開発途上国での事業への民間資金動員と開発インパクトの創出
2024.11.05
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- 民間連携事業部 審議役 若林 仁
開発途上国のSDGs達成には毎年4兆ドルの資金ギャップがあり、民間資金の動員が不可欠です。JICAは海外投融資を通じて民間資金動員の触媒になるとともに、財務的リターンと社会的・環境的リターンの両立を目指すインパクト投資を民間事業向けに行うことで、開発インパクトを追求しています。
国連持続可能な開発目標(SDGs)の達成が危ぶまれています
。開発途上国のSDGs達成に必要とされる投資額は年間約7.8兆ドルですが、実際の投資額との差分である資金ギャップは年間約4兆ドルに上ります(下図)。
開発途上国へ流入する資金は、既に民間資金が政府開発援助(ODA)をはるかに上回っています。「ビジネスのサステナビリティと収益拡大のためにはSDGsへの貢献が不可欠」との認識が企業にも拡大し、SDGsを経営に取り込む企業や、ESG投資
・インパクト投資に取り組む金融機関も増加しています。実際、ビジネスを通じた開発途上国の社会課題解決を目指し、高い見識と先見性、そして情熱を持って取り組む国内外の様々な民間企業・投資家と日々接しています。
しかし、開発途上国での事業は、投資環境・累積債務・インフレ等のカントリーリスクを始め様々な障壁があり、金融市場から資金調達がしにくい
のが実情です。SDGs達成に向けた資金ギャップ解消には、さらに民間資金を動員する必要がありますが、JICAはODA事業を通じた触媒
の役割を期待されており、その一つとして海外投融資事業を実施しています。
海外投融資は、開発途上国において、民間企業・金融機関が行う、先導性があり、事業達成が見込まれる開発効果が高い事業に融資や出資を供給するインパクト投資です。
海外投融資は原資を資本市場から資金調達し
、一定の投資収益を確保しつつ、アジア開発銀行(ADB)といった国際開発金融機関(MDBs)や民間金融機関と協調しながら、カントリーリスクや事業リスクをとる形で供給します。直接出資やファンドへの出資では限定された範囲で資本参画します。そして、投融資先と開発効果を予め特定し、国際基準に沿ってモニタリング・測定・評価を行うことで事業・企業価値向上と開発インパクトの双方を追求しています。
2012年以降でみると、2023年度末の新規承諾累計は約90件、約1兆円です(図)。2022年度の直接投融資新規承諾額は約1,200億円(約10億ドル)と全世界のインパクト投資残高の約1%、民間資金動員規模もOECD基準で600万ドルと世界の約1%ですが、この動員効果を一層高めていくことが難しくも重要です。
具体的な取組を紹介しましょう。
(出所:JICA;「LEAP」は「 アジアインフラパートナーシップ信託基金 」の略)
SDGs達成に向けて気候変動対策・脱炭素化は喫緊の課題で、JICAの重点分野の一つです。例えば、ラオス初の独立発電事業者(IPP)による東南アジア最大の風力発電事業はそうした課題に応える案件です。ADBや日本の商業銀行等と協調して融資していますが、この案件は、JICAが100%資金拠出する信託基金(LEAP)の譲許的資本(市場資金と比較し有利な条件による資金供給)をADBが活用している特徴があります。開発金融機関がリスクを取りつつ民間資金の動員を促すブレンデッドファイナンスにより、民間行のバンカビリティ(融資可能性)を高めて民間資金を動員し、再生可能エネルギー導入を推進するモデルケースです。エネルギー分野は資金ギャップが最も大きく、こうした案件の資金需要は旺盛ですので、JICAも効果的に資金ニーズに応えていきたいと考えています。
(出所:JICA; sustainability_report_2023.pdf (jica.go.jp) 、p18)
世界中で銀行口座を持たない成人の数は14億人 であり、ほぼ全てが開発途上国に暮らしています。誰もが、とりわけ女性が、正規の金融サービスを利用できる金融包摂の実現はとても重要な課題です。また各国経済の大きな割合を占める中小零細企業(MSMEs)の金融アクセス改善は、その国の経済や産業の発展に不可欠です。JICAは開発途上国の地場金融機関やマイクロファイナンス機関の長期資金ニーズに対して海外投融資により資金供給能力を補い、女性等の金融包摂やMSMEsの金融アクセス改善を実現し、生計向上や格差是正など開発インパクトを追求しています。
(出所:JICA; プレスリリース )
食料安全保障や気候変動対策の観点では、強靭な農業バリューチェーン構築も重要な課題です。ザンビアやマラウィでは、日本企業も出資するETC Group社が実施する農作物加工工場の建設・運営、小規模農家等から同工場で用いる原材料買付に対する融資を行っています。このうち、ザンビアでは大豆農家の生産性向上のために、ETG社や政府機関の技術者・普及員の能力向上を支援する技術支援を提供しています。
ASEAN、インド、アフリカ、中南米の各地域では、ファンド出資によりスタートアップのエコシステム発展を支援していますが、JICAが実施するビジネスイノベーション創出の起業家支援活動(Project NINJA)等とも連携し、イノベーティブな事業で社会課題解決を追求する新興企業との共創により、開発インパクトへのシナジー効果を追求しています。
上記の事例のように、海外投融資は他のJICA事業(技術協力、円借款、無償資金協力、JICA海外協力隊など)や事業関係者と連携し、投資環境や事業・企業価値向上にJICAならではの付加価値を提供できる強みを活かし、開発インパクトを創出する機会を拡げています。
開発途上国のSDGs達成に向けて、SDGsへの貢献や社会課題解決を積極的に掲げて取り組む民間企業やインパクト志向の金融機関のパートナーとしてJICAが協働することは必要不可欠です。海外投融資事業は、適切なリスクテイクと厳格な案件監理を徹底しながら、民間資金動員の推進と、JICAならではの開発インパクト創出の取組みを深化させていきます。
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