WIDER開発会議で援助政策についての議論に参加—北野客員研究員

2018.09.28

国連大学世界開発経済研究所(The United Nations University World Institute for Development Economics Research: UNU-WIDER)によるWIDER開発会議が、2018年9月13~15日、研究所の所在地であるフィンランドのヘルシンキで開催されました。JICA研究所からは北野尚宏客員研究員(前所長)が参加し、13日の「援助政策」セッションで議長を務めました。

同会議のテーマは「Think development - Think WIDER」(開発について広い視野で考えよう)。3日間にわたる同会議には55カ国から約450人が参加し、世界銀行チーフエコノミストを務めたコーネル大学のカウシィク・バス教授や、ノーベル経済学賞受賞者であるコロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授による基調講演のほか、UNU-WIDERの研究プロジェクトの成果などに基づく多くのセッションが行われました。

「援助政策」セッションでは、援助政策、特に開発金融の現状と課題について議論を行いました。発表者として、OECD開発援助委員会(DAC)元議長でオックスフォード大学・ブラバトニック公共政策大学院のリチャード・マニング客員研究員、元世界銀行チーフエコノミストで現在中国国務院参事を務めるジャスティン・リン氏、国際食糧政策研究所(IFPRI)のダニエル・レスニック上級研究員、討論者として米国国際開発庁(USAID)のルイーズ・フォックス・チーフ・エコノミストが登壇。さらに、国連大学のデイビッド・マローン学長、UNU-WIDERのトニー ・アディソン・チーフエコノミスト/副所長をはじめ、研究者や実務家が参加しました。

講演のほか、さまざまなセッションが行われたWIDER開発会議(写真提供:UNU-WIDER)

JICA研究所の北野尚宏客員研究員(左)は多くの研究者らと意見交換(写真提供:UNU-WIDER)

まず、マニング客員研究員が、「Aid Policy: Continuity or Change? 」(援助政策:継続あるいは変化?)と題して発表しました。継続の観点からは、DAC諸国の政府開発援助(ODA)が実質ベースで増加傾向にあること、DACの援助政策は開発途上国の制度を活用する方針やインパクト評価を重視している点などに大きな変化はない点を指摘しました。変化の観点からは、北野客員研究員の中国の対外援助推計に関する研究成果も引用しながら、非DAC諸国の援助額が顕著に増加していることを示すとともに、世界銀行グループの中で最も貧しい国々を支援している国際開発協会(IDA)の卒業国がインドなどのように増え、脆弱国へ資金が集中する傾向にあること、途上国に対する貸し手の構成がDAC諸国から中国をはじめ途上国や民間にシフトしている点などについて触れました。

リン氏は、「Going Beyond Aid and Concessional Loan」(援助と譲許的融資を超えて)と題して、2017年にケンブリッジ大学出版局から出版された自著『Going Beyond Aid』をもとに、同氏が提唱する新構造経済学に即した途上国開発の処方箋を示しました。まず持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)のゴール1「貧困削減」達成のためにはゴール8「雇用」を確保すること、そのためにはゴール9「イノベーション、産業化、インフラ整備」が必要なことを示しました。次に、新構造経済学の考え方による比較優位に基づく産業構造変革やソフト面を含むインフラ整備推進の重要性について論じ、近年中国が表明したさまざまな開発資金に触れつつ、非譲許的資金を含む開発資金の再定義の構想について論じました。

レスニック上級研究員は、「The Changing Finance Landscape in Africa: Does Development Assistance Still Have a Role?」(アフリカにおける資金をめぐる状況:開発援助には依然として役割があるか?)について発表しました。まず、アフリカにおいて、ユーロ債や海外直接投資(FDI)、中国からの資金をはじめ非ODA資金の割合が高まっていること、国によって産業構造変革のために援助依存脱却を目指す動きが出てきていることに触れました。そして、公共財政・経営管理に対するODAが減少している一方で、近年、公共部門マネジメントのパフォーマンスが下がっているアフリカ諸国が目立つことを指摘しました。そして、食の安全をはじめとした分野の規制改革、税収増に向けた取り組みなど、ガバナンス分野において、伝統的な開発援助が依然として有用であることを強調しました。

討論者のフォックス・チーフ・エコノミストは、SDGs達成のための資金として民間資金や民間基金の役割に触れるとともに、インフラ資金調達のための債券発行やソブリンローンの有用性とリスクについても触れました。また、プロジェクト・ファイナンスについては、実施主体のキャパシティー強化が重要であることを指摘しました。

会場からの質疑応答では、産業構造改革の進め方、教育レベルと就業機会のバランス、債務問題、IDAの将来像、徴税ベースとインフラ整備・維持管理との関係、インフラの安全性をどう確保するかといった点について、活発な議論が展開されました。

北野客員研究員は総括として、「途上国のSDGs達成に向けて、途上国、先進国、国際機関、民間セクターがそれぞれの役割を果たすことが肝要であり、その観点から援助政策は依然として意義を失っていない」と議論を締めくくりました。

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