【コロナ関連コラム】「ソーシャルディスタンシング」の時代におけるソーシャルキャピタル—社会的なつながりに新型コロナウイルス感染症が及ぼす影響の考察

2020.08.31

JICA緒方貞子平和開発研究所には多様なバックグラウンドを持った研究員や職員が所属し、さまざまなステークホルダーやパートナーと連携して研究を進めています。そこで得られた新たな視点や見解を、コラムシリーズとして随時発信していきます。今回は、フィリピン出身のリセット・ロビレス研究員が、コロナ時代にソーシャルキャピタルがどう変容していくかについて、JICAの現場力の重要性にもふれながら、以下のコラムを執筆しました。

著者:リセット・ロビレス(JICA緒方研究所研究員)

パンデミックの時代を生きる

2020年は特に記憶に残る年となった。年明けにはオーストラリアの山火事で多くの野生動物の命が奪われ、アメリカによるドローンを使ったイランの司令官殺害が世情不安を広げて報復行為を誘発した。フィリピンでは火山が噴火し、マニラと近隣の複数の州が火山灰で覆われた。しかし、はるかに大きな危機、すなわち新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、世界的な脆弱性と不安定さが前面に押し出された今となっては、それらは全て遠い昔の出来事に思えてくる。世界保健機関(WHO)によると、2019年12月に中国の武漢で流行が発生するまで知られていなかった新たなウイルスが新型コロナウイルス感染症の原因とされている(World Health Organization 2020a)。振り返ると、すでに2020年6月には、アフリカ、南北アメリカ、東地中海、欧州、東南アジア、西太平洋の216ヵ国・地域で約703万人が新型コロナウイルス陽性を示し、確認された死者数は404,396人であった(World Health Organization 2020b)。これらの数字の上昇は続いており、いつ止まるのかは不透明だ。新型コロナウイルス感染症が世界の異なる地域へ急速に広がったことは、いかに人々が相互に結び付いているか、また、この危機がいかにグローバルなものであるかを再確認させ、パンデミックを緩和し封じ込める喫緊の行動が強く求められている。

パンデミックの拡大の速度と規模が大きく、開発途上国では社会インフラや制度が適切に機能していないことから、新型コロナウイルス感染症の予防と封じ込めに向けた迅速かつ協調的な介入が必要となっている。現状の世界全体の窮状を見ると、感染症は単なる保健上の問題にはとどまらず、人間の安全保障上の懸念となることを示している(Enemark 2009、Caballero-Anthony 2006、Davies 2008)。このグローバルな課題に対して、持続可能で包括的な解決策を策定するためには、多様なステークホルダーが分野横断的に協力することが必要だ。新型コロナウイルス感染症のパンデミックと、私たちがこれまでに直面してきた他の災害との間に大きな違いはない。いずれも同じように壊滅的であり、人々のコミュニティー、場合によっては社会全体に対して深刻な破綻をもたらすものである。一方、今回のパンデミックが他の危機と異なるのは、新型コロナウイルスの影響が全ての人々に分け隔てなく、しかし一律ではない形で、非常に急速に波及している点だ。例えば、北米や欧州の非常に裕福な先進国であっても、新型コロナウイルス感染症の症例数の増大から免れられなかった様子を私たちは見てきた。中東や北アフリカの不安定で紛争を抱える国の中には、輸出収入の減少や国内経済活動の縮小といった新型コロナウイルス感染症によるさらなる影響に苦しんでいるところもある(※1)。また、難民あるいは国内での強制移住や避難を余儀なくされている人々のうち、80%が低中所得国に住んでおり、これまでも給水・衛生システムや医療施設へのアクセスが限られている課題に直面してきたが(※2)、新型コロナウイルス感染症の流行によって、さらにその状況が悪化している。このように、異なる環境や背景を持つ多様な人々に影響が生じており、細分化されたニーズへの包括的な対応が強く求められている。

今回のパンデミックがもたらした不可避な結果の一つが、私たちの社会的なつながりや相互の関係性への影響である。これらの社会的なつながり(以下「ソーシャルキャピタル」と呼ぶ)は、私たちが危機に対応し、復活するために必要となる基礎的リソースへのアクセスを仲介する役割を果たす。ソーシャルキャピタルの資本としての実際の価値は意見が分かれるものの、ソーシャルキャピタルは私たちの社会的関係性に埋め込まれていて、日常、そしてとりわけ危機の下で生き延びていくために活用されているという点は、特筆すべきである。

