施頂きました。講義では科学技術イノベーションのグローバル・トレンドや、OECDが実施するエビデンス(データ等)に基づく各国および地域(含、東南アジア)のイノベーションや産業政策についてのレビュー結果と各国の比較などが紹介されました。OECDは国際機関の中でデータ分析や政策提言に強みを持つ機関であることから、各国の科学技術イノベーション政策の定量的・定性的な情報をWebサイト上にまとめて発信・共有しているSTIP COMPASSの活用方法についての説明も行われました。イノベーションや産業政策を担う行政官にとって有用性の高い情報を得ることができました。OECD東京センターの上田奈生子所長から参加者に対して、OECDとJICAは、デジタル経済とイノベーションの加速を含む分野での協力推進を目的に、協力覚書を締結したことについて説明があり(*1)、本講義も連携の一貫として実施されているという説明がありました。本研修は、OECDの科学技術・イノベーションに関わる豊富な取組みをOECD非加盟国にも拡げるための契機にもなりました。
質問をするコンゴ民主共和国からの参加者
上田OECD東京センター長からのJICAとOECDの連携に関わる説明の様子
視察では、関西が強みを持つiPS細胞をはじめとするライフサイエンス技術における「産官学金連携」によるイノベーション促進の拠点である中之島クロス(大阪市)を視察しました。中之島クロスは、製薬企業や医療機器等の企業が数多く存在する医療産業クラスターのある道修町や金融ハブに近い中之島に新たに設立された産官学金連携の拠点であり、大阪・関西万博での出展協力も予定しています。同施設内にある株式会社日立プラントサービスのショールームでは、VRを用いた医薬・再生医療施設設計補助ツールを実際に装着してバーチャルな検査室の中に入る体験をしました。
中之島クロスの視察風景
この他、神戸医療産業都市推進機構によるライフサイエンス分野のイノベーション創出に係る神戸医療産業都市地区の取組みや、京都知恵産業創造の森や京都市産業技術研究所による京都における中小企業やスタートアップ企業を巻き込んだ産官学金連携のあり方について意見交換と視察を行いました。大阪では、大阪商工会議所、大阪大学、池田泉州銀行から、産学金の立場としてのイノベーション創出の取組みについても学びました。
参加者からは、商工会議所などの経済団体や金融機関との協力を行ってこなかったというコメントもあり、イノベーションの促進において多様なセクターの関係者を巻き込むことの重要性を理解する機会となりました。
本研修は、世界各地でのイノベーション促進と新産業の創出に貢献するために継続していきます。
■研修概要
研修コース名:イノベーション促進による新産業の創造・振興
研修期間: 2024 年 8 月 12 日~2024 年 9 月 13日
参加国:14か国(インドネシア、モンゴル、パキスタン、キューバ、ドミニカ共和国、メキシコ、パナマ、ボツワナ、ケニア、タンザニア、コンゴ民主共和国、アルメニア、タジキスタン、ジョージア)、ASEAN共同体(ASEAN事務局、インドネシア、ラオス、マレーシア)
参加人数:18人(産業振興、科学技術、特区などの担当者)
(*1)2024年4月30日、OECDとJICAは協力覚書を締結。東南アジアおよびインド太平洋地域の経済社会の開発に寄与することを目的に、気候変動の緩和、強靭で持続可能なサプライチェーン、グローバルなルールに基づく貿易システム、デジタル経済とイノベーションの加速、投資環境改善/民間部門の関与などの分野を念頭に、OECDとの協力を推進している。
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