日本国際政治学会で「紛争影響下のジェンダーに基づく暴力」をテーマに発表—川口研究員ら

2018.11.22

2018年11月2~4日、日本国際政治学会2018年度研究大会が埼玉県の大宮ソニックシティで開催されました。JICA研究所の川口智恵研究員、盛岡大学の飛内悠子准教授、難民を助ける会の福井美穂氏が参加し、11月3日の分科会で「紛争影響下のジェンダーに基づく暴力(GBV: gender-based violence)」をテーマに発表しました。

まず、司会を務めた川口研究員がJICA研究所の研究プロジェクト「紛争とジェンダーに基づく暴力(GBV):被害者の救援要請と回復プロセスにおける援助の役割」の概要を説明。同研究の背景として、2000年に国連安全保障理事会が決議1325号(女性、平和、安全保障: Women, Peace and Security: WPS)を採択したことにより、和平プロセスへの女性の参画や、被害者を保護・救済する仕組みは徐々に整備されているものの被害は今も続いていること、また研究面では紛争影響下のGBV被害の実態や紛争との因果関係を分析するものが多く、被害者保護についてはあまり取り上げられていないことを説明しました。そこで、同研究では、GBV被害者の救援要請行動に着目し、ウガンダに大量に流出した南スーダン難民への聞き取り調査を通して具体的な改善策を考えることを目的としていることを紹介しました。

司会を務めた川口智恵JICA研究所研究員(右)と討論者の中西久枝同志社大学教授

続いて飛内准教授が「支援とジェンダー、GBVへの認識との関わり—南スーダン難民の事例から」と題して発表しました。人類学的アプローチにより、ウガンダ・アジュマニ県のモンゴラ難民居住地で「ジェンダー」や「GBV」という概念がどのように理解されているかを具体例とともに提示しました。難民がGBV支援の存在を理解していても、その認識は必ずしも支援機関などと同じではなく、支援手続きに至らない場合もあることを示しました。

福井氏は「被害者支援における援助の役割—南スーダン難民調査を踏まえて」と題して報告しました。ウガンダ国内の政策や難民居住地での人道システムなどにWPS規範がどのように伝播しているか分析した結果、不十分な点はあるものの、ある程度の伝播があるといえるとの結論を示しました。

発表を行った盛岡大学の飛内悠子准教授(右)と難民を助ける会の福井美穂氏

討論者の同志社大学の中西久枝教授は、「日本国際政治学会の歴史の中で、初めてWPSをテーマとして取り上げたことは大変画期的」と評価しました。飛内准教授の報告に関しては、支援者対被支援者という二項対立の図式を打ち破る手法として社会人類学的アプローチが生きていると述べました。また、福井氏の報告については、ホストコミュニティーと国際人道支援コミュニティーという二重の支配下で、国際アクターが現地社会の価値をどこまで反映しつつ規範の伝播をリードできるのかなどを問いました。

会場からは、難民状況下での男性の生業の変化とジェンダー認識の関連や、貧困レベルとジェンダー認識の関係などについて質問があがり、紛争影響下という特殊な状況において生じるGBVに関連した諸問題への高い関心が伺えました。今回発表された内容は、JICA研究所のワーキングペーパーとして公開予定です。

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