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イノベーションを可能にする仕組みづくりで開発途上国の成長を—世界銀行との共催セミナーで議論

2018年4月6日

2018年3月26日、世界銀行グループとJICA研究所の共催により、セミナー「イノベーション・パラドックス:途上国の能力、遅れを取る技術活用」が開催されました。

基調講演で報告書について紹介した世界銀行のウィリアム・マロニー公正成長・金融・制度(EFI)担当チーフエコノミスト

世界銀行は、2017年10月に報告書「イノベーション・パラドックス:途上国の能力、遅れを取る技術活用(The Innovation Paradox: Developing-Country Capabilities and the Unrealized Promise of Technological Catch-Up)」を発表しました。このセミナーでは、執筆者の一人、ウィリアム・マロニー世界銀行公正成長・金融・制度(EFI)担当チーフエコノミストが基調講演に登壇し、政策研究大学院大学の園部哲史副学長とJICA研究所の島田剛招聘研究員(静岡県立大学准教授・当時)がコメントしました。

まずJICA研究所の北野尚宏所長(当時)と世界銀行の西尾昭彦戦略・業務担当局長があいさつ。北野所長は、「この報告書から、イノベーションを起こす鍵として企業の経営の質が重要といったメッセージを受け取った。イノベーションについて活発な議論ができれば」と期待を寄せました。

続いて、マロニー・チーフエコノミストが基調講演に登壇。「イノベーションの推進が経済成長の鍵となるが、開発途上国の企業は革新的な技術を導入せず、途上国政府もイノベーションを促進する政策立案に失敗している。これが“イノベーション・パラドックス”。例えば、なぜチャドは政府の予算を新しい技術の研究開発に投資しないかというと、エンジニアがいない、マーケティング人材もいない、輸出するための事業環境もない、金融市場もない。つまりイノベーションをバックアップする補完要素がなく、リターンを得られないから投資は意味がないと結論づけてしまう。しかし、研究開発ができる優秀な人的資本を供給する教育機関などの供給側、研究開発を必要とする需要側の企業、そして政府が相互作用してイノベーションを起こす仕組み『国家イノベーションシステム(National Innovation System: NIS)』が浸透すれば、途上国でもイノベーションが広がるはず」と述べました。特に企業の役割は重要で、企業がイノベーションを起こすためには、競争や貿易体制などのビジネス環境が整うといったインセンティブや、企業自体の経営能力の向上などが必要だと提起しました。

国のタイプに沿った企業の経営改善を提案した政策研究大学院大学の園部哲史副学長

企業が経営の質を向上させるためには何が必要なのか。マロニー・チーフエコノミストは、「先進国ではモチベーションとして機能する競争の原理が途上国では必ずしも機能せず、そうした複雑な状況下での効果的な政策が必要になる。ところが途上国では、今度はその政策を立案する政府の能力が限定されるというジレンマに陥ってしまう」と述べました。それに対し、日本では幕末に薩摩・長州藩士が英国へ留学し、これらのメンバーが日本の近代工業化に公共セクターから大きく貢献した事例を挙げ、イノベーションを進めるためには合理的、効果的、NIS内での整合性、継続性がある政策が重要であり、途上国政府がそういった政策立案ができる能力をもつ必要性を指摘しました。

世界銀行の産業政策などについて質問した島田剛招聘研究員

また、NISの発展には3つのステージがあるとして「能力エスカレーター(The Capabilities Escalator)」という概念を示し、その国がどのステージに位置づけられるかによりフォーカスすべき政策が変わってくると主張。「私たちは、飛べる鳥、つまりイノベーションを起こせる企業を生み出さなくてはならない。途上国では経営の質に対して自己評価が高い傾向にあり、コンサルティングの導入が効果的であるにもかかわらず、経営者は学ぶ必要がないと考えて十分に活用していない。戦後、生産性向上運動を発展させた経験を持つ日本は、途上国に伝えられる知見が多いはずだ」と講演を締めくくりました。

コメントした園部副学長は、能力エスカレーターの初期のステージ1をタイプ1とタイプ2に細分化し、経営について知識が不足しているタイプ1の国には国際協力としてカイゼンなどを伝え、それより少し上の段階のタイプ2の国には輸入障壁を減らすことで競争を持ち込めば経営の改善につながるのではと提案。また、島田招聘研究員は「この報告書は、政府介入に慎重だった世界銀行の従来の戦略変更を意味するのか」といった質問を投げかけたほか、会場からもイノベーションの定義についてや人的資本が不足している場合にイノベーションは起こるのかといったさまざまな質問や意見があがり、活発な議論が行われました。

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