サブサハラ・アフリカの産業発展に向けてTIF戦略をより深く議論

2018.08.01

2018年7月23日、JICA研究所は、サブサハラ・アフリカにおける産業開発の戦略について議論するワークショップを政策研究大学院大学(GRIPS)と共催しました。このワークショップは、「日本型の産業化支援戦略研究会」が2017年11月に発刊した「Training-Infrastructure-Finance(TIF) Strategy」報告書のさらなる改善を目的にしたものです。特にアフリカ諸国の大使館関係者が数多く招待され、有意義な意見交換が行われました。

アフリカ大使館関係者も参加し、会場からは多くの質問が上がった

TIF戦略は、Training (人材育成)→Infrastructure(インフラ整備)→Finance(金融支援)という順序を念頭に置いた援助のデザインと、それに合わせた海外直接投資(Foreign Direct Investment)の促進の必要性を提示しています。また人材育成の具体的な方法論として、経営層と労働者を同時に対象とし、低コストで生産性などを向上させるカイゼンの導入を推奨しています。

GRIPSの園部哲史副学長のあいさつの後、TIF戦略報告書の執筆者の一人である神戸大学の大塚啓二郎教授が基調講演を行い、その後のパネルディスカッションには、GRIPSの田中明彦学長(JICA研究所特別招聘研究員、前JICA理事長)、JICAの加藤宏理事、JICA研究所の島田剛招聘研究員(明治大学准教授)が登壇しました。

大塚教授は、まず産業集積には停滞型集積(Survival Cluster)と成長型集積(Dynamic Cluster)の2種類があることを紹介。企業が新しい有望なビジネスを始めても参入企業の増加により価格が下がり、利益が逓減してしまう停滞型集積はアフリカに多く、価格と利益の低下をきっかけにイノベーションを起こす企業が現れ、それが品質向上や利益の逓増を可能にする成長型集積はアジアで典型的に見られるとし、持続可能な成長にはイノベーションが必須であることに言及しました。

「イノベーションの鍵はトレーニング」と強調した神戸大学の大塚啓二郎教授

さらに、多面的なイノベーションの鍵となるのがトレーニング(研修)だと説明。特に、海外から学ぶことは東アジアの発展の本質であり、これがサブサハラ・アフリカでは一般的に弱いという認識を示しました。バングラデシュのアパレル産業の例を挙げると、同国には1979年にはアパレル関係の企業がほぼ存在しませんでしたが、現在は5000社に拡大し、労働者数は平均1社あたり700人と巨大な産業に成長。この要因は、韓国、シンガポール、日本でのトレーニング、つまり海外での学習にあり、政府や国際機関によるトレーニングの必要性を主張しました。また、低コストでボトムアップのアプローチである漸進的なカイゼンが、アフリカにおいてイノベーションを起こす原動力になり、停滞型集積から成長型集積への転換を促すことも指摘しました。

続いてのパネルディスカッションでは、島田招聘研究員が戦後の日本の経済成長において、特にカイゼンの導入に際し経済同友会などの民間の経済団体が本質的な役割を果たしたことに触れ、「アフリカの企業を支援するために、アフリカ開発会議(Tokyo International Conference on African Development: TICAD)に向けてTIF戦略をどう推進していくのか?」と質問を投げかけました。それに対して大塚教授は、政治リーダーへの働きかけや成功事例の発信、各国やOECDなどでのセミナー開催などを通して推進していくと回答しました。

左から、パネルディスカッションに参加したJICA研究所の島田剛招聘研究員、大塚教授、JICAの加藤宏理事、GRIPSの田中明彦学長

次に加藤理事は、アフリカ諸国はすでにある産業を活用すべきと述べたほか、技術的なトレーニングだけではなくマネジメントスキルも含めた包括的かつ一貫性のあるアプローチが重要というTIF戦略の着眼点を特に評価。さらに、「日本の民間セクターがアフリカでアクティブになるためには、信頼できる現地パートナー企業を見つけることが重要だ」と指摘しました。

最後に田中学長は、この研究が学術的な成果と公共政策の提案を両立させている点に価値を認め、学術面では、多くの開発経済学者がアフリカには産業がないとしていたところ、実際には多くの産業集積が存在する現状を示したことや、マネジメントがイノベーションの鍵だと提案していることなどを評価しました。一方で、トレーニングから次のインフラ整備へと進む段階で、産業集積地でどんな産業を開発していくかというアイデアが必要ではないかと指摘しました。

質疑応答では、南アフリカ大使館関係者からの「これまで日本が支援してきた産業開発の支援で何が最も効果的だったか」という問いに対し、大塚教授や島田招聘研究員がアフリカや中米カリブ諸国でのカイゼンの有効性を指摘しました。ウガンダ大使館関係者からは、「日本の中小企業とのパートナーシップをどう実現するのか」という質問が上がり、加藤理事は「潜在的な現地パートナー企業の発掘にはトライアンドエラーが必要。JETROやJICAなどがどう協働していけるか考えてみたい」と回答しました。さまざまなコメントから、取り組むべき課題の発見にもつながったワークショップとなりました。

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