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「誰が取り残されているのか」に焦点を当てたと評価-人間開発報告書2016発表会で萱島副所長

2017年3月29日

国連開発計画(UNDP)がほぼ毎年発行する『人間開発報告書2016』の国際公式発表会が3月21日、スウェーデンのストックホルムで開催され、日本でも同日、報道関係者らを招いた発表会が国連大学本部ビルで行われました。JICA研究所の萱島信子副所長が有識者の一人として登壇し、「誰が取り残されているのか」という点に焦点をあてていることを評価しました。

コメントする萱島副所長
コメントする萱島副所長

『人間開発報告書』は1990年の創刊以来、最新の開発課題や国際潮流をテーマとし、その現状と課題を分析する内容となっています。2016年版のテーマは「すべての人のための人間開発」。近藤哲生UNDP駐日代表が同報告書の概要を説明し、同報告書が指標として活用している人間開発指数(HDI)等をみると、1990年代に比べて大きく改善された分野がある一方で、女性や先住民、移民や難民、少数民族など、いまだに教育や衛生といった様々な分野で“取り残された”人々がいると示しました。このような“取り残された”人々も含めたすべての人の人間開発を保障するためには、国家レベルでの方針や国際機関の変革の必要性を打ち出し、「世界で懸念されている保護主義の傾向に警鐘を鳴らす報告書になれば」と述べました。

これを受け萱島副所長は、同報告書は、国際社会が2015年に持続可能な開発目標(SDGs)を採択後、初めて出された包括的な報告書であり、画期的な内容とコメントしました。「“誰が取り残されているのか”というSDGsでは議論しつくされなかった部分が同報告書で明らかにされ、SDGs達成に向けた具体的な取り組みへの手がかりを与えてくれた」と話しました。さらに、平均値化された指標だけでは見えない現状があること、取り残された人々が属する異なるグループごとに異なる対策が必要であること、そのため、人間の安全保障を理念に掲げるJICAも含め、多様な取り組みを関係機関で互いに共有していくことが重要であることを強調しました。

報道関係者らが参加した発表会
報道関係者らが参加した発表会

『人間開発報告書』諮問委員を務める早稲田大学の勝間靖教授は、同報告書が開発途上国だけではなく先進国も含み、国家間や地域、さらには各国内における格差にも配慮している点を指摘。いまや先進国の国内での格差が引き起こした昨今の世界的なナショナリズムに立ち向かうためにも、同報告書の提起が、格差是正に取り組む根拠になるのではないかと述べました。

発表会には、報道関係者やNGO関係者らが参加。「アメリカの動向やナショナリズムによる開発への影響をどう考えているか」「先進国、開発途上国といった線引きが難しくなってきているのではないか」といった質問が挙がりました。

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