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「インクルーシブ教育は教育の質向上にも有効」と「障害と教育」研究の成果発表-黒田客員研究員ら

2017年3月23日

JICA研究所の研究プロジェクト「障害と教育」の研究代表、黒田一雄客員研究員(早稲田大学アジア太平洋研究科教授)らが2017年2月27日、JICA市ヶ谷ビルで開かれたセミナーで、「開発途上国における障害児の就学実現に向けた課題」について研究成果を発表しました。黒田客員研究員が「インクルーシブ教育は教育の質向上にも有効」などと発表したほか、‟誰も取り残さない教育”の在り方は国や社会によって異なるとの見方も報告されました。

インクルーシブ教育とは、男女や民族、言語、住む場所、HIV/AIDSの影響、障害や学習障害の有無にかかわらず、学校やその他の学びの場がすべての子どもたちを受け入れ、すべての若者と大人たちに教育の機会を提供する、という考え方です(注)。

JICAでは、社会保障や基礎教育などに取り組む有志が集まって勉強会「インクルーシブ教育セミナー」を続けており、今回のセミナーは、9回目の勉強会として開催されました。セミナーは「みんなで考えよう“誰も取り残さない教育”」をテーマに、研究プロジェクトの成果と日本国内の事例を共有し、今後の途上国に対する援助について考えました。

発表する黒田客員研究員
発表する黒田客員研究員

「開発途上国における障害児の教育の現状」をテーマにした第1部で、黒田客員研究員は、途上国の障害児の教育に関しては、非就学の児童の数もその要因もほとんど研究されていないことを説明したうえで、研究プロジェクトでは、カンボジアとモンゴルの障害を持つ子どもと持たない子どもの保護者と教員を対象に、障害児の就学を阻害する要因について聞き取り調査を実施したことを報告しました。その結果、非就学障害児の保護者の多くが障害そのものに加え、学校へのアクセスや施設の未整備などを要因だと考えていることがわかりました。

インクルーシブ教育の効果について黒田客員研究員は、障害を持つ子どもにも持たない子どもにも、学力向上、情緒形成、自己評価において高い効果があることが、各国の実証研究で認められていると指摘。カンボジア、モンゴルでの聞き取り調査でも、ほとんどの保護者や教員が、障害を持つ子どもと持たない子どもがともに勉強することが、双方の学力や社会的スキルの向上につながると認識していることがわかったと報告しました。この結果から、黒田客員研究員は「インクルーシブ教育は教育の平等・公正の達成の視点で語られることが多いが、教育の質を高める教育方法としても有効だと考えられる」と述べました

発表する杉村教授
発表する杉村教授

同じ研究プロジェクトにかかわり、ネパールでの調査を実施した、上智大学総合人間科学部の杉村美紀教授が、「開発途上国におけるインクルーシブ教育のあり方」を発表しました。

杉村教授によると、ネパールは、国を挙げてインクルーシブ教育の実現に取り組んでいるものの、都市部と地方の格差、言語や宗教の多様性、ジェンダー格差、カーストなど、就学を阻害する要因は多くあり、「ネパールのような多様な社会においては、インクルージョン(社会的包摂、誰も取り残さない)という言葉は多様な意味を持っている。インクルージョンは、それぞれの社会の文脈において考えられるべきもの」との立場から事例を紹介。通常学校と障害を持つ子どものための特別支援学級が連携して教育を行うことで、障害を持つ子どもと持たない子どもがともに学びながら成長している例や、障害を持つ人が働くベーカリーカフェの例などを報告しました。また、「インクルーシブ教育を選ばない選択」として、「通常学級ではカーストが壁になってしまうが、聾学校にはカーストを超えた手話による独自の世界がある」という聾学校の教員の言葉も紹介しました。

木村元校長の話を聞く参加者たち
木村元校長の話を聞く参加者たち

セミナーの第2部では、「大空小学校が『みんなの学校』となったわけ」のテーマで、すべての子どもに居場所がある学校づくりを進め、映画「みんなの学校」の舞台となった大阪市住吉区にある同校の木村泰子元校長が語りました。木村元校長は、取り組みを振り返りながら、具体的なエピソードなどを熱く語り、「インクルーシブとは障害の有無ではなく、すべての子どもが地域の中で、自分らしく生きられること」と話しました。

(注)ユネスコによる定義(2009年)

関連動画

Interview: “Inclusive education will improve the quality of education,” with Kazuo Kuroda, JICA-RI
(YouTube JICA研究所公式チャンネル)

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