JICA緒方研究所

ニュース&コラム

“仕事の本質の変化”に対して何が必要か—世界開発報告2019セミナー開催

2019年3月20日

会場には国籍、年代を問わず多くの参加者が集まった

2019年2月26日、セミナー「世界開発報告(WDR)2019:仕事の本質の変化」が、世界銀行グループ(以下、世銀)とJICA研究所の共催で、JICA市ヶ谷ビル国際会議場にて開催されました。

世銀は、1978年より毎年タイムリーなテーマを取り上げ、課題の分析と政策提言をまとめた「世界開発報告(World Development Report: WDR)を出版しています。WDR2019のテーマは「仕事の本質の変化(The Changing Nature of Work)」。2018年のテーマ「教育と学び—可能性を実現するために(LEARNING to Realize Education’s Promise)」に続き、人的資本に重きをおいた研究成果がとりまとめられました。なお、世銀が2018年10月に発表した人的資本指標(Human Capital Index: HCI)は、WDR2019の中で詳しく紹介されています。 

冒頭、JICA研究所の大野泉研究所長は、JICAと世銀の両機関について「共に、人間の安全保障の確保という観点を重視し、人間開発・人的資源に非常に重要なプライオリティーを持って、質の高い成長・開発を目指している」と紹介。また、「仕事の本質の変化」という新しい時代におけるトレンドについて、自身が取り組むエチオピア産業政策に関する知見から、チームワークや時間を守るといったソフトスキルを上げ、マインドセットを変えていくことが重要であるとしたうえで、「今回のセミナーで議論されるテーマは途上国開発においても大変示唆がある」とあいさつしました。

WDR2019について講演した世界銀行のフェデリカ・サリオラWDR2019執筆担当共同局長

続いて、世銀のフェデリカ・サリオラWDR2019執筆担当共同局長が講演。WDR2019では、テクノロジーにより労働市場が加速度的に変化する中、人々の健康や教育に対する投資の拡大が急務であると指摘しています。その点についてサリオラ氏は、「仕事が奪われるのではなく、生み出されるかどうかは、“イノベーション”が“オートメーション”をしのいでいけるかどうかによって決まる」と強調し、企業における事業や投資のあり方と個人の働き方という両面に変化が生じていることに言及。「設備などへの膨大な資本投資が必要であったり、物理的にその場所になくてはならなかったりした従来型の企業に比べて、最近のITビジネスは、技術以外の投資を必要とせず、場所を問わず雇用を生み、成長を加速させている。一方で、その事業の実態は捉えにくく、合法的な租税回避といった問題も生み出している。また、個人の働き方ではギグエコノミーにみられるような短期雇用やフリーランスが急激に増えてきた。ソーシャルスキルやチームの中で働く力、批判的に考える力など、ロボットにはないスキルをこれまで同様に高めつつ、我々はこれらの変化に適応していけるような労働者となっていかなくてはならない」と課題も交えて近年の動向を解説しました。

続いて、サリオラ氏は、こういった変化に対し政府が何を行うべきかについて、WDR2019で提言されている3分野(教育・社会保障・財政)での政策の必要性を示唆しました。

まず、教育においては、学びの基盤は幼児教育にあるとしたうえで、「働くにあたって必要となる技術、チームワークや認知能力を養う高等教育が重要性を増す」と述べました。

次に、社会保障・労働政策については、「一時・短期の労働者や、新興国で65%を占めるインフォーマルセクターの労働者に社会保障が行きわたっていない現状があるため、最低限の社会的支援があるべき」と述べ、多くの国で最低所得補償制度(universal basic income)が議論されていることを紹介しました。また教育と社会保障および労働政策という2つの柱を持続させていくためには、財源の見直しが必要であるとし、WDR2019では、税金やエネルギー助成金などを挙げながら、追加投資分についてどのように補っていくかというアイデアを提示していることを発表しました。

会場からの意見に真摯に耳を傾ける登壇者たち(左から、大野泉研究所長、サリオラ氏、山形氏、相賀国際協力専門員)

続くパネルディスカッションでは、山形辰史立命館アジア太平洋大学教授・国際開発学会会長と相賀裕嗣JICA国際協力専門員が登壇しました。

山形氏は、「途上国における繊維産業の研究、特に機械と労働者の代替性を研究してきた者として、途上国においても技術の進歩が雇用を減らすかという問題提起に対し、必ずしもそうではないという指摘には同意する」とサリオラ氏の講演についてコメント。そのうえで、自身の研究での実証事例を紹介しながら、「機械導入と労働の相対的費用の問題であり、時間もかかる。低技能労働者が必ずしも追いやられるわけではない」との見解を披露しました。

相賀国際協力専門員は、「WDR2019が発表され、1993年のWDR『保健に投資をする Investing in Health』を思い出した。人的資本を経済生産性の観点から定量化する、HCIのような指標が欲しいとずっと思っていた」と、その必要性についての思いを語りました。そのうえで「HCIには『生存:今日生まれた子供が学齢期まで生きのびる生存率』、『学校:学校教育の達成度と学習成果』、『健康: 進学したり、成人して仕事に就くために十分な卒業時の健康状態』の3つの構成要素があるが、政策立案者が人的資本に投資する動機づけのためにも、どれくらい早くリターンが得られるかという時間軸の要素をぜひ追加してほしい」と提案しました。

「仕事の本質の変化」という今注目を集めるテーマであったこともあり、会場からは、幼児・初等教育と高等教育それぞれへの投資バランス、非認知スキルの学習プロセス、アフリカで教育改革が必要な分野について、など多数の質問があり、活発な意見交換がされました。

最後は、大野研究所長が「非認知スキルの育成については、日本が長年やってきたことが生かせる分野でもある。ぜひ、この分野で議論を続けていきたい」と締めくくりました。

関連リンク

ページの先頭へ