JICA緒方研究所

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ゴミ収集から廃棄物管理へとダッカを変えた日本の協力─プロジェクト・ヒストリー出版記念セミナー開催

2018年3月8日

清掃後に集まってミーティングをするようになったダッカの清掃員たち(写真:JICA/谷本美加)

JICA事業の軌跡をまとめた書籍「プロジェクト・ヒストリー」シリーズの第17弾『クリーンダッカ・プロジェクト ゴミ問題への取り組みがもたらした社会変容の記録』の刊行を記念し、JICA研究所は2018年2月22日にセミナーを開催しました。

まず、北野尚宏JICA研究所長が開会のあいさつを述べ、「バングラデシュの首都ダッカで、廃棄物セクターに対する地道な協力を続けたことで信頼を勝ちとり、人々の考え方を変え、社会を変えた」とクリーンダッカ・プロジェクトを高く評価。今後のさらなる発展に期待を示しました。

JICAバングラデシュ事務所に駐在時からプロジェクトに携わった著者の眞田氏

次に、著者のJICA社会基盤・平和構築部の眞田明子氏が登壇し、同書籍で紹介している協力について説明。2003年当時、ダッカ市ではゴミ収集システムが体系化・定着化されておらず、最終処分場は安全・衛生的に管理されていないという課題があり、景観の悪化や汚臭が深刻だったと振り返りました。そこで、まずはマスタープランを策定し、「住民参加の促進」、「ゴミの収集・運搬の改善」、「最終処分場の改善」、「組織と財務の改善」の4つを優先課題に設定。2004年に43.5%だったゴミ収集率を2015年までに65.5%まで上げる目標を掲げ、技術協力プロジェクトが開始されました。

しかし、ダッカ市役所では部署の異なる職員同士の交流や住民参加を促す担当部署がなく、また、一般市民や市役所職員の間でも清掃事業への差別意識があるなど、技術協力プロジェクトを進める上でさまざまな壁に直面したといいます。そこで導入したのが「ワードベースドアプローチ(Ward Based Approach: WBA)」。ダッカ市にある約90のワード(区)それぞれに清掃事務所を設置し、現場レベルで課題に取り組むもので、各ワードに合ったゴミ収集システムの構築、健康や安全管理を学ぶ清掃員向けワークショップの開催、住民参加型による廃棄物管理、ゴミを収集するコンパクター車の導入、事業全体を統括する廃棄物管理局の設立などに奔走しました。眞田氏は、「多岐にわたる支援の結果、2011年のゴミ収集率は67%まで改善。住民参加が促進されて地域に合った収集方法が定着したほか、廃棄物管理局の設立、職員の関係性の改善、市職員と住民との関係の変化など、さまざまな社会変容が起きた」と報告しました。

左から、パネルディスカッションに登壇した稲村氏、著者の石井氏、齋藤氏

続くパネルディスカッションでは、3人のパネリストが登壇しました。著者の石井明男氏はこのプロジェクトの取り組みを振り返りつつ、「例えば清掃員を取りまとめる清掃監督員にプロジェクトの意義を何度も説明したことで、次第に彼らが自主的にどんどん動いてくれるようになった。そのように、自動的に課題を解決していく組織文化に変わっていったのが成功の要因」と述べました。

また、東京都清掃局OBの稲村光郎氏は、東京都のゴミ問題の歴史を説明。1971年に発生した東京ゴミ戦争などを例に、ゴミ問題は経済成長や生活スタイルの変化など、多様な要因が絡み合っていることを紹介し、技術協力プロジェクトが始まる前のダッカのような状態が東京でも見られたこと、また、ゴミ問題発生のメカニズムに東京とダッカとで共通点が見いだせることを示しました。さらに、ダッカの最終処分場の改善に取り組む齋藤正浩氏は、ダッカ市職員がこれら一連の日本からの協力を通じて廃棄物管理に関する知識・技術を身につけ、責任感をもって自ら行動することができるようになり、何より焼却施設によるゴミ処理といった将来の夢を語れるようになったことが一番大きな変化だと紹介しました。

会場からの質疑応答では、ダッカでのゴミの分別についてやプロジェクトを進める上でのリーダーの役割などについて質問や意見が挙がりました。

閉会のあいさつでは、このプロジェクトが実施されていた当時、JICAバングラデシュ事務所長だったJICA研究所の萱島信子副所長が、「日本も非常に短期間で社会変容を経験し、社会は変わると知っている。だからこそ開発途上国で社会のシステムを変えるイノベーションを起こす手伝いができれば」と述べ、セミナーを締めくくりました。

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