本コラムは、ソーシャルキャピタルの観点から執筆したものであり、さまざまな社会的アクターの重要性と、進化し続ける彼らの役割や存在が、現在のパンデミックにどのように影響されているかを示している。さらに、今回の危機が開発協力に及ぼす不可避な影響についても見ていくものである。

ソーシャルキャピタルと保健

「ソーシャルキャピタル」とは、異なる場面においてさまざまなリソースにアクセスするための社会的な相互交流、また、人間同士および組織同士のつながりの重要性を指している。ソーシャルキャピタルは各個人やコミュニティーのメンバーたち自身のみでは築けず、彼らの間でつながりや関係性ができて初めて構築される。物的資源であれば使用すればするほど消耗していくが、ソーシャルキャピタルは、使用すればするほど、すなわち社会的交流が活発化すればすれほど増大する。「ソーシャルキャピタルは、人と人との信頼、市民のエンゲージメント、そして規範や互恵性といった優れた特性の集合体ではないか」(Putnam 1993)。私たちが現在直面しているような公衆衛生上の危機においては、こうした特性は重要になる。私たちがさまざまな社会的つながりから構築してきた絆を思えば、他者への信頼の必要性や互いに関わりを持って社会に参加することの必要性は明白だからだ。

ソーシャルキャピタルは私たちが他者との間に築く絆に基づくものとする見地から、SzreterとWoolcock(2004)は「結束型ソーシャルキャピタル(Bonding social capital)」「橋渡し型ソーシャルキャピタル(Bridging social capital)」「連結型ソーシャルキャピタル(Linking social capital)」の違いを示し、当事者や当事者間の交流を可視化した利便性の高いものとして、社会的結びつきを分類した。「結束型ソーシャルキャピタル」は、互いを似通った者であると認識する者たちからなるネットワークの構成者間の信頼および協力関係を指す。一方、「橋渡し型ソーシャルキャピタル」とは、何らかの人口学的観点から互いに似ていないと認識している人々の間の敬意や共通性の関係を指す。さらに、「連結型ソーシャルキャピタル」とは、社会における組織的、制度的な権力や権限の差をまたいだ信頼関係のネットワークを指す(SzreterおよびWoolcock 2004、654~655ページ)。個人やグループは、自分たちにとって「社会的結束」「社会的橋渡し」「社会的連結」であると特定したものを、自分たちが必要とする目標達成に向けてそれぞれ役割があるとして区別している。これらの社会的結びつきの一つ一つが、私たちの相互交流や社会関係を豊かなものとし、パンデミック発生時には、ウイルスそのものの影響だけでなく、ウイルスに付随して私たちの生活のさまざまな側面にもたらされる課題に対して回復力を強化してくれるようにも見える。

社会的空間を再定義する:パンデミック発生時のソーシャルキャピタルをどう築くか

「社会的結束」は、多くの場合、家族、親族および友人から構成される。移民の場合は、日常的な交流や助け合いを補完してくれる者として、母国が同じ移民まで含むこともある。家族や友人との強固な結びつきがあって、全ての人々が入手できるとは限らない特定のリソースや情報にアクセスできるようになる。この結びつきは、頻度の高い交流や助け合いによって醸成され、ある程度の期間をかけて発展していく。物理的に一緒にいるということが人々の絆を強化し、危機の体験を共有することで共通の対応戦略や回復力をもたらす。しかし、今回の新型コロナウイルス感染症のパンデミックでは、実際に対面する形での交流はかなり制限されているため、ほとんどの人々は自分たちの安全と回復力を高めるために一緒にいるという行動がとれなくなってしまった。反対に、さらなる感染拡大を防ぐため、互いに安全な物理的距離を保つことが強く求められている。例えば、感染を回避するために、高齢者や基礎疾患のある者など、重症化リスクの高い人々は家族から隔離されている。ところが、残念ながら彼らの身の安全を優先するために自らを隔離できること自体が特権であり、全ての人ができるわけではない。特に人口が密集した都市部では、難民や国内移住者、避難を余儀なくされている人々、そして不法居住者は、自主隔離する能力が無いか、あるいはそれが限られているため、特に脆弱な立場に置かれている。自主隔離できなければ物理的な距離が近くなってしまい、感染が広がる恐れがあることから、こうした状況は潜在的に脆弱性や不安定性の源になり得ることを示すものである。

