JICA緒方研究所

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「アジアにおけるインフラギャップの解消」テーマに議論-広田チーフエコノミストら

2017年5月11日

セミナーの様子
セミナーの様子

第50回アジア開発銀行(ADB)年次総会のサイドイベントとして、JICAとADBが共催するセミナー「アジアにおけるインフラギャップの解消」が2017年5月5日、横浜市で開かれました。JICAの広田幸紀チーフエコノミストがパネリストの一人として登壇し、教育、保健医療などの社会インフラや治水対策インフラの需要推計に関する研究について報告。モデレータはPwC Japanの野田由美子氏(元横浜市副市長)が務め、ADBの副チーフエコノミスト、ズジョン・チュアン氏や、インド、インドネシア、タイの有識者とともに、インフラの整備をめぐる各国の現状、拡大する需要に対応するための政策課題などを議論しました。

5人のパネリストによる議論に先立ち、ADBのチュアン副チーフエコノミスト、JICAの広田チーフエコノミストが基調報告を行いました。

チュアン氏は、ADBが2017年2月に発表した報告書「Meeting Asia's Infrastructure Needs」を基に、アジアの開発途上国・地域で、2016年から2030年の間に必要な経済インフラへの投資額(気候変動への対応を考慮した調整額)が毎年1.7兆ドル、15年間で計26兆ドルに上るという推計を紹介しました。年間投資需要は、2009年にADBが予測した額の2倍以上で、アジアでのインフラ需要がさらに高まっている状況を示しました。また、インフラ投資のニーズに対する不足額は、2016年から2020年のGDP予測の2.4%、中国を除くと5%にあたると指摘しました。

JICAの広田チーフエコノミスト
JICAの広田チーフエコノミスト

広田チーフエコノミストは、ADBの需要予測は電力、交通、通信、水・衛生分野といった経済インフラのみをカバーすることを指摘し、学校、病院、住宅、政府施設などの社会インフラや、防災関連インフラの需要についても明らかにしていく必要性に言及しました。JICAは現在、そうしたインフラの需要予測を行うる調査・研究を進めており、報告のなかで、これまでの研究の成果を示しました。

社会インフラの研究については、日本、タイ、インドネシアを対象にしたケーススタディーを進めており、拡大が見込まれるアジアの需要を分析するにあたって、日本の過去の経験が役立つ可能性を示唆。「日本では経済発展に伴い、学校施設基準を改訂するといった対応を進めた。こうした事実は、アジアでの需要予測を進める際に参考になるのではないか」と述べました。

また、治水対策のインフラについては、大災害が発生した直後に予算配分が増加する傾向がある中で、「各国の開発計画や予算編成過程で、防災への投資を主流化していく仕組みをいかに構築するか。その点を考えていかねばならない」と提言しました。

パネルディスカッションでは、インド財務省経済局でインフラを担当するシャーミラ・チャバリー次官補、インドネシア・バンドン工科大学経営管理大学院のクントロ・マンクスブロト教授、元タイ財務次官であり現在は埼玉大学教授を務めるキティ・リムスクル氏がそれぞれ、インフラ投資ギャップの解消のための方策や、社会インフラや防災関連インフラをめぐる課題について、具体的事例を交えて報告しました。インドのチャバリー氏は同国における民間資金活用の革新的な取組を紹介し、資金ギャップ解消のためのアイディアを提供しました。続いて、インドネシアのマンクスブロト氏は、ご自身が復興の責任者であった2004年のスマトラ沖地震の復興過程を事例に、政策決定のあり方などを論じました。タイのリムスクル氏は、中所得国となった多くのアジア諸国にとって、人材育成や保健医療等の社会開発が重要な課題であることを指摘し、社会インフラ充実の必要性について述べました。

議論の中で、広田チーフエコノミストは、学校や図書館、刑務所などの社会インフラを官民連携で整備するケースが増えている日本の現状を紹介。役所、住宅、商業施設が一体になった複合施設の例なども挙げて「今後のアジア、特に上位中所得国ではこうした手法を活用できる可能性がある」と述べ、JICAとしても官民連携を後押ししていく考えを示しました。

当日は、会場規模をはるかに上回る約130名の参加者があり、アジアにおけるインフラ需要への関心の高さがうかがえました。


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