JICA研究所

ニュース&コラム

カイゼンがアフリカの産業開発への道を照らす—書籍発刊記念セミナー開催

2018年12月14日

カイゼンやアフリカに関心の高い参加者が熱心に耳を傾けた

JICA研究所は2018年11月20日、研究プロジェクト「アフリカの産業開発に向けたカイゼンにかかる研究」の成果である書籍『Applying the Kaizen in Africa: A New Avenue for Industrial Development』の発刊記念セミナーを開催しました。

JICAは2006年から、エチオピアやケニアなど、アフリカ9カ国で日本式のマネジメント手法であるカイゼンを活用した技術協力プロジェクトを実施しています。本書では、その知見に基づき、カイゼンの実践方法から成功事例、今後の普及・展開案などを包括的に取り上げています。

セミナーでは、まずJICA研究所の大野泉所長が開会のあいさつに立ち、「このセミナーがJICAのカイゼンプロジェクトに対する理解を深めるきっかけとなり、2019年8月に横浜で開催される第7回アフリカ開発会議(TICAD7)への布石となることを願う」と述べました。

左から、神戸大学の大塚啓二郎特命教授、JICA産業開発・公共政策部の神公明専任参事、エチオピアカイゼン機構のゲタフン・タデッセ・メコネン前所長

次に、編者の一人、神戸大学の大塚啓二郎特命教授が本書の概要を説明。アフリカの未来に向けたカイゼンの貢献について書かれた第1章を紹介し、「カイゼンなくして工業化は実現できないと言えるほど、カイゼンが生産性向上に大きく貢献することは世界中で実証されている」と述べました。

続いて、編者を務めたJICA産業開発・公共政策部の神公明専任参事が第2~4章の内容を説明。「アフリカ・カイゼン・イニシアティブ」を掲げ、中核となる組織を設立して政府の能動的な関与を促すといったJICAの取り組みを紹介しました。さらに、「西洋型のカイゼンは大量生産を通して短期間で成果を上げるのに適している一方、トヨタ生産システムに代表される人間開発を主眼に置いた日本型のカイゼンは、労働者がスキルを身に付け、意欲を向上させるために有効」と両者の違いを指摘。また、簡単かつ安価に取り入れられるカイゼンは、小規模・中規模の企業が多いアフリカ諸国に適していることを強調しました。

さらに、エチオピアカイゼン機構(Ethiopia Kaizen Institute: EKI)のゲタフン・タデッセ・メコネン前所長が、第5章に取り上げられている同国でのカイゼン実践の成功事例を紹介。エチオピアでは政府の積極的な協力のもと、2009年にJICAによるカイゼンプロジェクトが始まり、EKIは現地に合わせた企業・団体向けの研修の実施などに尽力してきました。メコネン前所長は、「2012~16年にEKIは473団体、6万8954人にカイゼン研修を提供し、労働生産性の向上やコスト削減などの面で大きな改善が見られた」と報告しました。

さらに大塚特命教授がアフリカの産業開発政策についての第6章も紹介し、カイゼンのトレーニングを通した人材育成、海外直接投資を誘致する工業団地などのインフラ整備、将来性の高い企業への金融支援の3つを切れ目なく行うTIF(Training, Infrastructure and Financial Support)戦略が産業発展の促進に有効だと説明しました。

左から、駐日ザンビア大使館のンディヨイ・ムティティ特命全権大使、豊田通商株式会社の落合武彦氏、名古屋大学のクリスチャン・オチア准教授

続いて、3人のスピーカーが本書に対する論評を述べました。名古屋大学のクリスチャン・オチア准教授は、「本書はカイゼンの実践方法が具体的に書かれた教科書として各国が参考にできる」と高く評価しつつ、「カイゼンは主に製造業を念頭に置いているが、アフリカでは農業が主要産業の国も多いため、“アフリカ式”のカイゼンの普及には各国のバリューチェーンに基づいたアプローチが必要ではないか」とも述べました。

豊田通商株式会社の落合武彦氏は、アフリカ全土にネットワークを持つ同社によるカイゼンとCSRの取り組みを説明。「カイゼンの導入により、納期の遵守やチームワークの強化、ムダの排除などを心がけることで、生産性の大きな向上や職場の環境改善などに成功した」と述べました。また、同社はJICAと協力して2014年に職業訓練施設「トヨタケニアアカデミー」を設立するなど、アフリカの人材育成に大きく貢献していることも紹介しました。

駐日ザンビア大使館のンディヨイ・ムティティ特命全権大使は、アフリカ側の視点から、近年、ザンビアを含むサブサハラ・アフリカ地域は急速な経済成長を遂げているものの、それは天然資源に依拠しており、今後は地元企業が競争力をつけていく必要があると指摘。さらに、「カイゼンによる産業発展を進めることで、ODAなどに頼っていた立場から脱却し、日本と相互に利益のある関係を構築したい」と述べました。

会場からの質疑応答では、「日本のカイゼンの仕組みをそのままアフリカで適用できるのか」「カイゼンの導入はアフリカ諸国にとってどれぐらい優先度が高いのか」といった、アフリカの産業開発や経済成長の将来を見据えた質問があがりました。

最後に、JICAの加藤宏理事が閉会のあいさつに立ち、「アフリカ諸国には産業化による経済成長が急務という認識があり、日本ではアフリカ市場への関心が高まっている。両者のコミュニケーションを促すカイゼンの導入は非常に有効」と述べ、セミナーを締めくくりました。

ページの先頭へ