SDGs達成に向けて必要なものとは?ブルッキングス研究所との共同研究による書籍発刊セミナーを東京で開催

2018.12.27

2018年12月3日、JICA研究所と米国ブルッキングス研究所の共同研究の成果である書籍『From Summits to Solutions: Innovations in Implementing the Sustainable Development Goals』の発刊を記念したセミナー「SDGs達成に向けて世界はどのように変わるべきか」がJICA研究所で開催されました。同セミナーは、翌12月4、5日に開催されたT20 Japan 2019インセプション会合の関連イベントとしても位置づけられています。

SDGs達成に向け、さまざまな立場からパネリストの知見を共有

まず、JICA研究所の大野泉研究所長が開会のあいさつに立ち、「本書は、国際社会が抱えている課題解決に向け、学術面かつ政策面からも価値のある本。さまざまな知見を持つパネリストと議論を深めることで、2019年6月に大阪で開催されるG20に対しても有意義な学びがあればうれしく思う」と本セミナーの抱負を語りました。

続いて行われたパネルディスカッションでは、冒頭で本書の編者の一人、JICAの加藤宏理事が書籍発刊の背景などを説明。「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)と比べ、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)では、課題の構造そのものや必要なアプローチ、課題に関与するアクターも変わってきている。SDGsについての議論は日本の未来を考える上でも重要であり、日本がどのように貢献できるか考察したい」と述べました。

続いて、同じく編者の一人であるブルッキングス研究所のホミ・カラス国際経済開発局長が、「SDGsの達成が遅れている現状を打破するには、誰が重要なアクターか、各SDGsがどのようにリンクしているかなどを見極めるための新しい“システムアプローチ”に変革していく必要がある」と述べ、特に変化が必要な3つの分野を挙げました。一つ目は「Capturing Value」として、例えばジェンダー不平等や環境問題、低所得国でのインフラ不足といった、現在の市場経済では価値が認められていないものに価値をつけて取り組んでいくこと、二つ目は「Targeting Places」として、SDGsの達成に向け地域を絞ってアクションを起こすこと、三つ目は「Updating Governance」として、SDGs達成のインセンティブや責任が明確になる仕組みを国やセクターごとに構築し、ガバナンスを高めることが重要だと指摘しました。

今後の変革について提言したブルッキングス研究所のホミ・カラス国際経済開発局長

南アフリカ国際問題研究所のエリザベス・シドロポロス所長は、「アフリカ諸国は、SDGsが制定された2年前の2013年、アフリカ連合(AU)で同意したアフリカの政治、経済、社会に関する長期的ビジョン『アジェンダ2063』を掲げており、SDGsとの共通点も多い。これらの達成には、開発への資金不足やモニタリングなどに必要なデータ不足といった課題がある」と現状を説明。さらに、南アフリカのSDGsへの取り組みに言及し、同国が科学技術イノベーションを重要視し、同国の開発計画に組み込んで包摂的な開発に力を入れていることを明らかにしました。

次に登壇した大野研究所長は、カラス局長が言及したSDGs達成に向けた抜本的な改革には、民間セクターの関与が必要だと強調。「民間セクターと連携できれば、雇用創出や投資が見込めるほか、開発途上国がグローバル・バリュー・チェーンに参入するチャンスにもなる。ただし、企業、政府、大学・研究機関などが良好なパートナーシップを築くこと、企業が責任を持って持続的なバリュー・チェーン・マネジメントを構築すること、途上国が経済面、社会面、環境面での産業化に必要なキャパシティーを備えること、企業行動をモニタリングし、インセンティブを供与することが重要」と述べました。

民間セクターの役割について発表したJICA研究所の大野泉研究所長

また、経団連企業行動・CSR委員会企業行動憲章タスクフォース座長を務める関正雄氏は、経団連のSDGs達成に向けたイニシアチブについて説明。「経団連は、革新的な技術を最大限に活用することで社会全体を最適化する“Society 5.0”の実現を目標に掲げており、これはSDGsの理念とも一致する」と述べ、2017年に「企業行動憲章」を改訂し、「持続可能な経済成長と社会的課題の解決を図る」、「すべての人々の人権を尊重する経営を行う」といった項目を新たに加えたことを紹介しました。

最後に、認定NPO法人国際協力NGOセンター(JANIC)の若林秀樹事務局長は、2016年に設立された市民団体「一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク(SDGsジャパン)」の活動を紹介。同団体は、日本で暮らす外国人の子どもへの支援やいじめ対策など、人権に重点を置いた課題を提言し、日本政府のアクションプランの強化を目指しています。若林事務局長は、「我々全員が、官僚や企業人である前に、家族を持った“一市民”という意識を持ち、自分に何ができるか考えることが大切」と強調しました。

会場からの質疑応答では「紛争地といった過酷な状況で、ガバナンスを刷新するのが難しい場合はどうするべきか」、「SDGsの取り組みに取り残された地域がある場合はどう対処するのか」といった質問が多くあがり、活発な議論が展開されました。

関連する研究者

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
トピックス一覧

RECOMMENDこの記事と同じタグのコンテンツ