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「援助の氾濫の克服には被援助国のオーナーシップが重要」-共催イベントでDIEのクリンゲビール部長

2017年2月28日

書籍『Fragmentation of Aid: Concepts, Measurements and Implications for Development Cooperation(援助の氾濫:その概念と手法、開発協力における意義)』発刊を記念して、JICA研究所とドイツ開発政策研究所(DIE)の共催イベントが2017年2月7日、東京のJICA市ヶ谷ビルで開かれました。編者であり著者の一人でもあるDIEのシュテファン・クリンゲビールニ国間・多国間協力部長が、援助の氾濫をどのように克服していくか議論しました。

DIEのクリンゲビール部長
DIEのクリンゲビール部長

開会あいさつで、JICA研究所の北野尚宏所長は、JICA研究所とDIEの協力の経緯を説明。続いて、クリンゲビール部長と、同書の第12章「Aid Fragmentation and Effectiveness for Infant and Child Mortality and Primary School Completion(援助の氾濫と乳幼児死亡率、初等教育修了率への影響)」の著者で、古川光明JICA安全管理部長(執筆時はJICA研究所上席研究員)が発表し、さらにそれを受けて、京都大学大学院 アジア・アフリカ地域研究科の高橋基樹教授がコメントしました。

クリンゲビール部長は、400万の部品が30の異なる国でつくられ、1500もの会社がかかわる超大型旅客機エアバスA380の製造が、高度に専門化された計画、製造、組み立てなしにはできないものであることを例に、援助の氾濫を克服し、連携を深める必要性を説明しました。

続いて、援助の氾濫が課題と見なされている3つの側面を紹介しました。まず開発協力の分野でさまざまな活動が重複して行われていること、次に二国間ドナーや多国籍な資本の流れをはじめ、民間援助団体や南南協力による新興ドナーも増え、「援助団体の氾濫」が起こっていること、最後に援助受入国とドナー双方にとって援助が調整コストの増大を引き起こしていることを説明しました。

援助の氾濫がもたらすプラスの影響として、クリンゲビール部長は、国際協力の世界に競争と多様性が生まれることを挙げました。しかし、その一方、複数のマイナスの影響を指摘しました。たとえば、一つのセクターにさまざまな国からそれぞれ異なる考えの援助がなされることによる取引コストの増大や、国際的あるいは国内的な援助先のばらつきにより、不十分な量の援助しか届かない「援助の孤児」(aid orphans)となる地域が生まれることなどです。

クリンゲビール部長は、こうした課題を克服するには、援助を受ける側のオーナーシップの重要性を指摘し、国際協力を取り巻く状況が大きく変化するなか、援助をする側にも大きな転換が求められると発表を締めくくりました。

古川元上席研究員
古川元上席研究員

続いて、古川部長は、援助の氾濫の歴史を振り返った後、乳幼児死亡率、初等教育修了率と援助の氾濫の関係を分析した結果を示しました。ハーフィンダール・ハーシュマン・インデックス(HHI)を使用して援助の氾濫の程度を計算し、実証的分析として統計的測定方法であるガウス混合モデル(GMM)を使用したグラフや表を示して、乳幼児死亡率の改善は、保健分野での援助依存度が高く、援助の氾濫の程度が高い(比較的援助規模の小さなドナーが数多くかかわっている)場合に見られ、初等教育修了率の改善は、教育分野での援助依存度が高く、援助の氾濫の程度は低い(少ないドナーが集中して援助している)場合に見られたと説明しました。ただし、援助の集中の効力はセクターによって、また被援助国の各セクターでの援助依存度によって異なることを考慮する必要があると述べました。

京都大学の高橋教授
京都大学の高橋教授

高橋教授は、援助の氾濫を「国際開発協力の慢性疾患」と表現し、集中型の意思決定が乏しいことが援助の氾濫の問題をもたらしている可能性を指摘しました。また、さまざまな被援助国の能力、特定のセクターでの援助の総量と現地の予算とのバランス、援助が現地に定着していくまでの過程が、実証的分析でより考慮されるべきだと述べました。

その後質疑応答が行われ、中国などの新興国とどうように援助調整していくか、2030アジェンダを実現するために異なる立場の関係者をどうしたら一つにまとめていけるのかなど、多くの質問やコメントが出されました。

クリンゲビール部長は、経済開発協力機構(OECD)のドナーは新興国に対し、より拘束力のあるアプローチをすべきだと答え、議論の場として、国連による「開発協力フォーラム」と、UNDPとOECDがともに支援する「効果的な開発協力のためのグローバルパートナーシップ」を提起しました。

プレゼンテーション

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