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国際ボランティア会議で青年海外協力隊(JOCV)研究の成果を発表-大貫研究員、岡部客員研究員

2016年12月12日

現地で活動する青年海外協力隊員
現地で活動する青年海外協力隊員
(写真:今村健志朗/JICA)

「ボランティア事業を通じた地域の強靭性の向上」をテーマとした国際ボランティア会議(IVCO)2016が2016年10月9日~13日にドイツのボンで開かれ、JICA研究所の大貫真友子研究員と岡部恭宜客員研究員(東北大学教授)が「青年海外協力隊の学際的研究プロジェクト」の成果を発表しました。

会議には、30以上の国から、58団体、150人あまりが参加しました。3日間にわたり、多くの分科会が開かれ、参加者が議論を交わしました。

大貫研究員は、2日目の全体セッションで、「成功する国際ボランティアの主たる能力・行動特性とは?」のタイトルで発表し、青年海外協力隊員(以下、「隊員」)の派遣前、派遣中(派遣1年後)、帰国直後の意識調査を基に分析した結果を、次の3点を示唆するものとして述べました。
(1)成功のカギは、ボランティア自身がもともと持っている主導力、最初の1年間に活動を通じて培う交渉技術、さらには適応力を向上し続けることであり、現地に溶け込むことや対人葛藤・ストレスの管理がボランティアの任務遂行に欠かせない重要な過程である
(2)現地受け入れ機関(カウンターパート)でのボランティアの社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)の形成は現地側のキャパシティビルディングを促進する
(3)需給(現地の要請と派遣ボランティア)のミスマッチはボランティアの結果にマイナスの影響を与える

発表を行った大貫研究員
発表を行った大貫研究員

質疑応答では、ボランティアの専門性が高い方がボランティアの効果につながるのではないかというコメントや、開発へのインパクト(貢献)について結果が乏しいように見えるのはどういうことかなどの質問が出ました。

岡部客員研究員の発表「社会関係資本形成と青年海外協力隊の役割」は、会議最終日の「理論モデル:開発のためのボランティア活動、ボランティア活動の環境」のセッションで行われました。

発表では、隊員が開発協力の現場にどのような貢献をもたらすのかについて、まず、ボランティアの3つの機能を指摘しました。
(1)動的情報(ボランティア活動とそれに対する人々の反応から生まれる情報)の創造。
(2)柔軟な専門化(状況に合わせた分業)。
(3)弱い専門性の強み(現地の人々と共に働き観点を共有できる)。

発表する岡部客員研究員(左)
発表する岡部客員研究員(左)

そして、これらの機能はネットワークと信頼の形成、すなわち社会関係資本の重要性を示しているとして、意識調査データを用いた記述統計によって、現地の人とのネットワークとコミュニティや職場での信頼度を測定しました。前者を測る指標として、活動中にできた友人の数および現地の冠婚葬祭への参加回数を、後者の指標として、職場の同僚や近隣住民を信頼している程度をそれぞれ分析しました。その結果、ネットワークと信頼の数値はいずれも高く、協力隊が現地の社会関係資本形成に寄与できることが示されました。

さらに、定量的分析だけでは不充分であるとして定性的な事例研究を行い、上記ボランティア機能(1)-(3)の実例を検討しました。それによれば、食品加工で派遣された隊員が、大豆農家の状況改善のために専門外の卸業にも関与して、失敗を繰り返しつつ、豆腐加工とその販売に継続的に取り組みました((1)と(2))。その結果、現地の人々が隊員の動きに呼応して協力や取り組みを行うようになり、それによって豆腐とパンを組み合わせた新商品に結び付き((1)と(3))、消費者から好評を得るという成果が出ました。

大貫研究員や岡部客員研究員、同行したJICA研究所の坂巻絵吏子職員は、会議について、「ボランティアの開発への貢献のインパクトについての研究が不足しており、そのインパクトを計量的に図ることが難しいなか、JICA研究所で取り組んでいる国際ボランティア研究の方向性は、国際的な議論の潮流に沿っている」、「報告される事例・経験には、すでにJICAが取り組んでいるものも多く、日本の知見をもっと国際的に共有していくべきだと感じた」と話しています。

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