JICA緒方研究所

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スポーツを通して南スーダンの国民に結束を—プロジェクト・ヒストリー出版記念セミナーを開催

2019年10月28日

4回目の開催となった2019年の「National Unity Day(国民結束の日)」(写真:JICA/久野真一)

2019年10月17日、JICA研究所は書籍「プロジェクト・ヒストリー」シリーズ第23弾『スポーツを通じた平和と結束—南スーダン独立後初の全国スポーツ大会とオリンピック参加の記録』の出版記念セミナーを開催しました。

南スーダンは半世紀に及ぶ内戦を経て2011年に独立した世界で最も新しい国。同書には、この新しい国である南スーダンにおける全国スポーツ大会の開催とリオデジャネイロオリンピックへの参加支援というスポーツを通じたJICAの二つの取り組みが描かれています。

セミナー冒頭、JICA研究所の藤田安男副所長があいさつし、同書発刊を機にJICA研究所でスポーツと平和に関する研究プロジェクトを開始したことを紹介しながら、「スポーツを通じた国際協力が何を目的にし、どんな効果があるか注目してほしい」と述べました。

JICA南スーダン事務所長だった当時を振り返りながら書籍を紹介した静岡県立大学の古川光明教授

次に、同書の著者であり、JICAによる支援が始まった当時JICA南スーダン事務所長だった古川光明氏(現・静岡県立大学教授)が登壇。紛争に疲れ切って民族間の信頼が希薄になっていた南スーダンの人々を一つにする支援ができないかと考え、南スーダン政府の文化・青年・スポーツ省の人々との出会いによって「National Unity Day(国民結束の日)」と名付けた全国スポーツ大会の開催が実現したことを紹介しました。「この支援を通じて、民族を超えた信頼醸成や、“南スーダン人”としての結束が実現した。スポーツの可能性を秘めた支援だった」と語りました。

続いて、開発と平和のためのスポーツについて研究する大阪大学大学院の岡田千あき准教授、2020年の東京オリンピックに参加する南スーダン選手団のホストタウンとなった群馬県前橋市の文化スポーツ観光部スポーツ課の桑原和彦課長が登壇し、JICA企画部の折田朋美参事役が進行役を務めたトークセッションが行われました。

「スポーツがもたらす力とは何か」という折田参事役の問いかけに対し、古川教授は「民族や国、政治的立場を超えて、規律やチームワーク、互いを尊重し合う気持ちを一瞬で、自然な形で共有できる」と述べました。岡田准教授は、紛争地や被災地、難民キャンプでスポーツを通じた支援を実践・研究してきた経験から「スポーツは苦しい日常から離れ、人々が素に戻れる息抜きの場を提供できる」と応じました。一方、桑原課長は「観光資源が少ない前橋市に、自転車ロードレースやマラソン大会の開催を通じて県外から多数の方に来ていただけるようになった」と地域振興におけるスポーツの力を紹介しました。

左から、JICA企画部の折田朋美参事役、群馬県前橋市の桑原和彦課長、大阪大学大学院の岡田千あき准教授、古川教授

また、スポーツを通じた国際協力を進める上での困難な点や工夫については、「地方自治体としては財政面で限界があるが、逆に一つの地方自治体だからこそ縁があった国に特化して支援できる」(桑原課長)、「スポーツの効果を短期間に数値で表すのは難しい中、研究者として評価を求められるのが大変」(岡田准教授)、「国際協力の中でスポーツは主流ではないが、その本質を見極め、平和構築に貢献できるといった機運を高めていく努力が必要」(古川教授)と、それぞれの立場から言及しました。

さらに「スポーツによる開発の取り組みを持続させていくためには?」という問いかけには、「研究者が客観的に評価し、それを発信していくことが必要」(古川教授)、「多くの日本人が学生時代に『部活』を通じてスポーツに親しんでいるので、スポーツをきっかけに国際協力に巻き込む土壌があるのではないか」(岡田准教授)、「どれだけ多くの前橋市民に『スポーツっていいよね』と思ってもらえるかにかかっている。それが我々の責任」(桑原課長)と応じました。最後に、折田参事役が「JICAとしてもスポーツの力を認識し、触媒となって多くのアクターを巻き込むよう取り組み、それを知ってもらい、振り返ることを重ねていきたい」と締めくくりました。

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