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「日本の人間の安全保障」指標2018発表記念シンポジウム—峯客員研究員、武藤主任研究員が発表

2019年1月29日

国連は「誰も置き去りにしない」を持続可能な開発目標(SDGs)の理念に掲げていますが、その実現にはSDGsにある個別指標の達成だけでは不十分だという問題意識があります。そこで日本にも内在する貧困、格差、差別、排除の実態を可視化するため、「日本の人間の安全保障」指標2018が作成されました。同指標は、高須幸雄国連人間の安全保障担当特別顧問、NPO 法人「人間の安全保障」フォーラムの有志、各分野の専門家、研究者などからなるプロジェクトチームが作成。チームにはJICA 研究所から峯陽一客員研究員(同志社大学教授)、武藤亜子主任研究員、オスカル・ゴメズ元研究員(立命館アジア太平洋大学助教)が参加しています。

その指標を発表するシンポジウムが2018年12月15日、東京のユニセフハウスで開催され、100名を超える関係者が集いました。シンポジウムでは、同指標を発表するとともに、取り残されている人、取り残されがちな人の実情と、それらの人に焦点をあてた支援策について専門家が発表・提案しました。

指標は人間の安全保障を構成する「命」、「生活」、「尊厳」の3つの指数で構成。この3つの指数は、日本の公的機関などが公表している都道府県レベルの統計データの中から、取り残されがちな人を浮き彫りにしやすい92 指標を取り上げ算出しています。シンポジウム当日の配布資料には、3つの指数を合計した結果を都道府県別ランキングとして掲載しました。

またプロジェクトチームは、数値だけでは可視化しにくい、不安や自己充足度、孤立などに関する人々の主観を浮き彫りにするため、インターネットによるアンケート調査を実施。5,450 人から得た回答を都道府県別ランキングや一覧として配布資料に掲載しました。

調査結果を発表する武藤主任研究員

プロジェクトチームの報告の中で、アンケート調査を担当した武藤主任研究員が配布資料に掲載された調査結果を発表。可視化することで見えてくるものもあることから、性別、世代別の差異に加え、可能な範囲で地域・都道府県別の結果も提示したことを説明しました。また国や地方自治体の政策や制度があるにもかかわらず、老後や健康、仕事や暮らしに不安を感じる人が多数いることもわかり、アンケート結果では相談する人が誰もいない人が半数近く、生きがいが何もない人が28%となったことを報告しました。

コメンテーターとして登壇した峯客員研究員は、経済学者アマルティア・センが考察した飢饉の事例を紹介し、一国で集計化された数字を見ても大惨事の実態はわからないと指摘。地域、世代、職業、ジェンダー、障害など個人のさまざまな属性によって一人ひとりの人間の生きにくさの違いが顕著になると示しました。その上で今回の指標は、日常の生活で人々が直面する具体的な生きにくさ(human insecurities)に切り込んでいるところ、客観だけでなく主観も指標に組み込み、人々の不安と希望をくみあげているところに新しさがあると強調。大切なことは、誰も取り残さないために、困っている人は誰で、どこにいて、どんな問題に直面しているかを知ることだと訴えました。

プロジェクトチームでは今後、同シンポジウム成果を反映した書籍の発刊や英訳、国連場裏での議論の拡大などを進めていく予定です。また各方面からのコメントを踏まえて、定期的に指標やデータの更新を図り、国際的に汎用性のあるものにしていくことを目指しています。

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