【研究員が聞く!マリー・ソデルベリー特別客員研究員インタビュー】ポストコロナの世界でのODA、日本、そして欧州が果たす役割とは

2021.01.12

JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)のニコライ・ムラシキン研究員が、マリー・ソデルベリー特別客員研究員にオンラインインタビューをし、ポストコロナの世界での日本や欧州によるODA、そして研究機関の役割などについて聞きました。

ソデルベリー特別客員研究員は、スウェーデン・ストックホルム商科大学欧州日本研究所(European Institute of Japanese Studies)の所長を務めています。1980年代初頭には、上智大学で緒方貞子氏の下で学んだ経験もあります。

※このインタビューは、2020年11月19日に実施され、その際の発言を要約・編集したものです。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックへの多国間主義アプローチ

ムラシキン:新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)に対して各国は異なる政策をとっていますが、このような国際関係においては、どういった問題、変化、あるいは一貫性が重要でしょうか。

ソデルベリー:多国間主義は、将来のためにもコロナとの闘いのためにも重要です。単独でコロナとの闘いに勝てる者はいません。パンデミックには、国連や世界保健機関(WHO)といった国際組織と連携した対応が求められます。国際関係や開発協力の分野では、公衆衛生の課題が以前にも増して重要になっています。多国間の信頼は不可欠であり、支援を受ける国々のニーズに耳を傾けることが重要です。パンデミックにより貧困が拡大してさまざまな歪みが生まれ、スウェーデンでも社会の分断を引き起こしています。こうした情勢に対処するために開発協力は特に重要性を増しており、柔軟な支援が求められています。近年、スウェーデンは2,000件の開発協力を実施しましたが、そのほとんどについてコロナに対応するために見直しや変更が行われました。貧困の拡大は、人道支援の必要性を改めて浮き彫りにしています。国連世界食糧計画(WFP)が2020年のノーベル平和賞を受賞しましたが、これは人道支援の重要性を示す出来事です。トランプ政権によるパリ協定とイラン核合意からの米国の離脱で見られたように、国際的な枠組みに対する信頼は数年で低下してしまうことが分かりました。国際関係においては、信頼と一貫性が重要なのです。

マリー・ソデルベリー特別客員研究員はスウェーデンやEUの視点から議論

ムラシキン:ポストコロナの世界において、日本はどのような貢献ができるでしょうか。

ソデルベリー:医療保健分野は日本の開発協力の強みの一つであり、この分野での日本の活動は今後も継続されるべきでしょう。日本による支援が1970年代から続いている東南アジアでは、特に日本に対する期待が高く、日本がリーダーシップを発揮することができます。日本の専門的知見が必要とされている国の例としては、ミャンマー、ベトナム、インドネシア、フィリピンなどが挙げられます。台風がフィリピンを襲った際には、首都マニラでの長年にわたる日本の洪水対策が重要な役割を果たしました。また、日本は送電線、港湾、空港、道路、鉄道といったインフラ分野と医療保健分野に関して、世界中で模範的な役割を果たすことが可能です。

ムラシキン:コロナは、インフラを使った人と物の移動に多大な影響を与えましたが、デジタルコミュニケーション技術を使えば、いくらかこの影響の埋め合わせができるかもしれませんね。

ソデルベリー:日本と欧州連合(EU)は、各国がデジタル技術を通してつながることを支援できます。このデジタルな連結性があれば、例えばワクチン需要に関するアンケート調査やワクチン配布をサポートできるはずです。

重要性を増すEUと日本のパートナーシップ

ムラシキン:自由と民主主義を重んじるスウェーデン、EU、そして日本は、どのような分野で協力できるでしょうか。

ソデルベリー:2018年にEUと日本の間で締結された「日EU戦略的パートナーシップ協定(SPA)」の一環として、「持続可能な連結性及び質の高いインフラに関する日EUパートナーシップ」があります。この中で、連結性に関して協働する機会を探るために、日本とEUの関係者が中央アジア、東欧、アフリカなどの国々を共同で訪れ、調査する計画があります。コロナによってこの計画は延期されていますが、今後実施されると私は確信しています。これが協力の第一歩です。日本が先駆けとなっている官民連携は、欧州でも着実にトレンドになってきており、単に支援を受ける側の国々だけでなく、ドナー国側の企業にとっても有用です。価値観を共有する日本と欧州は、中国の一帯一路の代わりとなる取り組みができるかもしれません。また、米国も再び多国間主義に回帰することを願っています。さらに、EUと日本は、SPAの一環であるグリーンエネルギーについても協力して取り組むことが可能だと思います。

さまざまな質問を投げかけたニコライ・ムラシキン研究員

ムラシキン:グリーンエネルギーについては、2050年までに日本のCO2排出量を実質ゼロとするという目標を菅義偉首相が定めました。

ソデルベリー:日本と欧州はいずれも再生可能エネルギーへの転換に向けて進んでいます。また、パンデミックや自然災害との関連も指摘される気候変動ですが、これに対処するためにも、再生可能エネルギーは一般市民からの支持を広げつつあります。日本は、EUの共通安全保障防衛政策(CSDP)の民間ミッションに参加した実績もあります。例えば、アフガニスタンの市民社会を支援するためのミッションなどがそうですが、この分野はさらなる協力が可能だと考えます。コロナのパンデミックが2020年3月に拡大した際には、防衛部隊を開発途上国に派遣し、野外病院を設置してはどうかと考えました。将来、これをEUと日本が共同実施することは可能だと思います。

開発協力を形づくる上での研究者の役割

ムラシキン:コロナ禍の現状において、研究者や研究機関はどのような役割を果たせるでしょうか。

ソデルベリー:パンデミックを緩和するための持続可能なシステムづくりが必要です。さらに、途上国でのパンデミックの影響が過度に深刻にならないよう、持続可能なシステムのつくり方を研究者が途上国に対して伝えることが可能でしょう。また、日本や欧州の研究者が途上国の研究者と共同研究を実施し、開発協力の実施方法を改善するための実証的証拠(エビデンス)を収集することもできます。防災や復興に関するEUと日本の共同の取り組みを実施して知見を蓄積すれば、パンデミックへの応用もできます。私たちは、常に長期的視点で物事を考えなければならないのです。

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