「社会的橋渡し」、すなわち、これまで日常的にやりとりをしてきた他のコミュニティーやグループに属する人々とのつながりも、今回の公衆衛生上の危機によって変容した。他のコミュニティーやグループに属する人々も全て平等に新型コロナウイルスの脅威にさらされているため、ごく身近な人々を除いて、全ての社会的な関わりが縮小している。こまめな手洗いと公共の場でのマスク着用についての注意喚起が繰り返されているだけでなく、一定数以上の人々が公共の場に集まることも、厳しく制限されていないとしても、強く自粛を要請されている。地域全体のロックダウンや隔離といった政策(日本では緊急事態宣言)は、学校、職場、レストラン、教会、モスク、商業施設といった一般的な場所における交流に影響を及ぼした。こうした場所は、ウイルスに感染しやすい場所として一時的に閉鎖の対象となってきたからだ。

社会的存在である私たち人間は、他者とコミュニケーションをとり、交流する能力に長けている。今回のパンデミックでは、それへの対応戦略としての一時的隔離、すなわち「ソーシャルディスタンシング」が求められてきた。それでは、「社会的結束」と「社会的橋渡し」はパンデミックによって変化したであろうか。端的に言えば、私たちはこれまでと変わらず、その二つを築き続けている。しかし、私たちが日常的にこれらを醸成する方法はいくらか変わった。定期的に連絡をとる間柄の人々とのコミュニケーションやつながりを維持することについては、今も課題が残っているが、今回のパンデミックでこれまでの方法に代わるものが強く求められている。多くの人々にとって、物理的にその場にいられないことの埋め合わせとして、パソコンやスマートフォンなどを活用したテクノロジーが非常に便利なツールとなった。家族や友人の健康状態や安全を確認するため、メッセージ、音声通話、ビデオ通話の利用が顕著になっている。加えて、職場や学校での対面でのやりとりはテレビ会議にとって代わられた。実はこうしたテクノロジーを使用して遠く離れた家族や親族と連絡をとることは何も新しいことではなく、例えば移民は、これまでもこうした手段を利用して母国の家族や友人とのつながりを維持してきている。しかし、現在のパンデミックによって、こうしたデジタル機器の使用は、連絡や交流のための代替手段から主流の手段へと移行した。

学校、職場、その他の公共の場など、集団行動がとられる場所では、密閉空間で長時間にわたって人々が物理的に密集する状況を緩和するために、代替的な方法をとらざるを得なかった。一部の学校ではオンライン学習プログラムが実施され、企業では在宅勤務が取り入れられてきた。ソーシャルメディアは、制約される対面のやり取りを補完するためのメッセージ送受信プラットフォームとして機能するとともに、情報を拡散する媒体としても機能している。こうしたテクノロジーによってリアルタイムで他者と連絡をとり、つながることが可能になったことで、私たちが社会的な結びつきのある人々からさらに孤立することは未然に防ぐことができている。

社会的なつながりからの「ソーシャルディスタンシング」は、ウイルス感染拡大の速度を遅くするために実行可能な解決策に見える。一方で、他者とのやりとりを継続するための環境やツールを誰もが持っているわけではないため、それらを活用して意識的に自主隔離できない人々もいる点を認識することが重要である。例えば、一部の学校では、オンライン授業を実施するためのプラットフォームの利用を促進しているものの、そのために必要なスマートフォンやパソコンなどのツールを全員が持っているわけではないという事実が明るみに出た。また、一部の生産現場やサービス産業では物理的にその場に人がいなければ業務が遂行できないように、在宅勤務ができない仕事も数多くある。さらに、紛争や強制移住、極度の貧困といったより脆弱性の高い環境下では、こうしたツールへのアクセスはあまりに現実離れした特権である。

テクノロジーは、私たちが連絡やつながりを維持するための追加的な重要な手段となる。物理的なつながりの制約に対抗するために役立ってきた一方で、テクノロジーへのアクセスがない人も一部存在することは、格差を強調するものとなっている。脆弱な立場に置かれている人々のリソースへのアクセスの格差は、パンデミック発生時、そして収束後にも彼らにさまざまな形で影響を与える。

社会的つながりへの信頼

「友人、家族、近隣住民などとの間の『結束型ソーシャルキャピタル』と、異なる人口学的グループや空間的に離れた場所にいる人々のグループなどの間の信頼関係である『橋渡し型ソーシャルキャピタル』の質と量を拡充することで公衆衛生分野での改善が見られるように、権力の格差をまたいだ『連結型ソーシャルキャピタル』の構築を促進する必要があり、特に、自由に対面しての交流を必然的に伴うサービス提供に責任を負う機関も、この連携に巻き込むことが不可欠だ」(SzreterおよびWoolcock 2004、655ページ)。

