アフリカの多民族社会において“社会的一体性”をどのように醸成していくか—書籍『From Divided Pasts to Cohesive Futures: Reflections on Africa』発刊記念セミナー開催

2019.11.26

2019年11月12日、JICA研究所は神戸大学経済経営研究所との共催で、書籍『From Divided Pasts to Cohesive Futures: Reflections on Africa』の発刊記念セミナーをJICA市ヶ谷ビルで行いました。

JICA研究所と神戸大学による共同研究プロジェクト「アフリカにおける民族の多様性と経済的不安定」では、アフリカにおける民族の多様性と経済的な不安定性の相関性について、経済学、政治学、人類学、歴史学などの学際的な視点から包括的な分析に取り組んできました。その成果として3冊目となる同書籍が、2019年8月にケンブリッジ大学出版局から発刊されました。アフリカ、日本、欧州および北米を研究拠点とする総勢20余名の歴史学者、経済学者、政治学者が連携しつつ書き上げた13本の論文を、デューク大学の日野博之客員研究員(元神戸大学教授、ケープタウン大学客員教授)、KU Leuven大学のArnim Langer教授、ケンブリッジ大学のJohn Lonsdale名誉教授、オックスフォード大学のFrances Stewart名誉教授が、アフリカにおける多民族社会の一体性の過去を振り返り、将来を展望する書籍にまとめたものです。

アフリカの多民族性の強みから世界に共通する課題まで、幅広い議論が行われた

セミナー開会に際してあいさつしたJICAの萱島信子理事は、「多くの国や地域が、民族や宗教などの違いによる社会の分断という問題に直面する中、社会の一体性を高めつつ経済発展を遂げることは容易ではない。今日のセミナーでは、その可能性と課題について、TICADなど国際社会の役割を含めて大いに議論していただきたい」と期待を述べました。

はじめに、同共同研究を主導した日野客員研究員が基調講演を行い、アフリカの多くの地域で民族間や民族内での不平等感が人をより排他的にし、お互いの信頼を失わせ、社会的一体性を損なっている点に触れ、「社会的一体性は、不平等、人々のアイデンティティー、そして他の人やコミュニティーに対する信頼という3つの要素から構成される」と解説。その上で、「アフリカの強みはその多様性にあり、社会的一体性に基づいたボトムアップアプローチこそ、アフリカの国々の経済社会開発にとって最も重要。過去、長い歴史の中で、分断に直面し、学び、社会的一体性を醸成しようとしてきたアフリカの経験は、近年分断を経験しつつある西欧諸国が社会的融和を守っていくために役立つ可能性がある」と述べました。

JICA研究所と神戸大学の共同研究を主導したデューク大学の日野博之客員研究員

続くパネルディスカッションでは、JICA研究所の大野泉研究所長をモデレーターに、アフリカ開発に関わる有識者が知見を共有しました。

大野研究所長が「アフリカが直面している課題は世界の他の地域にも共通するのではないか?」と疑問を投げかけると、川村学園の石川薫理事(元カナダ大使・エジプト大使・外務省経済局長)は、社会における深い分断はアフリカに限られたことではないと指摘。使用言語によって国が分断されているベルギーや、各民族の文化やアイデンティティーを尊重するモザイク国家を目指すカナダなどを例に歴史的視点を示し、「アフリカの事例を見ると、私たちもまた自国の歴史を振り返り、そこから学ぶべきだと気付かされる」と述べました。

国際金融情報センターの玉木林太郎理事長は、OECD事務次長など三度にわたりパリで勤務した経験をもとに、「従来のOECDでは、パリで議論された解決策を開発途上国に伝えればいいと考えられていたが、グローバル金融危機を経て、先進国も途上国も課題は共通だと認識されるようになった」と、国際機関における認識の変遷を紹介しました。

アディスアベバ大学准教授で、東京外国語大学の客員教授を務めるテショメ・イマナ氏は、「アフリカには民族紛争が多いと言われてきたが、現在はだいぶ変わってきている」と認識を変えるよう呼びかけ、「他者への共感や思いやりといった意味の『Ubuntu(ウブントゥ)』という哲学が東アフリカにある。これをアフリカ中に広めることで、アフリカ人同士が学びながら社会的一体性を醸成できるはず」と抱負を語りました。

アフリカ開発に関わる有識者が、パネリストとしてそれぞれの視点から議論を展開

京都大学大学院の高橋基樹教授は、「紛争が続く地域もあるが、その原因は資源の分配の不公正などであり、民族間の問題に起因するわけではないことが多い。多民族が暮らすアフリカでは、すでに共存のためのたくさんの知恵がある。そして資源分配の不公正が問題になることこそ、国家が果たすべき公正さについての人々の認識が強まっている証左で、そこに現代アフリカの希望がある」と、前向きな見方を示しました。

こうした議論を経て大野研究所長は、「アフリカの課題は私たち自身にも共通の課題。すでにアフリカには具体的なグッドプラクティスがあるため、アフリカも他の国々も学びあえる。日本はTICADを通して、これからもアフリカとパートナーシップを築いていきたい」とまとめました。

最後に、神戸大学経済経営研究所の浜口伸明所長が閉会のあいさつに立ち、JICA研究所との10年にわたる共同研究に基づいた既刊の2冊の書籍にも触れ、「我々の研究によって民族多様性と経済発展の複雑な関係の解明が進んだことをうれしく思う。今日を契機にさらに議論を深めたい」と述べ、セミナーを締めくくりました。

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