JICA緒方研究所

ニュース&コラム

産業開発から見据えるサブサハラ・アフリカの未来—TIF戦略報告書ローンチセミナー開催

2018年1月22日

2018年1月10日、「日本型の産業化支援戦略研究会」による研究成果をまとめた報告書「Training-Infrastructure-Finance (TIF) Strategy for Industrial Development in Sub-Saharan Africa」のローンチセミナーがJICA研究所で開催され、約80人が参加しました。本報告書は、日本の開発協力の経験をもとに、サブサハラ・アフリカの産業開発に向けた戦略を提示するものです。

まずJICA研究所の北野尚宏所長は開会のあいさつで、「サブサハラ・アフリカの産業化は、雇用の創出や貧困削減、経済の安定などを促すための鍵であり、持続可能かつ包摂的な成長につながる。産業化を実現する戦略の一つとして、TIF戦略を本日紹介する。この報告書は、研究所のスローガンである『現場とアカデミクスの往復』を実践すべく、研究者と実務者が協働し、発刊に至った」と述べました。

TIF戦略の概要や特徴を紹介する大塚啓二郎神戸大学教授

次に、執筆者の一人である大塚啓二郎神戸大学教授が報告書の概要を紹介。「持続可能な開発目標(SDGs)の達成のためには、開発途上国で貧困層の雇用を創出する製造業の開発が肝要だが、そのための普遍的な戦略が国連や世界銀行、開発経済学者の間でも現状では存在しない。サブサハラ・アフリカでの産業開発支援のため、東アジア諸国の発展を支えた日本の経験を生かしてTIF戦略として提示し、議論を盛り上げていきたい」と、報告書の目的を述べました。

大塚教授は、「TIF戦略は、産業開発政策において、まず人的資本投資として起業家のトレーニング(T)を行い、成長が見込まれる有能な起業家をスクリーニングする。その上で、産業開発拠点の設立などのインフラ整備(I)をし、ファイナンス(F)を支援する。あくまで先行するトレーニングを通じて、インフラ投資やファイナンスの便益を増大させることが重要。TIFは海外直接投資(FDI)の呼び水となり、その後も先端技術とマネジメントのトレーニングを継続することで、持続可能な発展を可能にする。この論理的なシークエンス(連続性)こそが、TIF戦略のユニークな特徴」と説明しました。また、人的資本投資の具体的な方法論として、経営層と労働者を同時に対象とし、低コストで生産性などを向上させるカイゼンの導入を推奨。カイゼンの専門家の養成が起業家の成長につながったタンザニアやエチオピアでの事例も紹介しました。

コメントしたブルッキングス研究所のジョン・ペイジ上席研究員

この発表を受けて、ブルッキングス研究所のジョン・ペイジ上席研究員がコメント。「開発途上国にとって製造業は重要な成長のエンジンとなることに変わりはないが、今後は製造業だけに捉われない観光業やサービス業といった“煙突のない産業”が存在感を増す可能性が高い。政策担当者にとっては、多くの技術労働者を吸収しうる生産性の高いセクターの成長をどう促進するかが課題になる」と述べ、TIF戦略にも、構造変化を核心に据えた幅広い視点を取り込む必要性があると示唆しました。

続いて、島田剛JICA研究所招聘研究員がモデレーターを務めたパネルディスカッションでは、園部哲史政策研究大学院大学教授、小田島健JICA研究所上席研究員、富田洋行JICA産業開発・公共政策部課長も加わり、研究者や実務者の観点から議論が行われました。

パネルディスカッションでは、サブサハラ・アフリカの産業化について研究者と実務者の観点から議論

「TIFの順番通りに進まなかった場合、産業開発はどうなるか」という質問には、園部教授が回答。「もしファイナンスから支援を始めてしまうと、資金を効果的に使ったりうまくビジネスを展開したりする人材がいないため効果的ではなく、やはりまずはトレーニングから始めることが重要」と主張しました。また、小田島上席研究員は、「自身の研究地域であるカンボジアではTIFをどう評価するか」という問いに対して、「同国は意図したわけではないが、結果的にTIFのシークエンスに沿って現在ファイナンスのステージにおり、良好な発展を遂げてきている。同国政府は中小企業融資のスキームの開発を模索しており、ツーステップローン以外にも信用保証制度に可能性があるのではないか」とコメントしました。

さらに会場からは「ローカルエコノミーとグローバルエコノミーのバランスをどうとるのか」、「イノベーションを起こすためにはさまざまなドナーと連携して戦略を進めていくべき」といった質問や意見もあがり、セミナー終了予定時間を大幅に超える白熱した議論が続きました。

最後に、JICA研究所の萱島信子副所長が閉会のあいさつをし、「今回のセミナーが、アフリカの産業政策に関する議論のきっかけになることを期待している」と締めくくりました。

報告書のダウンロードはこちら(PDF)

ページの先頭へ