「社会的結束」や「社会的橋渡し」と同様に、今回のパンデミックに対応し乗り越えるための情報やリソースと私たちをつなぐ政府など行政機関との間の「社会的連結」も、その職務や責務に課題を抱えている。社会の機能を維持するため、政府や関連機関とともに現場で働く医療従事者やその他のエッセンシャルワーカー(社会で必要不可欠な労働者)による不断の献身を、私たちは日々称賛している。この公衆衛生上の危機が人間の安全保障上の懸念であると理解するにつれ、私たちの福祉、そして、より広義には経済や社会に対する影響にも対応するためには、さまざまな機関との協力を同時に実施する必要性も私たちは認識できた。

「社会的連結」はパンデミックへの対応において不可欠であり、政府などの公共機関に対する私たちの信頼は、大規模なパンデミック対応の成功に大きく貢献するものである。新型コロナウイルスへの対応に成功したとして脚光を浴びている国々の例としては、台湾、韓国、ニュージーランド、オーストラリアなどが挙げられる(※3)。国家と国民の間の「父子的関係」に基づく信頼が協力を推進したのか(Xiao 2015)、それとも国家の能力や社会的信頼、リーダーシップによるところが大きいのか(Fukuyama 2020)わからないが、いずれにせよ、こうした国家レベルでのパンデミックへの対応の成功には、信頼という要素が重要であることが実証されたのは明白だ。しかし、信頼は一夜にして勝ちとれるものではない。人々と国家の間で前向きな交流が繰り返されることで得られるものであり、現在の新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、「社会的連結」の正当性を確認するタイミングの一つである。今回のパンデミックでは、人々がこうした公共機関に寄せる信頼が大規模なパンデミック対応の成功につながり、特に社会からとり残されている人々にとっても支援が届きやすくなったといえる。

新型コロナウイルス感染症は、社会を動かすために必要な従来のさまざまな活動やサービスを破綻させた。「社会的連結」によってこうした課題にリアルタイムで取り組もうとする中で、私たちは前を向き続け、どうすればこの「新しい日常」においてもいつも通り活動できるのか、予測し続けていかなければならない。パンデミックの影響を大きく受けている「社会的連結」の一例が国際開発協力だ。パンデミックの危機に対する取り組みを継続しつつ、私たちは同時に今後を見据え、ポスト・コロナの世界がどのようなものになるか、特にすでに社会から取り残されている人々や弱い立場にある人々にとってどのようなものになるかを考えていく必要がある。

開発協力とポスト・コロナ対応の連携

2020年4月、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが国際開発協力に及ぼす影響についてのウェビナーを国連開発計画(UNDP)が開催した。そこで現在のグローバルな公衆衛生上の緊急事態が世界のあり方を再考させる大変革のきっかけとなるのか、それとも現状のアプローチはそのままに、ただスピードアップさせるような促進剤となるのかという議論が提起された(※4)(Izmestiev and Klingebiel 2020)。今回の危機に取り組む方法を探求し続ける中で、これらは重要な論点となる。

開発協力にとって、パンデミックは目新しい課題ではない。インフルエンザのパンデミック、マラリアやエボラ出血熱などの流行の際には、特に脆弱でリスクの高い人々に対して開発機関は支援を行ってきた。支援を通じて、住民と行政機関との「社会的連結」といった、縦の格差を超えてコミュニティーとつながることが理想的だ。適切なリソースを備えることができれば、開発アクターは社会から取り残されている人々や弱い立場にある人々をより効果的に支援できる。開発支援は支援対象のコミュニティーについての理解を深めることで前進し、ボトムアップ型の支援は参画している開発アクターと支援対象コミュニティーの間で常時行われているやりとりを土台に構築される。コミュニティーのニーズと能力を総合的に理解することで、開発機関はコミュニティーごとの状況に合った適切な支援をすることができるのだ。ところが今回のパンデミックでは、開発アクターとコミュニティーの双方が、感染リスクにさらされてしまった。全ての人々の安全を確保するため、人と人の接触を伴う活動は最小限にしなければならなくなった。このような状況では、開発協力の未来はどのようなものになるのだろうか。

開発協力は、フィールドに出向き、開発アクターが現地の人々と関わることで発展する。JICAは同様の考え方で現場を重視しており、コミュニティーごとに異なる人間の安全保障上の懸念に対する持続的な解決策を生み出すため、“現場(Genba)”は学びの場であり、コミュニティーとの交流を発展させる場であると考えている。現在の移動制限は、開発協力の遂行にとって避けようのない悪影響を与える。したがって、どうすればコミュニティーと開発アクター双方の安全を最優先しながら、開発によってもたらされる連携を持続できるのかを再検討することが強く求められている。パンデミックがもたらした変化を見ても、開発支援における現場の重要性は消えなかった。むしろ、新たな状況に合わせて現場との関わり方を変える必要性を認識させられた。

