ソフト・コネクティビティーの重要性をアジア欧州会合(ASEM)セミナーで議論—萱島所長

2018.09.25

2018年9月12日、アジアと欧州両地域の対話の場であるアジア欧州会合(Asia-Europe Meeting: ASEM)のセミナー「Sustainable Connectivity and Quality Infrastructure」が外務省とEUの共催により東京の三田会議所で開催されました。

ソフト・コネクティビティーの現状と課題を議論した第2セッション

ASEMでは、2016年の首脳会合において、質の高いインフラ投資などを通じてハード面およびソフト面でのコネクティビティー(接続性)を強化することや、全てのASEM関連の取り組みにおいてコネクティビティーを主流化することが、ASEMの今後の重要な活動の柱に決定されました。このセミナーは、こうしたASENの取り組みを推進するために、ASEM高級実務者会議の東京開催の機を捉えて行われたものです。

セミナーは3部から構成され、第1セッションではコネクティビティー促進のための質の高いインフラ整備の重要性、第2セッションではソフト・コネクティビティーの現状と課題、第3セッションでは欧州、北東アジア、南西アジア、ASEANのそれぞれの地域の視点から議論が行われました。

第2セッション「The Importance of Institutions and Standards for Soft Connectivity」では、JICA研究所の萱島信子所長がモデレーターを務めました。パネリストには、ドイツ産業連盟のセルハト・ユナルディ・シニアマネジャー、フィリピン予算管理省のベンジャミン・E・ディオクノ大臣、韓国国立外交院のヘウォン・チョン准教授が参加しました。

まず萱島所長は、「異なる地域や国家間で人々やサービス、商品をつなぐには、ハード面として道路や鉄道といったインフラはもちろん、国境をまたぐ活動の規則の改善、税関の近代化、貿易の円滑化、ITといったソフト面の改良も重要となる。これらのソフト・コネクティビティーの重要性について、貿易・投資、輸送・税関、デジタルの3つの分野に絞って議論をしたい」と提示しました。

第2セッションのモデレーターを務めたJICA研究所の萱島信子所長

各パネリストによるプレゼンテーションでは、まずユナルディ・シニアマネジャーが貿易・投資分野でのコネクティビティーについて考察。「アジアはドイツにとって最大の輸出先。EUはアジア各国との自由貿易協定(Free Trade Agreement: FTA)の締結を進め、韓国とはすでに相互に輸出入が活発化している。また、世界的には減少している海外直接投資(Foreign Direct Investment: FDI)も、アジアへの投資は安定している。一方、ドイツでのFDI受け入れには、ドイツ企業が中国企業に買収されるなどのリスクについて議論が浮上している。保護主義の高まりは自由貿易ネットワークにはネガティブ。EUとアジアの経済的な結びつきの強化が、政治的な協働へつながる」との見解を示しました。

続いてディオクノ大臣は、輸送・税関分野でのコネクティビティーについて、貿易や物流のフローの簡易化、関税ルール・手続きの一貫性と効率化といったソフト・コネクティビティーが経済成長に与える重要性に言及。「フィリピンは、過去50年間インフラ投資が過小だった結果、交通渋滞や公共交通の不足、道路網の老朽化などの問題を生み、経済成長と海外資本投資の足かせとなっている。そこで現在、2022年までに史上最大総額の16.7~18.8兆円をインフラ整備に投資する『Build Build Build Program』を掲げ、経済成長と貧困削減を目指している」と紹介しました。

チョン准教授は、「ITやデジタル分野におけるコネクティビティーは、物流とコミュニケーションにおいて地理的な距離によるコストを減少させるほか、インターネットはグローバル・バリュー・チェーンでの企業の協働を可能にし、ベンチャー企業が市場に参入する機会も提供する」と便益を強調。その上で、インターネットの情報に関する技術的、経済的、社会的制約を挙げ、「社会的制約には、言語の障壁、データのオープン性についてのアジアと欧州の違い、サイバーセキュリティー・データ保護への懸念などがある」と指摘しました。

左からドイツ産業連盟のセルハト・ユナルディ・シニアマネジャー、フィリピン予算管理省のベンジャミン・E・ディオクノ大臣、韓国国立外交院のヘウォン・チョン准教授

続いてのディスカッションでは、萱島所長が「ASEM参加国は経済発展のレベルや政治・経済・文化もさまざま。その中でソフト・コネクティビティーを実現するための課題は?」と問いかけました。ユナルディ・シニアマネジャーは「アジアと欧州は経済的には競合関係にあるので、競合と協働のバランスが大事。また、国家主義や軍事政権の台頭など、アジアの一部での政治文化が大きな課題となる」と回答。ディオクノ大臣は「最も難しい課題は資金調達面。PPP(Public Private Partnership)などを活用できるかはアジアの中でも国によって違いがある」と述べました。チョン准教授は「課題の一つは言語。例えばEU内のウェブサイトでは各国ごとの言語が多く使われ、英語が少ないため、情報にアクセスしづらい。アジアと欧州が英語でコミュニケーションを図れば、より多くの情報が集まり、多様性が増すのでは」と応じました。会場からは、海外からの投資に対する警戒感や保護主義への対応、教育・文化面からの考察の必要性、ソーシャルメディアの影響など、幅広い質問が挙げられました。

最後に、萱島所長は「ASEMの特徴は多様性にあり、持続可能で包摂的なコネクティビティーが必須だ。また、文化・社会的側面からのコネクティビティーも重要。ビジネス、観光、学問における人的交流の深まりは、国家間の政治的関係を解決する可能性を持ち、地域の平和と安定への貢献が期待される」とコメントし、セッションを締めくくりました。

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