\開催報告/途上国の想定外に挑む!プロジェクトの『軌道修正』を語る、草の根“つながる”座談会第2弾!
2024.08.20
NGOや大学等がとJICAが共同で実施する草の根技術協力事業。国も分野も多岐にわたりますが、実施団体が知見を共有し、それを様々な事業で活かすことができればきっと良い効果が生まれるはず…!そのような思いで始まった「草の根実施団体“つながる”座談会」。今年3月に続き2回目となる座談会の様子をお届けします。
「事業開始前に計画を立てたものの、始まってみたら想定通りにいかなかった…」という経験は、国際協力に関わっていれば多くの人が直面する課題。草の根技術協力事業を実施する団体も例外ではありません。そこで今回は、プロジェクトの『軌道修正』に焦点を当て、プロジェクトの実施経験が豊富な2つの団体にご登壇いただきました。座談会では、プロジェクト実地中にぶつかった問題をどう乗り越えたか、逆に思いもよらなかったポジティブな成果をどのように活用し、事業に反映させていったのか、現地の関係者をどのように巻き込み合意形成をしていったのか、といった内容をお話しいただきました。
1人目の登壇者は篠原大作さん。認定NPO法人日本ハビタット協会にて、2019年から、ケニアの対象地域でトイレの普及と手洗い場の導入による衛生環境改善支援をプロジェクトマネージャーとして実施していました。プロジェクトは今年6月に終了しましたが、対象63村で野外排泄の撲滅に成功し、当初の想定を大きく超える成果を上げました。トイレや手洗い場の建設費用を住民自身が捻出するために、収入向上を目的とした農業指導を取り入れていることがこの事業の大きな特徴です。事業開始時は遮光ネットやコンポストの活用を試みましたが現地の方に受け入れられず、養鶏とバナナ栽培に方針を変更しました。養鶏においては餌代が嵩んでしまうという難点がありましたが、現地の方のアイデアでアゾーラというコケを導入することで克服しました。トイレと手洗い場の普及の過程では、当初は鉄製のフタを設置してハエやにおいを防ごうとしていましたが、比較的手ごろな価格で日本製の便器が入手できることがわかり、導入したところ加速度的に普及が進んでいきました。座談会では、活動変更のプロセスや現地の方との合意形成の方法、また常に現地にはいられない中でどのように事業の進捗を共有するかといった点についてお話しいただきました。
日本製の便器を使用したトイレ
(鶏のエサ)を取る様子
2つ目の団体はアイ・シー・ネット株式会社。2022年から2024年にかけて、ミャンマーからの避難民を受け入れているバングラデシュ国コックスバザール県で、ホストコミュニティの生計向上支援に取り組んでいました。今回ご登壇いただいたのはプロジェクトマネージャーの松本幸敏さんと、モニタリング評価を担当する森田徹生さん。この事業では、プロジェクトの中間時点で森田さんによる中間モニタリング評価を行いました。プロジェクトにより農業収入が増加した農家もいた一方で、研修した農業技術の実践度には世帯によってバラつきがあることや、理解が不十分な農家に対し再研修の機会が無いことが課題として挙げられ、残り期間の活動の課題が明らかとなりました。さらに、プロジェクトの終了時にも同様に森田さんによる成果の評価、課題や教訓の洗い出しなどを実施しました。お二人からは、評価の目的や結果の活用方法、現地の方との対話の重要性などをお話しいただきました。
座談会の後半では、パネルディスカッションを行い、プロジェクトの『軌道修正』についてさらに深く聞いていきました。
<以下、パネルディスカッションより抜粋>
◆(質問)2つのプロジェクトが経験したコロナ禍。ネガティブな影響が大きかったと思うが、その中でも生まれたポジティブな影響は?
◆(回答)
・篠原さん(日本ハビタット協会):現地に渡航できずにオンラインのやり取りを余儀なくされた。良かった点としてはもともと現地の担当と活動計画やタイムラインを明確にし、報告する体 制を作っていたことで遠隔での事業も乗り切ったこと。また、トイレや手洗い場の設置が感染予防になることから保健省の後押しも受けることができた。
・松本さん(アイ・シー・ネット):採択後、事業開始前にコロナ禍が生じ、事業の開始が2年遅れる事態になった。事業が遅れたことで先に対象地域での支援を開始していた他の団体から現地の知見を得ることができた。
◆(質問)草の根事業では、現地の方の行動変容をもたらすことに苦労している印象。中間モニタリング評価の際に、現地の方に気付きを促すような工夫があれば。
◆(回答)
・森田さん(アイ・シー・ネット):現地の方に無理に気付きを促す必要はないと思う。それよりも未来について語り合うこと、「こういう風になったら良いよね」と対話できる関係性を作ることが重要。気楽に構えていることで話もしやすくなる。
◆(質問)柔軟な軌道修正のためにはきちんと事業計画を立てておくことが不可欠だと思うが、意識していることは?参加者へのアドバイスなどもあれば。
◆(回答)
・松本さん(アイ・シー・ネット):「何のためにプロジェクトを実施しているのか」という共通認識を持つことが重要。目的をブラさなければ到達するための道筋は柔軟に選択し、軌道修正することができる。プロジェクト目標のさらに先にある目的を共有して準備をすることが大切。
その後の質疑応答では、同じく現場で支援に取り組む参加者の方々から登壇者への質問が続きましたました。『軌道修正』は良くも悪くも多くの事業関係者が通る道。それだけに、参考になる内容が盛りだくさんだったのではないかと思います。登壇者の皆さん、ありがとうございました!次回の座談会もお楽しみに!
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