過去にも、今回のパンデミックと似たような困難な状況下で支援が行われたことがある。特に危険な紛争下では、人道支援アクターはリモート活動を活用して被害を受けている人々を支援してきた。例えば、弱い立場に置かれた人々への支援活動をリモートで監督、管理、サポートするほか、彼らとパートナーシップを組むなどしてきた。今回のパンデミックにより生じている制約を補うために、開発アクターも似たような手法を検討することができるだろう。プロジェクトやプログラムをリモートで管理することは、さまざまな困難の中でも支援を継続するために実行可能な選択肢である。

JICA海外協力隊による手洗いダンス動画を用いたカンボジアでの公衆衛生向上キャンペーンの継続から(※5)、ガーナでのリモート技術協力による知識の伝達の継続といった事例まで(※6)、開発協力では、支援や開発のイニシアチブを提供するにあたって、変化する状況に絶え間なく適応しなければならない。とは言え、こうした活動を効果的に遂行するには、社会的な結びつきへの信頼の重要性を認識することが必須となる。よって、今回のパンデミック下にあっても開発アクターが支援方法を探求していきながら、開発アクターと支援先コミュニティーの間に構築されている関係の質に注意を向けることも重要だ。当事者間で、より協力的かつ連携的な関係性のための機会を創出することで、健全なパートナーシップを形成するべきである。このパンデミックによって悪化している既存の課題、あるいは新たに生じた課題に対処するためには、今や開発協力がこれまで以上に重要になっている。新型コロナウイルス感染症は、開発協力にさらなる困難をもたらしているものの、既存の社会的つながりに加え、開発アクターとコミュニティー間の信頼があれば、その活動はより質が高いものになるだろう。

パンデミックの先を見据えて

グローバル化した社会において人々がつながっていく際の特徴の一つが、移動性だ。しかし、このパンデミックの時代では、移動自体が「社会的結束」、「社会的橋渡し」、そして私たち自身の安全にとって脅威となり、パンデミックに対応するための「社会的連結」さえも力を弱められた。私たちは、交流と移動性が強まっていくことで長年グローバル化の恩恵を受けてきたが、今回のパンデミックはこうした活動に直接影響を与えている。

繰り返しになるが、現在のパンデミックは、私たちそれぞれの脆弱性や不安定性を高める人間の安全保障上の懸念だ。私たちをこれまでトップダウン型で守ってくれていた源は「社会的連結」であり、同じくらい重要なのが、「社会的結束」や「社会的橋渡し」でつながった人々の集合的なエンパワメントであった。新型コロナウイルス感染症に対する人間の安全保障の観点からのアプローチを具現化するには、社会的なネットワークでつながる全ての人々や組織が重要なのだ。

これまでのソーシャルキャピタルやソーシャルネットワークの定義では、私たちが人と人との信頼を構築するためには時と場所を共有することを必要としてきた。他者と関わり合うために物理的にその場にいることで、私たちは自らの帰属性を繰り返し確認してきた。しかし、今回のパンデミックによって、私たちはソーシャルキャピタルをどのように発展させるかを再定義しなければならなくなった。パンデミックにおける合言葉が「共に乗り越えよう(※7)」であることを思えば矛盾にも思えるものの、今、私たち個人個人の取り組みは、一時的に物理的な距離を確保しなければならなくなっている。交流や信頼、互恵関係の新たな様式に適応することが必須であり、物理的な移動やコミュニケーション、交流といったつながり方は、この新たな状況に適応しなければならない。「社会的結束」、「社会的橋渡し」、そして「社会的連結」は今でも存在している。この困難な時代に合わせて、その交流の仕方を構成し直しさえすればいいのである。

※本稿は著者個人の見解を表したもので、JICA、またはJICA緒方研究所の見解を示すものではありません。

■リセット・ロビレス研究員プロフィール
フィリピンの大学図書館での司書を経て、JICA研究所(当時)の平和と開発領域の非常勤研究助手として勤務。慶応義塾大学政策・メディア研究科にて、災害のリスク緩和および復興における移民のソーシャルキャピタルの重要性について研究し、博士号を取得。2019年8月より現職。

脚注

引用文献

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