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包摂的かつ持続可能な工業開発に必要なこととは? 工業開発報告書2018セミナーで細野シニア・リサーチ・アドバイザーが議論

2018年4月25日

会場との活発な意見交換が行われたパネルディスカッション

2018年4月18日に、「国連工業開発機関(UNIDO)工業開発報告書2018出版発表セミナー」が国連大学本部で開催され、パネルディスカッションにJICA研究所の細野昭雄シニア・リサーチ・アドバイザーが登壇しました。

工業開発報告書(The Industrial Development Report:IDR)はUNIDOが隔年で発行しているもので、IDR2018では「製造業の需要:包摂的かつ持続可能な工業開発の推進」をテーマに掲げています。

まず開会のあいさつに立ったリー・ヨンUNIDO事務局長は、「IDR2018の画期的な点は、これまでの報告書とは違い、新たな視点として、工業開発の需要側である消費者に着目したこと。包摂的かつ持続可能な工業開発に寄与する政策への方向性を示している」と述べ、同報告書の意義を強調しました。

その後、UNIDO政策研究統計部のセシリア・ウガス部長とアレハンドロ・ラヴォパ産業開発アナリストが登壇し、工業開発と需要が生み出す「好循環」を中心に、同報告書の調査結果を説明。ウガス部長は、「携帯電話といった革新的な新製品に代表されるように、工業開発は消費者の生活水準を改善する。所得向上によって新たな需要が生まれ、こうした需要の多様化が供給サイドにさらなる生産効率化や画期的な製品開発への努力を促すことで製品が大衆化して安価になり、より数多くの人にいきわたるようになる。それが、工業開発と消費者の双方に成長と利益をもたらす好循環を生み出していく」と述べました。この好循環を維持するためには、技術革新や環境に配慮した製品開発などによる環境への負荷を低減することが重要で、消費パターンのシフトが鍵になると強調しました。

続いて行われたパネルディスカッションには、JICA研究所の細野シニア・リサーチ・アドバイザーのほか、日本貿易振興機構アジア経済研究所の山形辰史開発研究センター上席主任調査研究員、鈴木政史上智大学教授、ホッサム・ネグム駐日エジプト大使館一級書記官が参加し、それぞれが持つ産業開発分野の知見をもとにコメントしました。

コメントする細野昭雄シニア・リサーチ・アドバイザー(右)とUNIDOのセシリア・ウガス政策研究統計部長

細野シニア・リサーチ・アドバイザーは、需要サイドから見た工業開発の今後の課題は、好循環の円の外にいる膨大な数のBOP(Base of Pyramid)層をどう取り込んでいくかだと指摘し、現在の具体的な問題点として、開発途上国の貧困層が真に必要としているニーズに応えつつ貧困層にも支払い可能な価格の製品が不足していることを挙げました。これを解決する手がかりとして、住友化学株式会社が開発したマラリア防除の蚊帳「オリセットネット」の事例を紹介。国際協力銀行(JBIC)の支援などにより貧困層でも手が届く価格を実現し、世界保健機関(WHO)や国連児童基金(UNICEF)との協力による広報活動や、ガソリンスタンドなどを通じて貧困層がアクセスしやすい流通網を構築したことなどの経緯を説明し、政策だけではなく、広範なパートナーシップが重要だと述べました。さらに、工業開発の好循環を機能させるためには、供給サイドである企業の経営システムを変えることが重要だとして、その有効なアプローチのひとつとしてカイゼンや総合的品質管理(TQM)の例などを紹介しました。

会場からの質疑応答では、「途上国の消費者は需要側としての力が弱く、供給側に影響を与えることが難しいのではないか」、「途上国の消費者に所得を平等に分配するにはどうしたらいいか」など多くのコメントや質問があがり、活発な意見交換が行われました。

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