新しい開発協力のステージでのDACの役割と日本ができることとは?セミナーで議論ー佐藤客員研究員ら

2019.09.20

2019年9月2日、JICA研究所主催のセミナー「OECD DACの役割と日本への期待~グローバルな開発協力の変化への対応~」が、JICA研究所にて開催されました。

基調講演者には経済協力開発機構(OECD)開発援助委員会(DAC)のスザンナ・ムーアヘッド議長を、コメンテーターには森睦也JICA上級審議役、JICA研究所の佐藤仁客員研究員(東京大学東洋文化研究所教授)を迎え、JICA研究所の大野泉研究所長の進行で議論が交わされました。世界の開発協力の構図が変化する中、今回のセミナーでは、特に開発協力への民間資金の動員や新興ドナーとの協調、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた取り組みに焦点が当てられました。

会場の参加者も含め、幅広い視点から議論が行われた

基調講演では、ムーアヘッド議長が「SDGsは、ミレニアム開発目標(MDGs)時代からさらに複雑化した世界の現状を反映しており、アフリカ諸国をはじめとする国々では私たちの想像を超える多くの問題が絡まり合っている」とし、特に気候変動、アフリカでの人口爆発とそれに付随する雇用創出への対応が新たな課題だと述べました。それらに立ち向かうためには、DACは柔軟性や適応力を持ち、ダイナミックでイノベーティブに変容すべきだと強調。さらに DACの存在意義については、「開発援助があくまで被援助国側に利益をもたらすものになるよう、ドナーとしての開発援助のルールを定め、データの収集・分析を通して、DAC加盟国全体の合意を図り、互いに学びあいながら責任を果たすこと」と述べ、民主主義、透明性、説明責任といった価値の共有も重要な役割だとしました。

基調講演を行った経済協力開発機構(OECD)開発援助委員会(DAC)のスザンナ・ムーアヘッド議長

現在DACが直面している課題としては、SDGs達成に向けた資金動員を挙げ、「先進国の民間セクターからの資金動員が必要であり、その実現のためにはイノベーティブな手法が求められている。また、開発途上国においては税収増や債務持続性の確保などに取り組んでいかねばならない」と述べました。また、中国をはじめとする新興ドナーとの協調も課題だとし、中国と対話し、DACの開発協力理念や方向性に理解を示してもらうことが重要だと述べました。

そして、DACの日本に対する期待については、アジアでは世界に類を見ないスケールで貧困削減を達成しており、そのアジアの経験を踏まえ、日本が行ってきたインフラ支援や経済開発が雇用創出・中間層拡大・人材育成の観点から持続的だと注目を集めていると述べました。また、防災分野における日本の多大な貢献も注目に値し、インフラ建設といった大規模な協力と同等にこうした技術協力も非常に大切であること、加えて、日本は開発協力での民間セクターの活用についてDAC加盟国の中でも先進的なアイデアを持っていることに触れ、日本によるDACでの議論のリードに期待を寄せました。さらに、日本は三角協力のパイオニアでもあるものの、その貢献があまり知られていないことが残念であるとし、「日本のアジアにおける経験は世界の他の地域で大いに生かせるはず。今後、より日本の取り組みや知見を積極的に世界に発信してほしい」と述べました。

基調講演を受けて、森上級審議役はファイナンス分野についてコメントしました。途上国の多大な資金ギャップをODAのみで埋めることは不可能で、民間セクターからイノベーティブな方法で資金を調達する必要があること、その実現にはDACの役割が重要になってくることを強調。資金の動員については、先進国から途上国へ資金を動かす方法と、途上国国内の資金をより有効に活用する方法の2つが考えられると説明しました。「前者に関しては、アジアのESG(環境・社会・ガバナンス)投資マーケットは依然規模が小さく、今後どのように活発化させていくかが課題であるため、ESG投資が盛んな欧米のナレッジを活用していくべき。後者に関しては、途上国の国家開発銀行と協力し、途上国内の資金をSDGsに関係する領域へ動員できるよう対策を模索していきたい」と述べました。

ファイナンス分野についてコメントした森睦也JICA上級審議役

続いて佐藤客員研究員は、開発協力を考える上でのキーワードとして、「integration(統合)」と「diversity(多様性)」を挙げました。そして、DACはこれまで規範や統計などを通じて西側陣営の「統合」に努力し、それなりの成果を生み出してきましたが、DACの示す国際的な枠組みに新興ドナーを統合することについては、それが被援助国にとってどのような意味を持つか、という視点が大事ではないかと問いかけました。ドナーに多様性があり、各ドナーが別々に援助の提案を行っている方が被援助国のバーゲニングパワーを高めるため、被援助国にとっては好都合だと考えられるのではないかと述べ、「あえて単純化して言えば、開発協力における多様性の存在は被援助国にとってはプラスに働く面もあることを認識しなければならない。また、そうした多様性のおかげで、開発の定義に多様性が生まれ、開発問題への取り組みに新たな視点が生まれる可能性もある」とコメントしました。

JICA研究所の佐藤仁客員研究員は開発協力の多様性が重要ではないかと強調

質疑応答では、中国のDAC加盟の可能性や中国との対話方法、DACと国連の関係などについて幅広い論点が提示され、有意義な議論が展開されました。

最後に、大野研究所長が「開発援助の多様性は重要で、一定の範囲で許容されるべき。被援助国にとって何が適正なのか、政策の内容から手続きまで、多くの選択肢を持てるようにする必要がある。SDGs達成に向けても、今日の議論からたくさんの刺激を受けることができた」と述べ、セミナーを締めくくりました。

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