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UNHCR難民映画祭でGBV被害者への心のケアの大切さを伝える—川口研究員

2017年10月10日

「現地調査で難民の女性のたくましさに励まされ、難民と支援する側は対等な関係だと感じた」と話す川口研究員(右)

祖国を追われ、難民となった人々の現状を知ってもらおうと、2017年9月30日~11月12日まで、国連UNHCR難民映画祭2017が全国6都市で開催されています。10月1日、東京会場での『私たちが誇るもの~アフリカン・レディース歌劇団~』上映後のトークイベントに、JICA研究所の川口智恵研究員がトークゲストとして登壇しました。

同作品は、アフリカ各地から暴力や性搾取を逃れ、オーストラリアにやってきた4人の女性が主人公。祖国で受けた心の傷を舞台で表現することで周囲の理解を深め、自分らしさを取り戻していくドキュメンタリーです。川口研究員は、作品をより深く理解するための背景やこうした女性たちを支える支援について、約200人の観客を前に話しました。

最初に、川口研究員が立ち上げたJICA研究所の研究プロジェクト「紛争とジェンダーに基づく暴力(GBV):被害者の救援要請と回復プロセスにおける援助の役割」について紹介。南スーダン難民が大量に流出している北部ウガンダなどで、紛争影響下のコミュニティーにおけるGBVに対する認識や、被害者の助けを求める行動、周辺の人々などによる救援活動の実態調査を行い、分析を通じて被害者支援の改善策を考えていくことを説明しました。

紛争で暴力を受けた人たちへの実際のケアや現場での課題について聞かれると、川口研究員は「緊急支援として医療的な治療、メンタルケア、安全な場所の提供、避難のためのシェルターでの保護のほか、被害を警察や司法に裁いてもらう手続きを進めることもできる。他方で、被害者というフェーズにとどまらず、その後の人生をよりよく生きていくためのエンパワメントを目指す中長期的な支援も必要。例えば、紛争中には受けられなかった教育や、生活の糧を自ら得られる技術を身につける支援、出産や女性の健康、権利について学ぶ場を提供するなど、さまざまな試みがある」と話しました。

また、現在行っているウガンダでの調査をふまえ、「南スーダン難民の多くも性暴力の被害にあっている。多くの支援が行われているものの、継続的なメンタルケアやトラウマケアが不足しており、物質的な支援だけでなく、マインドセットを変える心のケアが重要。この映画では、被害者は自分の経験を他人に知られることは辛いが、次の被害を防ぐことにつながる “価値あるリスク”と捉え、 その経験を歌と芝居にのせて広く共有した。私たちも研究する上で被害者に協力をお願いすることもあり得る。“価値あるリスク”をとって経験を共有してもらうことの重みを感じつつ、研究成果を広く世の中に還元していきたい」と話しました。会場では熱心に耳を傾ける人が多く、映画を機に、より多くの人に紛争とジェンダーに基づく暴力に対して関心をもってもらえればと川口研究員は期待を寄せています。

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