スティグリッツ教授(ノーベル経済学賞)とともに「アフリカの質の高い成長 -持続可能、包摂的かつ強靭な開発を目指して-」のTICAD7サイドイベントを実施

2019.09.03

JICA研究所は2019年8月29日、第7回アフリカ開発会議(TICAD7、8月28~30日に横浜にて開催)のサイドイベントとして、「アフリカの質の高い成長-持続可能、包摂的かつ強靭な開発を目指して-」を開催しました。

冒頭、JICA研究所の大野泉研究所長はあいさつで、コロンビア大学政策対話イニシアチブ(IPD)との共同研究を開始して10年が経過し、これまでに3冊の書籍を、また今回4冊目となる書籍『The Quality of Growth in Africa』 が発刊されたことを述べ、ジョセフ・スティグリッツ教授が率いるコロンビア大学IPDのこれまでの貢献に感謝の意を示しました。

基調講演では、スティグリッツ教授が、アフリカの経済成長をGDPの指標で測った場合、GDPが高成長を示していても国内格差が悪化しているケースがあり、経済指標としてのGDPを見直す必要があると指摘し、今回の書籍ではダッシュボード方式を提案していると紹介しました。直近10年のアフリカの成長は目覚ましく、経済指標において大きな改善が見られました。しかし、エチオピアやルワンダなど一部の国を除き、その成長は天然資源への依存やコモディティー価格の上昇によるもので、産業により経済構造が変化したことによるものではありません。AIなどの労働を代替するような新しい技術の進歩が著しい時代、今後、労働人口が21億人を超えるアフリカにおいて、東アジアや日本で起こった労働集約型製造業を中心とした雇用の創出が起こることは考えにくく、農業やサービス業、資源関連セクターを含む広い意味の産業振興策など、こうした現在のアフリカの状況に合った新しい開発戦略を考える必要があると述べました。

続いてのパネルディスカッションでは、JICA研究所の島田剛招聘研究員からそれぞれのパネリストに質問を投げかける形で進みました。現在のアフリカの産業化の現状をどう評価するか、またアフリカはどのような政策を取るべきかという質問に対し、ケープタウン大学のハルーン・ボラット教授は「産業の複雑性」という手法によりアフリカの産業化の現状を分析し、今後の産業化の方向性を予想するとともに、この手法が政策にも使えると述べました。また同じ質問に対して、スティグリッツ教授とともに今回発刊された書籍の編者を務めたコロンビア大学のアクバル・ノーマン教授は、産業政策には多くの種類があり、「産業」だからといって製造業だけにフォーカスして考えるべきではなく、農業の産業化、サービスの産業化も併せて考えていくことによりアフリカの経済発展を達成できるはずであると議論しました。

パネルディスカッションで議論するJICA研究所の島田剛招聘研究員(左)とジョセフ・スティグリッツ教授

また、スティグリッツ教授がGDPに代わる指標として、複数の項目(非賃金労働、健康、教育、ガバナンス、社会、持続性など)により構成されるダッシュボード方式を提案していることに対してどう考えるか、との質問に対し、UNDPのペドロ・コンセイソン人間開発報告書室長は、人間開発指数のコンセプトとの共通点も多く、非常に興味深いアイデアであると述べました。その上で、UNDPが取りまとめる人間開発報告書の編者かつ執筆者でもあるコンセイソン室長は、同報告書が採用している人間開発指数の考え方の背景について説明し、今後、指標を見直すことを検討していると述べました。

最後にJICAにおけるエチオピアの産業政策対話に関わってきた経験からコメントを求められたJICA研究所の大野研究所長は、これまでの政策対話の経験を説明した上で、特にLearningが重要であると述べました。また、東アジアの経済発展モデルを単にまねるのではなく、そこから学んだエッセンスをエチオピアの文脈の中で応用して生かすことにより現在の発展を成し遂げた軌跡を説明し、Learningプロセスや、どのようにLearningを現状に生かすかという視点が重要と強調しました。そして、国際社会への示唆として、ポリシースペースを許容する政策対話に取り組む意義について述べました。

エチオピアの産業政策対話に携わってきたJICA研究所の大野泉研究所長がコメント

質疑応答では、アフリカの政治におけるガバナンスの低さが質の高い成長を阻害しているのではないかとの質問に対する議論が行われるなど、アフリカの質の高い成長への関心の高さがうかがわれました。

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